創業からずっと変わらない
「人財を大切にするコアバリュー」
アフラック生命保険(以下、アフラック)さんは、アメリカで創業した1955年以来、「人財を大切にするコアバリュー(人財を大切にすれば、人財が効果的に業務を成し遂げる」という考え方を受け継いでいるそうですね。今年、日本での創業からちょうど50周年を迎えるとのことですが、この考え方に変化はありましたか。
人財戦略第一部 人財戦略企画第二課長 佐柳 みすず(以下、佐柳):会社を取り巻く環境は大きく変化してきましたが、「人財を大切にするコアバリュー」という考え方は変わっていません。この考え方は、1955年の米国での創業から脈々と受け継がれているものであり、1974年に日本で創業してから現在に至るまで、当社の人財マネジメントに関する全ての基本となっています。
もし、これまで個人的に「人財を大切にするコアバリュー」を実感した経験があればお聞かせください。
佐柳:私が最初に「人財を大切にするコアバリュー」が根付いていると感じたのは、入社前のことです。私は1996年に新卒でアフラックへ入社しましたが、当時はまだ「男性は総合職、女性は一般職」という考えが根強い企業もたくさんありました。しかし、当社は、当時から男女関係なく、全員総合職として採用しており、また、自分らしくいきいきと働き、成長していきたいという考えを尊重してくれたことに、他社との違いを感じ、とても感動したのを覚えています。入社してからも、会社が「人財を大切にするコアバリュー」を体現していると実感したことは数知れずあり、だからこそ、自分ももっと成長したい、貢献したいという想いで仕事と向き合えることが、当社の良いところだと感じています。
人財戦略第一部 人財戦略企画第二課 課長代理 相原 彗哉(以下、相原):私は2016年に新卒で入社しました。正直に申し上げますと、就活をしていた際はアフラック以外にも志望している企業があったのですが、まさに「人財を大切にするコアバリュー」を実感したことが、アフラックへの入社の決め手となりました。
具体的な場面を1つあげると、内定をいただいた後の採用担当の方の対応です。囲い込みをするのではなく、「納得できる就活ができるよう、他の企業の選考も頑張ってください」と後押しをしてくれたり、誕生日に連絡いただいた際には一言お祝いの言葉をくださったりなど、些細なことかもしれませんが、心から一人ひとりにしっかり向き合っている姿勢を感じました。
こうした事例は特別なものではなく、社員一人ひとりが、様々なタイミングで「人財を大切にするコアバリュー」を実感した経験を持っていると思います。今年、アフラックは日本での創業50周年を迎えますが、会社として人財を大事し続けてきたからこそ、ここまで成長できたのだと感じています。
お話を伺っていくと、「人財を大切にするコアバリュー」が本当に文化として根付いていることがよくわかりますね。これを踏まえて、当コンソーシアムのテーマにもなっている「キャリアオーナーシップ」に関する取り組みについて教えてください。
佐柳:現在の人財マネジメント制度の理念の肝でもあり、当コンソーシアムのテーマにも通じる「主体的なキャリア形成」についても、「人財を大切にするコアバリュー」をベースに取り組みを進めています。
会社と社員はWin-Winの関係であるべきだ、というのが「人財を大切にするコアバリュー」の本質的な考え方です。「大切にする」というと、異動や育成も何もかもすべてを会社が面倒を見てあげる、というように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。そもそも、超VUCAと呼ばれる変化の激しい時代でもありますし、会社が一人ひとりに「あなたはこういう強みがあると思う、だから次の異動先はここにしましょう。そうすれば、あなたはもっと成長できるはずです」といったように、すべて手取り足取り案内することは現実的ではありません。社員にとっても、自分で自分の将来をつくっていく、という実感は得られないですよね。
そこで、社員がどんな方向へ成長したいかを自律的に考え、そのためにどう行動するか考える機会を、キャリア開発計画書(CDP)や上司との1on1などでの対話を通じて提供しています。そして、社員は会社が提供する育成プログラムを積極的に活用したり、上司はその支援やアドバイスを行ったりすることで、会社と社員のWin-Winの関係を目指しています。
相原:“アフラックは社員全員に対して平等に機会を提供する。そのうえで、会社の理念やパーパスに共感し、自ら行動しようという人がその機会を活かしてチャンスをつかんでいく。”というメッセージですね。このような考えをベースとし、2021年に管理職、2022年に一般社員に対して、職務等級制度を基軸とする人財マネジメント制度を導入しました。この新しい人財マネジメント制度の理念は「社歴・年齢・性別に関係なく、意欲と能力のある人財が、自律的に働き、最大限に力を発揮しながら、主体的にキャリアを構築できる環境を実現する」というものですが、要するに年功的な意識を払しょくし、社員の主体的なキャリア形成を支援することを目的としています。今は、この新しい人財マネジメント制度のもとで、様々な取り組みを進めているところです。
