お客様の共創パートナーになるために必要なキャリアオーナーシップ
「キャリアオーナーシップが、社会を動かす。」というメッセージを元に「はたらく個人と企業の新しい関係性」について考える当コンソーシアムですが、三井情報さんが今回参加を決意された理由を教えてください。
取締役 副社長・秦 健二郎(以下、秦):本コンソーシアムへの参画を通して、参画する企業同士が業界・業種の枠を超えて様々な知恵を出し合い、会社と個人のより良い関係性を考えていく機会になるのではないかと考え、参加を決めました。
三井情報はまだキャリアオーナーシップに関しては、やっとスタートラインにつこうとしている状況です。弊社の中でキャリアオーナーシップというのはどうあるべきかを明確化して、事業の成長、会社の成長に繋げていきたいと考えています。
今までは受託型で、お客様の要望を聞いてシステムを開発することも多かったのですが、IT業界全体が、デジタルトランスフォーメーション(DX)というキーワードを軸に、もの凄いスピードで変化していく中で、自ら考え、次の行動を起こす、そんな会社に変わっていく必要があります。
また、これからは、お客様と共に価値あるものを創り上げていく、つまりお客様と「共創」ができるパートナーになる必要があります。
そのためには、自主自律で主体的に考えて行動に移していくことが、会社全体として必要だと思っています。社員一人ひとりが、業務についても、自身のキャリアについても、主体的に判断して、行動できるようにしていきたいのです。
ただしそのような変化を促すために具体的に何をしていけばいいのか、まだ十分に見えていないところに課題を感じており、コンソーシアムへの参加を通じて、参画企業と一緒に考えていきたいと思っています。
秦さんはおよそ10年前に三井情報に着任されたと伺っています。この10年、IT業界を取り巻く変化がとても激しかったですよね。社内の人事制度に関する変化もたくさんあったのではないでしょうか。
秦:そうですね、この10年の間で業績も人事制度も大きく変わっています。私が着任した2012年は、実は業績が右肩下がりの時期でした。これを何とかしなくてはいけないということで、色々な施策をその頃から始めました。
ITの世界はいわゆる「人が仕事を創っていく」業態です。業績を上げていくには、新卒、中途共に採用数を増やしていく必要があります。ただ、最近は日本の社会も労働市場の流動化が進む中で、規模を大きくしていくためには、社員から見ても外から見ても魅力のある会社にしていかなければ、なかなか会社が選ばれないわけです。
そのような変化の中で、社員が働きやすくなるためにはどうしていく必要があるのかということを、業績回復を目指しながら、社内で色々と議論してきました。
その中で、経営戦略の一つのアイテムとして「人事戦略」があったわけです。その間、少しずつですが、様々な人事施策を重ねてきました。
そのおかげと言っていいのか、特にここ数年の業績が好調で、上昇カーブを描いています。生産性が上がらないと会社として良い経営はできないわけですが、やはり社員のモチベーションが上がっていかないと、生産性は上がりません。本当に価値を創造できる企業になるためには、一人ひとりが本当にモチベーション高く、お客様と向き合うことが大事だと思っています。
先ほども「共創」というキーワードが出ていましたが、お客様と一緒に価値を作っていくためには、社員のみなさまにどんな資質が必要になってくるでしょうか。
秦:お客様と一緒に価値創造をするためには、人の気持ち、人の考えていることを理解できる人間であることが大事です。
自分の思いだけで、やりたいことだけをひたすらやるのではなく、周りにいるお客様や社員同士、パートナー企業の方々であったり、周囲の人達はどんなことを考えていて、どんなことをしようとしているのかを聴いて理解する。理解した上で自分が持っている知見、身に付けてきた技術によって「こんなことが出来ますよ」「ぜひこうしましょう」という風に主体的に提案して、それを仲間たちと創り上げていくような人たちをこの会社の中で増やしていきたいですね。
「私(社員)」と「私たち(会社)」を有機的につなぐ機会を
人事の現場の目線からすると、経営と人事が近い体制はどういう点がプラスに働いていると感じますか?
