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参画企業インタビューVol.28

乃村工藝社「空間づくりのリーディングカンパニーとして、人財育成においても社員のクリエイティビティを最大限活かす」

2024.07.24

インタビュー

参画企業

38社の企業・団体が集まり、2023年7月「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム 第3期」がスタート。最先端のはたらき方を模索するトップ企業が「キャリアオーナーシップを企業に根付かせ、中長期的な成長を生み出していくには、どうしていくべきか?」という問いについて、議論・実践・検証を重ねています。
 
参画企業はこのコンソーシアムに何を期待しているのか、参画への熱意をインタビューする企画。第3期の第9弾は、乃村工藝社の人事総務本部 本部長であり執行役員の前島 隆之さんと、人事総務本部 人財開発部 部長の伊藤 智さんに、PAX株式会社代表取締役の伊藤 ナナと、キャリアオーナーシップ リビングラボの伊藤 剛がお話を伺いました。

前島 隆之
コーポレート本部 本部長
マイ・パーパス
会社人:「空間」の可能性を探求しつづける“強い集団”をつくる
社会人:人々の心の豊かさを創造しつづける

機械メーカーを経て、2001年乃村工藝社グループに入社。経営企画や予算管理部門等、さまざまな経営管理部門に従事し、2017年に人事部長、今年度からコーポレート本部長に就任。

伊藤 智
人事総務統括部 人財開発部 部長
マイ・パーパス
会社人:自分らしくイキイキと働く社員が社内外で活躍できる会社作りをする。
社会人:悩みや不安を抱えている人が笑顔を取り戻して安心できる場所に、私がなる。

1992年 立命館大学法学部卒。石油元売会社に入社後、経営企画や販売統括などの業務に携わる。2017年に株式会社乃村工藝社に入社し、事業企画部長を経て2022年3月に人財開発部長へ就任、人財育成・働き方改革を推進している。

INDEX

    トップクリエイターの技術を継承していく
    確かな仕組みづくり

    乃村工藝社さんでは、2023年から2025年の中期経営計画にて、事業貢献の礎として「個の力を発揮する働き方に挑戦する」と書かれていました。どのような背景から事業戦略と、人事戦略が結びついたのでしょうか。

    コーポレート本部 本部長 前島 隆之(以下、前島):我々の会社は、社員一人ひとりのクリエイティビティから生まれたものを売っているに等しいと思っています。ですから、社内の人財が、よりクリエイティビティを発揮できるような体制を創ることは、当然必要になってくると考えています。

    我々の業務は、入札と、指名で「ぜひ、乃村工藝社さんへお願いしたい」とおっしゃっていただける2パターンがあります。昨今、コンプライアンスの問題もあり、入札がマストの会社さんも多いですが、私たちがより人財へ投資していく事で、社員のクリエイティビティが育ち、お客様から指名でご依頼いただける業務も増え、会社の利益にもつながってきます。だからこそ何よりも人財へ投資する、という考えです。

    人事総務本部 人財開発部 部長 伊藤 智(以下、伊藤):従来の乃村工藝社の人財育成の仕組みは、どうしても「一子相伝」といいますか、社内で師匠と言えるようなトップクリエイターが弟子を見つけ、指導して継承するといったスタイルになりがちでした。アーティストや職人の集団だからこそ、自然とも言えますが、会社としては成長の余地があったと考えています。

    そこで、2016年から職種別の人財育成協議会を立ち上げ、職種別に特化した社内講師を軸とした研修を始めています。特に若手に対する育成に関しては、一子相伝だったものを言語化し、ナレッジをまとめる事で、体系的な研修が出来上がりつつあります。特にプロダクトは講座が充実しており、昔にくらべると羨ましく感じるくらいです。社内講師で行った狙いの一つとして、講師を担う事で、指導する側の成長も合わせて目論んでいました。講師経験により「人を育てる」意識を醸成する目的もありましたので、その目的においては、完璧ではありませんが、ずいぶんと育ってきているのではないかと感じています。

    人財育成協議会については、開始から8年目を迎え、ある程度の成果もでてきております。専門職としての教育は進んできましたが、一方で、いわゆる「ビジネススキル」に課題があると考えており、ビジネススキル系の研修を導入しました。まだ導入したばかりですので、これから、より我々らしいスタイルで取り組んでいけるよう、PDCAを回しながら、継続的に取り組んでいきたいと考えています。それが、直近の新しい研修プログラムですね。

    未曾有の人財不足に備えた先手の研修プログラム

    乃村工藝社さんは就活生や中途からも人気の会社ですが、それでもなお、人財育成に力を入れよう思われるのはなぜでしょうか?