すべての職務を職務記述書に明文化し、
人財一人ひとりにしっかり向き合う仕組みの実現
具体的には、どのような施策を実施されていますか。
相原:まず、新しい人財マネジメント制度の導入に合わせて、社内の全てのポスト(約1,400)に対して、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を作成しました。ジョブ・ディスクリプションは、ともすれば職務グレードを決めるための形式的なものになりかねません。しかし当社は、主体的なキャリア形成のためには、まず社内にどのような職務があり、それにはどのようなスキルや経験が求められるのかを明らかにする必要があると考えました。そのため、ジョブ・ディスクリプションは社長のものから新入社員が担うような職務に至るまで、すべてを社内に公開しています。
佐柳:現在管理職や経営層にある社員にとっては、「ジョブ・ディスクリプションに記載されている職務が遂行できているのか?」と周囲や部下からも見られるわけですから、いい意味での緊張感が生み出せているとも感じています。
また、大事なこととして、ジョブ・ディスクリプションが公開されたことで、将来望む職位、職種に就くためには、自分が何を努力すべきなのかが明確になりました。まさに主体的なキャリア形成に向けた基盤ができたのだと思います。
そしてこのジョブ・ディスクリプションをベースに、意欲ある社員は、先ほど少し触れたCDPを作成しています。CDPを活用しながら、社員一人ひとりの目指すキャリアやそれに向けた能力のギャップを明確化し、上司と対話しながら能力開発を行っていく仕組みを構築しています。このCDPは、作成を任意としているにもかかわらず、管理職も含めて約9割の社員が作成あるいは作成しようとしています。社内に主体的なキャリア形成が徐々に根付いていることを示す、1つの指標だと考えています。
加えて、目指すキャリアを実現する機会を増やすために、ジョブ・ポスティング、いわゆる社内公募制度も拡充しました。これにより、社員は現在のグレードより上位のグレードにも挑戦することが可能になりました。課長や支社長といった管理職のポストも募集されていますので、一般社員がジョブ・ポスティングを通じて管理職にチャレンジすることもできます。その結果、制度拡充後の2021年は、2020年の約3倍となる721人の応募があるなど、多くの社員が新たなキャリアに挑戦しました。
相原:一点補足しますと、アフラックはすべての異動をジョブ・ポスティングで実施しようと考えているわけではありません。例えば、若手のうちは会社のコアビジネスを理解し、自身の適性を見極められるよう、あえて会社主導で部門をまたぐ異動を実施する方針を打ち出しています。一方で、ITやアクチュアリー(保険数理)といった専門性の高い領域においては、若手も含めその領域で専門性を伸ばしてもらうようにしています。そういった意味では、いわゆる「メンバーシップ型雇用」と、「ジョブ型雇用」のいいとこ取りをさせてもらっている認識です。ですから、社内でも「ジョブ型」という言葉はあえて使わないようにしています。
アフラックの変革のきっかけとなった「危機意識」
これまでも様々な施策を実施されてきていますが、それに満足することなくさらなる高みを目指しているように感じます。アフラックさんがさらなる高みを目指す原動力はなんでしょうか。
相原:一言でいえば、「危機意識」があるからではないでしょうか。多くのお客様の負託や信頼に応え続けていくために、当社は成長し社会やお客様に価値を提供し続けなければならないと考えています。社会環境や当社のビジネス環境が激しく変化する中で、機動的かつ柔軟な業務運営を通じ価値を創出していくためには、「人財」が重要です。会社の戦略を考えるのも実行するのも「人財」ですから。
例えば先ほどからお話している新しい人財マネジメント制度の導入も、こうした危機意識をきっかけとしています。昔の人事制度はいわゆる職能等級制度で、「そろそろ昇格の時期だね」といったようにどこか年功的な運用が行われていました。本人の意欲や能力ではなく、社歴や年齢等で社員を判断している状態で、人財一人ひとりの力を最大限引き出し、世の中の早いスピードに対応できるのか。そうした意識を払しょくするため、新しい人財マネジメント制度では社歴や年齢、性別に関係なく、意欲と能力のある人財がチャンスを得ることができる仕組みとしています。
主体的なキャリア形成支援を通じて一人ひとりの力を引き出すための取り組みに、終わりはないと考えています。これからもPDCAを回しながら、さらに取り組みを進めていきたいですね。
本日お話しいただいている、佐柳さんも相原さんも新卒からアフラックさんにいらっしゃいます。うがった質問ですが、社員の主体的なキャリア形成の意欲がこれほどまでに高いのは、アフラックさんが新卒至上主義だからでしょうか。