人事総務統括本部 グループ人事総務部 人材開発室 マネージャー・山田 美夏(以下、山田):弊社の中期経営計画にもプロ人材の育成や人材基盤の強化が掲げられている中で、経営と人事、さらには部門人事が一体になって企画を推進できることが、各種人事施策のスピード感ある実行にも繋がっています。
経営と人事の繋がりに絡んだ話でいうと、2年前に「MKI人材基本方針」を制定しました。これは、会社が期待する人材像と社員の自律的な成長を促す、人材育成に関する全社の基本方針です。例えば全社の共通研修や人事ローテーション、評価の考え方、育成のガイドライン等、全社員共通の基本方針が書かれています。そして、部門の中での人材育成に関する実行責任者を置いて、営業、技術、コーポレート、それぞれで育成を行っていくという方針を定めています。
弊社は人材育成を、このMKI人材基本方針に掲げた人材像に向けた、社員一人ひとりの成長を会社が支援する取り組みと位置付けています。教育体系を構築する際には全て人材基本方針に根差して策定できるようになり、施策の推進が非常にしやすくなったと感じています。
人材基本方針を軸にしながら様々な取り組みを行っているとのことですが、特に重点的に行っている取り組みはありますか?
山田:社員一人ひとりの成長を会社が支援する取り組みとして、「キャリア自律」をテーマにした施策を行っており、従来型の役割転換を主体とした教育体系や一人ひとりが自律的に学び続ける教育体系等、時代のニーズに合わせて整備しています。中でも、昨年からスタートした公募制のキャリア開発に関するセミナーは、今年「MKIキャリアフォーラム」と名前を変え、コンソーシアムのファシリテーターを務める田中研之輔先生をはじめとして、この6月から毎月1回のペースで様々な有識者の方に登壇いただいています。
従来型の研修ですと、階層や職種別、世代別で実施されることが多いですが、キャリアフォーラムは雇用形態、性別、世代、職種問わず、弊社グループで働く人全てを対象にしています。主体的に自身のキャリアや人生と向き合う機会をつくることで、自ら率先して変化を起こすきっかけとなることを期待して企画しています。今年6月の第1回目は約270名が全国各地からオンライン参加し、アンケートでの参加者の満足度も最終的な集計で97.7%と、大変好調な滑り出しとなりました。
その延長で、学びを促進するために、同じく公募制のオンライン学習も実施しており、募集開始3日間で定員の上限に達するなど盛況です。社内でコミュニティチャネルをつくり、お役立ちコンテンツや、お薦めの学び方を受講者同士が共有することで、主体的な継続学習を促しています。今後は同じテーマで受講者同士が学ぶ機会を提供する予定です。
素晴らしい取り組みですね。その良質なインプットを社員の行動変容につなげられると更に発展しそうですが、キャリアフォーラムやコンソーシアムの研究会などを通じて今後につながるヒントは見つかりましたか?