    前島:私たちは、空間創造のリーディングカンパニーとして、「優秀な人が応募してきてくれるから、それでいいだろう」とあぐらをかくわけにはいかない、という緊張感は、常に我々の中にあります。これだけ時代が代わりゆくなかで、従来型の「師匠を見て技術を盗め」という指導法では、立ち行かないはずだと。

    現に、職人の現場では人財不足が深刻化しています。2023年、建設業界における有効求人倍率は5.07で、平均と比べて5倍も人手不足となっています。いま、建築、施工の現場に来たいと言ってくださる方が減ってしまっている。その中で乃村工藝社はまだ応募者がいてくださる段階ですが、このまま鷹揚としていたら、いつか人が来てくれなくなるかもしれません。

    こういった流れもあって、現場の技術だけでなくビジネススキルも学べる新しい研修プログラムを導入したばかりです。こういった人財育成をした結果、どのように投資対効果が現れていくかの測定については、次のステップへの課題ですね。

    社員のくつろぎの場であり、議論の土壌であり、
    ラボでもある「リセットスペース」

    続いて、乃村工藝社さん特有の施策である、フレキシブルエリア、リセットスペースなど「場」に関するお取り組みについて、概要を教えてください。

    伊藤:乃村工藝社には、新しいスタイルのオフィスがいくつかあります。特に「リセットスペース」と名付けられたエリアがオフィスに2つあり、この2つ目については「Unique Park」とし、多様な働き方を実現できるよう、また、環境面での配慮など、社員発想ならではの面白い試みを取り入れています。

    たとえば、あえて角材をそのまま活用したベンチは、必要であればそのまま搬出し、資材にできるような仕掛けもしていて、この空間全体が使用木材100%フェアウッドを実現しています(フェアウッドとは、一般財団法人地球人間環境フォーラム、国際環境NGO FoE Japanが提唱すしている、伐採地の森林環境や地域社会に配慮した木材・木材製品のことです)。

    他にも、「ユニーク・ピーポー・セレクション」というコーナーでは、自分よりユニークな人を数珠つなぎに紹介していく他己紹介ツールで、社員同士が部署を超えて知り合うきっかけを作っています。コロナ禍で、在宅勤務も増えましたが、このコーナーを見る為に必ずここに週1回はくるようにしている。といった声もあり、社員の交流のきっかけづくりやエンゲージメント向上に寄与するとても良い取り組みだと思っています。

    また、スープストックトーキョーさんの商品をランチに食べられるようにしたかったのですが、そういった自動販売機はなかったので、自社で購入し、自分たちで直接商品を仕入れて販売しています。他にもオリジナルの自動販売機や、角打ちスペースもあり、カジュアルに議論や打ち合わせができたり、終業後に社員同士がコミュニケーションをとる場として活用されています。さらに、リセットスペースでは社員の実験的活動の発表の場として、産官学連携の取り組みとして、無垢材等を用いて内装空間が人にもたらす効果の実証実験をするためのスペースを設置したり、単なる個性的な場というだけでなく、制作物を試す”ラボ”の役割も果たしています。私達は決まった「商品」というものを持たない会社ですが、今はこのリセットスペースが「企画を含めた商品」として、ショールームの役割を果たしており、多くのお客様に来て頂いています。この空間は、会議スペース・ラボ・ショールーム・社員交流の場と、様々な役割を担っていると思います。

    前島:このリセットスペースを創るときは、社員の声をなるべく取り入れました。コアメンバーが中心となって企画から設計、施工まで、総計100名以上の社員が参画しています。システマティックに公募する仕組みがあるわけではないのですが、社員がこういった取り組みに対して、自発的に参画する文化がありますね。みんなが前のめりになって「こうしたらいいと思う」「私なら、これができる」といった意見が集まります。
    乃村工藝社の行動指針の中に「随所に主となる意欲」というものがありますが、このプロジェクトはそれを体現していたと思います。
    昔から、やりたいと思った仕事を自分が取ってきて良い、という風潮があるため、やりたいけれども足踏みする、といったことは少ないように思います。

    中長期経営計画に300人を巻き込み、
    次世代の経営者候補を育てる

    伊藤:それこそ、中期経営計画の策定においては、役員だけのクローズな場でも作れるとは思いますが、巻き込みが甘いと実行時点でうまくいかないケースもあります。その為、次世代育成も踏まえ、ある選抜メンバーを指名し、そのメンバーを中心に、多くの人を巻き込んで進めています。現在の中計は、タスクの実行メンバーも含めると計300名近くが関与しています。現在、人事制度についても現場を巻き込みながら構築中ですが、人事制度こそ、社員のみなさんがこれから実際に使っていくものですから、制度についてリリース前に積極的に多くの声を聞くべきだと思っています。

    昔はもっと、人事制度については人事部だけで決めていく、という時代もありました。しかし、そうすると制度を刷新しても誰も活用せず、形骸化する事例が見られた。そこから、今のどんどん人を巻き込む仕組みに変わりました。

    300人を巻き込んだということですが、どれくらい権限委譲はできているのでしょうか。

    前島:たとえば、中長期経営計画を社員のみなさんへ発表する場づくりにおいても、「東京と大阪で開催する」ということまでは知っていましたが、それ以上の中身は社員に全部任せていました。極端な言い方ですが、私は発表の当日、指定された場所に行っただけです。何でしたら、私自身も発表を楽しむ側でした。

    ここまで権限委譲したのは、中長期経営計画のプレゼンは役員が満足するための会ではなく、社員のための場だからです。我々が口出しをするより、自分たちのためになる発表を考えてもらうことで、よい場になったと思います。