佐柳:当社は新卒と中途入社の割合は半々くらいで、社歴や年齢、性別に関係なく、意欲と能力のある人財がチャンスを得ることができる、という考え方のもと人財マネジメントを行っているので、新卒至上主義という考え方は存在しません。新卒でも中途入社でも、当社の「コアバリュー(基本的価値観)」に共感し、会社で貢献したい、という想いは共通ですし、チャレンジする機会は誰にでもあります。他社で働いたことがある中途入社の社員からは、入社してみて、会社を好きな社員が本当に多いということに驚いたという声も聞かれたりしますが、年1回全社員に実施しているエンゲージメントサーベイで「会社の理念に共感している」という社員の割合は、新卒・中途関係なく、非常に高くなっています。こうした点は、当社の誇れることだと思います。
相原:主体的なキャリア形成に向けた意欲醸成に向け、コアバリューへの共感をベースとしつつ、当社は「自分を創る。未来を創る。」というタグラインを掲げ、人財育成プログラムを整備しています。これは、自らが成長し続けることで、アフラックの持続的成長を実現してほしい、という想いを表したものです。
人財育成プログラムをはじめとした、人財マネジメントに関する様々な取り組みは、社長をトップとし各部門を統括する役員で構成される「人財マネジメント政策委員会」で議論しています。「人財マネジメント政策委員会」は2週間に1度の頻度で開催しているのですが、こうしたことからも、当社が経営として人財マネジメント戦略に力を入れていることがお分かりいただけるかと思います。
事前に根回しをして、すでに決まったことを合意するための会議ではなく、その場で議論するのですか。
佐柳:そうなのです。社長や役員自らがこれだけの熱意を持って議論されることによって、人財マネジメント戦略の実行性・実効性が確保できていると感じています。だからこそ、私たちも、人財マネジメント戦略をどのように実現するか、社員一人ひとりの力を最大限引き出すために何ができるかを真剣に考えていかなければと、身が引き締まります。
相原:人財マネジメント戦略の実行性・実効性を確保するには、経営だけではなく社員にも目を向けることが重要です。そこで、人事部門を担当する役員や部長が一般社員と少人数で議論する、「リアルな場」で「リアルに語る」ダイアログ、略して「りあろぐ」を、2023年は約250人に対して実施しました。6人前後の少人数で対話しながら、どんな質問にも真剣に役員や部長が向き合う。今後もこうした取り組みを継続し、「人財を大切にするコアバリュー」の理解浸透に努めていきたいと考えています。
強制はせず、あくまで社員の「主体性」を引き出すことに
チャレンジしたい
今後さらに発展させたい施策、チャレンジしたいことがあれば教えてください。
佐柳:先程、CDPを作成あるいは作成しようとしている方が約9割と申し上げました。しかしながら、実際に作成が完了している社員はまだ全体の半数程度です。その意味では、4割くらいの社員は作成しようという思いはありながら、まだ迷いを抱えているとも考えられます。彼らに「CDPを作りなさい」と会社が強制すれば、表面上の作成率は向上するでしょうが、それは主体的なキャリア形成の「主体的=自分が主体となる」部分と矛盾してしまいます。また、キャリアは上の職位(グレード)を目指す方向だけではなく、今の自身の職位でどのように活躍していくか、という方向で考える社員もいます。こうした様々な考え方の社員に対し、どのように主体的なキャリア形成を推し進めていくのか、そのためにどのような支援や後押しが必要なのかについては、これからもしっかり考え続けていきたいです。
相原:当社は、「ISO 30414(人的資本の情報開示に関する国際的なガイドライン)」を、8社目に認定された企業となりました。また、「健康経営優良法人」といった公的な認定もいただくことができています。当社の取り組みを積極的に社外に伝えていくことを通じて、社内外のステークホルダー・エンゲージメントに努めていく。そうしたことにチャレンジしていきたいと思います。
アフラックさんは、厚労省から人的資本経営のモデルケースとして紹介される、先進的な会社です。今回ご参画いただいた「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」もまた、アフラックさんでの取り組みを他社さんへ共有する意図はありましたか。
相原:ありがたいことに様々な機会をいただいておりますが、当社の取り組みはまだまだ道半ばだと考えています。その意味で、本コンソーシアムに参加する他社様との交流を通じて、自社の取り組みを客観視したいと思っていました。どうしても人事は内向きになりやすい仕事ですから、「社外を知り、外に目を向ける」ということは非常に重要だと思っています。今後、コンソーシアムで得たものを、社内へも還元していきたいですね。
構成:伊藤 ナナ・杉本 友美(PAX)
企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)