山田:色々ありますが、特に「キャリアの成否を決めるのは自分自身で、特に心理的成功がすごく重要」という、法政大学・田中研之輔先生のお話が印象に残っています。
これまでは特に組織内キャリアがすごく重要視されてきましたが、画一的な昇進だけをモチベーションとするのではなく、所属する組織においても自分自身の仕事の意味付けを行い、何かを学びとろうという前向きな意識で取組むことの重要性も大切だと思います。
弊社の人事制度では、会社が社員に期待する将来像と、社員の能力・強みに応じたキャリアパスとして、複数のコースを設けています。社内でキャリアを築いていくにあたっても、どのように自らが価値を見出し、どのように力を発揮していくのかを一人ひとりが考えて行動することも必要ですし、それを組織としてサポートすることも大切だと感じています。
組織に属する以上、実際のアサインメントは希望通りにいかない事も時にはあるかと思いますが、仕事の意味付けを行い、自分が所属する組織で常にベストを心掛けることや変化を恐れず楽しむことが、個人と組織のより良い協働・共創を育み、会社の成長と自身が目指すキャリアの双方を実現できると信じています。
自分のやりたいことだけを追求されても組織としてのバランスが取れなくなる、その辺のジレンマというのがあると思います。会社が目指すベクトルと社員のベクトルのバランスをとっていくためには何が重要だとお考えですか。
秦:会社の目指すベクトルと社員が目指すベクトルをすりあわせながら、適切なフィードバックを与えられる評価者の育成が大事だと考えています。
弊社ではすべての等級において「人材育成」を評価項目として設定していますが、特に評価者となるライン管理職には「後継者育成がマストである」という意識付けをしています。
評価する仕組みは作っても、評価者が適切に運用できないと、面談をする時に、評価を受ける方は納得できないでしょう。そのため、より多くの評価者が、育成の目線を持って、評価されている部分、頑張ってほしい部分を具体的に説明できるように、評価者用のマニュアルや研修などを充実していく必要があります。
評価面談では、評価者がこれからのキャリアなども聞いて、次の異動に役立てるようにしたり、仮に社員にとって思いがけない異動があったときにも、会社としてどんな成長をしてほしくて、どのように力を発揮してほしいから配置したのかを、しっかりと説明をしていく必要があります。私自身のキャリアもそうでしたが、1つ1つの与えられたポジションで一生懸命仕事に打ち込むうちに、次のキャリアというのは出来てきますし、みんながそれぞれの持ち場で力を合わせることで、会社としての力を最大限発揮できるようになると思っています。
山田:評価の仕組みの他には、自分達がどういう会社にしたいかを、経営企画部門が主体となり、「全社ワークショップ」と称して組織を超えて議論する取り組みを数年間やってきました。
この中では、会社の将来を考えそのために大事にしたいことを議論したり、みんなでキャッチコピーをつくって全社投票をするなど、毎年テーマを決めて実施してきました。全社員の参加が必須だったため、昨年度は約2,000名・計70回開催されましたが、普段の業務中には話さないような会社に対する自分の想いを共有することは、一人ひとりのモチベーションを上げて、より力を発揮していくために効果があるのではと、やってみて分かってきました。
研究会でのインプットや、他社様との対話を通じて今改めて強く感じているのは、一人ひとりがやりたいと思うこと、頑張りたいと思うことが、会社のベクトル・方向性と合っているとものすごい力が出るということです。
キャリアオーナーシップは「私」という主語で、自分ごととしてキャリアを捉えるということですが、同時に、会社の一員として「私たち」という主語で考えることも大事で、会社について対話する場は、社員一人ひとりの思いと会社の思いの両方を連携させ、有機的に繋げる機会になるのではと期待しています。
業界の枠組みを超えて様々なアイディアが生まれる場を
「自分でキャリアについて考えて行動できる会社」づくりを実現するために、コンソーシアムに期待していることを教えて下さい。
山田:コンソーシアムで社会に対する提言レポートを創って発信していきたいと田中研之輔先生も仰っていますが、各社と議論をしながら「提言」を創っていくことへの期待感が強いです。
あわせて、会社の未来と自分の未来に関して対話する場を創ろうとか、キャリアオーナーシップを客観的にチェックする仕組みを創ろうとか、様々なアイディアが生まれる場になることを期待しています。例えばですが、業界の枠組みを超えて活用できるようなキャリアオーナーシップを発揮するためのツールのようなものが生まれて、社内に還元することができればいいなと思っています。
秦:ITの世界は変化が早いので、古い事業の多くは縮小の方向に向かいます。その分、新しいものを積み上げていかなくてはなりません。しかし新しい技術は、誰かが与えてくれるものではなく、自分たちが「これが必要だ」「これをやっていかなければいけない」と能動的に考えて、行動していかないと身に付きませんし、新しい世界に必要とされる価値も生まれません。
キャリアオーナーシップというのはこれを達成するための一つの手段ですし、コンソーシアムでの各社との交流や対話を通じて、実現のヒントを得ていきたいと考えています。
構成:河原あずさ・西舘聖哉(Potage)