    「誰が、どのタイミングで、どういう話をすれば、みんなが中長期経営計画に納得してくれるか」を社員自身が考えて実行するからこそ、インパクトが生まれたと思っています。実際今期のサーベイでは、ミッションビジョンへの理解度・共感が90%近い数値結果となり、私たちも驚いています。

    スピード感よりも納得感 
    部署を超えてカジュアルに意見交換できる場を人事が用意

    そこまで「みんなの声を取り入れる」ことが自然と文化として根付いている乃村工藝社さんにおける課題をあえて挙げるとしたら、何でしょうか。

    前島:そうですね……スピード感でしょうか。みんなの意見を聞くということは、それだけ決定が遅くなるということでもあります。根回しと言うよりはヒアリングですが、本当にさまざまな意見を集める。乃村工藝社の業務は管理部門と現業部門に大きく分かれるわけですが、その間を取り持つことも多いですね。

    「現業と管理の風通しを、もっとよくしたい」という提案が入ったのは、前回の中長期経営計画を作っていたときでした。若手からの声でしたが、我々もそれを重く受け止めまして。新しいことを始めるときは管理部門・現業部門を両方招いて、フラットに議論しながら企画を作っていく流れを作りましたね。

    その結果として、何事も両部門の意見を聞いてから動くので決定のスピードが下がっているのかもしれませんが、メリット・デメリットを踏まえても、今のように部署を超えて話し合える制度を持つほうが、乃村工藝社にとってはいいのではないかと思っています。

    伊藤:現在、人事制度の構築プロセスでは、役員同士のワークショップを開き、その後に現業の方からの声も聞き、相互の間を調整しながら進めています。そういった場を設ける事により、闊達な議論の土壌が生まれるように思います。「納得感」がとても重要だと思っていますので、社員が楽しんで取り入れてくれる仕組みを今後も作っていきたいです。

    人事の様々な施策やエンゲージメントについては、ここ3年間継続的にアンケートを集計しています。まだまだ道半ばですが、最終的には「この施策をやったから、エンゲージメントがこう上がる」といった関係も明らかになるとよいですね。

    次の次の経営者を育てるための布石として、
    多くの人を巻き込んでいく

    どうしてそこまで、若手から中堅社員も巻き込むのでしょうか。

    前島:次の次の経営者を育てたいからです。上層部を見ていただいて「あなたたちが、トップ層になったとき、こういうことをやるんだよ」という姿を継承したい。中長期経営計画では70以上のタスクをリストアップしました。これは、まさに若手から中堅の社員が抱えている「これを乗り越えないと、社として成長していけないよね」というボトルネックのリストでもあるわけです。

    それを提案してもらうことで、自分の仕事を自分ごと化していただく。そのうえで、解決するための施策づくりにも入っていただくことで、経営者になる準備をしていただく。それが中長期経営計画を創るプロジェクトにおける、多数の方を巻き込む意義であると考えています。

    伊藤:ジェンダーバランスの話もありますね。かつて、うちの業界は男社会でした。現業は特に男社会で、職人に揉まれて育つ場でした。覚悟して入社してくれた女性もいましたが、やはり現場でギャップを感じて、辞めてしまう方も多かったのです。

    現在も、男女比率に偏りはありますが、これから管理職になる方には、女性もより増えていくでしょう。そうなったときに、若手を巻き込むことで、女性管理職候補の方に経験を積んでいただくチャンスも与えたいですね。

    前島:今後の挑戦としては、いかに未来志向の社員を採用・育成していくかということです。現状のオペレーションを完遂することに力を注ぐ方と、未来を作っていくために改革していこうというタイプがいます。後者の人財を増やすことで、世の流れをリードできる人財育成ができればと願っています。

    以前より、そういった未来志向の社員が、世間で流行するよりも早く「とりあえず、スーパー・フレックス制度をやってみましょう」「サテライトオフィスを作ってみましょう」といった提案をしてくれていました。思い切ってやってみよう。どれくらい効果があるかはわからないけれど、といった見切り発車ながら時代を先駆けた提案によって、社員のエンゲージメントをさらに高めたり、社外にも発信できるプロジェクトが生まれたりしていました。

    今後も、同様にリーディングカンパニーとして面白いと感じていただけるような制度を導入していきたいですし、人財育成制度においてもクリエイティブでありたいですね。

    構成:伊藤 ナナ・杉本 友美(PAX)
    企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)

    コラム「個の力を発揮する働き方に挑戦する」
    「創造力と実行力を発揮する人財を育成する」を
    中期経営計画で全社テーマとして取り組む

    乃村工藝社では、2023年度に中期経営計画を発表した。この3か年で取り組むテーマとして「個の力を発揮する働き方に挑戦する」「創造力と実行力を発揮する人財を育成する」を掲げた。本テーマは、新中計策定に向けた選抜メンバーからの意見も反映され、経営と現場で相互に定めた内容となっている。新ビジョンも掲げられ、クリエイティビティを中心とした取り組みを実践していく。

     

    NOMURA REPORT(PDF)

     

    株式会社乃村工藝社 経営方針

    2023-2025 中期経営方針

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