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参画企業インタビューVol.11

ゆうちょ銀行「誰ひとり取り残さない精神」を持った銀行の「働きがい向上」とキャリアオーナーシップ

2023.02.07

インタビュー

参画企業

23社の企業・団体が集まり、2022年7月「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム 第2期」がスタート。最先端のはたらき方を模索するトップ企業が「キャリアオーナーシップを企業に根付かせ、中長期的な成長を生み出していくには、どうしていくべきか?」という問いについて、議論・実践・検証を重ねています。
 
参加企業はこのコンソーシアムに何を期待しているのか、参画への熱意をインタビューする企画、2期目の第3弾は、ゆうちょ銀行様の専務執行役 矢野 晴巳さんと、常務執行役の田中 隆幸さんに、PAX株式会社代表取締役の伊藤ナナとキャリアオーナーシップ リビングラボの伊藤剛がお話を伺いました。

矢野 晴巳
専務執行役

1984年日本興業銀行入行。みずほコーポレート銀行管理部室長、みずほ証券総合企画部経営調査室長を経て2010年経営調査部長。2011年ゆうちょ銀行コーポレートスタッフ部門調査部長、執行役、常務執行役を経て2019年から現職。

田中 隆幸
常務執行役

1981年郵政省入省。営業部門営業企画部担当部長、同チャネル企画部長、同営業第三部長、同営業統括部チャネル営業室長、執行役を経て2019年より現職。

INDEX

    中期経営計画で進める、ゆうちょ銀行の働き方改革

    ゆうちょ銀行さんは2021年に「中期経営計画(2021 年度~2025 年度)」を策定されました。その中でESG経営推進の一環として、社員の働きがい向上、ダイバーシティマネジメントの推進、柔軟な働き方の拡大などに取り組んでいらっしゃいます。働き方改革への取り組み、思いをお聞かせください。

    専務執行役・矢野 晴巳(以下、矢野):私たちは2021年に策定した中期経営計画でパーパス、経営理念、ミッションを明確化しました。この根底にあるのが、SDGsの基本理念にもなっている「誰ひとり取り残さない」精神です。これがゆうちょ銀行のDNAとなっています。但しこれは、「守りを固める経営」を目指すという意味ではありません。むしろ、社会の急激な変化から誰ひとり取り残さないことに「挑戦する経営」を目指すということなのです。

    たとえば、ゆうちょ銀行ではすべてのお客さまが利用しやすいデジタル金融サービスの拡充を進めています。デジタルサービスに不慣れな方々も含め、「誰でも安心・安全・簡単・べんりに、デジタルサービスを利用いただける社会づくりに、全国約24,000の店舗ネットワークを活用して挑戦しよう」、「誰ひとり取り残さない精神のもとで、ビジネスモデルを新しいものへ進化させよう」。我々の戦略は、そういったチャレンジ精神に基づくものなのです。

    この戦略を進める上での課題は、3つあります。まず、正しく全社員にこうしたメッセージを伝えること。次に、当行が掲げる大きな理念と個々の社員が従事する業務のつながりを明確にすること。最後に、各社員が当行の目指す姿と自分の将来像を重ね、キャリアを描ける仕組みを提供することです。最後の課題については、同席している常務の田中が取り組んでいます。

    常務執行役・田中 隆幸(以下、田中):当行のDNAという観点では、1円切手のモデルにもなっている、前島密(まえじま・ひそか)という、日本の郵便制度や郵便貯金の礎を築いた人物がいます。その人の言葉に「縁の下の力持ちになることを厭うな。人のためによかれと願う心を常に持てよ」というものがあります。ゆうちょ銀行のパーパス、ミッションもお客さまの幸せを願い、社会や地域に貢献することを中心に据えており、前島密の言葉が根幹となっていると考えています。

    ゆうちょ銀行さんはフロントラインと本社、それぞれが異なる機能を持つ巨大組織です。それゆえに社員のキャリアオーナーシップ(≒自律したキャリア観)を育成される上で、どのような苦労がありましたか。また、それをどのように乗り越えていきたいと思いますか。

    田中:当行の社員は思慮深く考えがちなところがあります。これはもちろんプラスの面もあるわけですが、守りを固めるだけではサッカーでも点は取れません。攻撃する、挑戦する姿勢を醸成しようと今始めているのが「キャリアチャレンジ制度」です。これは社内公募制度ですが、当初は「社内に多数の業務がある中で、どこへ応募すべきか分からない」という声が挙がりました。

    矢野:キャリアオーナーシップを醸成するためには、社員の抱える①会社の経営戦略の中で、各部署がどのような役割を担っているのか、②希望する部署に行くにはどうしたらよいか、③どのようにスキルアップすれば良いのか、という3つの問いに答える必要があります。第1の問いに答えるために、我々は3つの施策を行うことにしました。まず、「キャリアデザインガイドブック」の制作です。これは単に組織概要を示したものではなく、「キャリアデザインとは」という考え方と共に、各組織の目指す姿、期待する人物像、そこで働いて身につくスキル・やりがいを掲載して、部門の特徴を分かりやすく記したものです。

    続いて社内報を「ゆうちょLife☘️」という動画も見られるWeb版にリニューアルしました。様々な職場の仕事内容や社員の紹介を見ることが、実際に異動した場合の手触りを知ってもらえるきっかけになっています。またこの社内報はスマートフォンからも閲覧可能で、在宅時や育休中の社員も見ることができます。

    最後に、個人的に重要だと思っているのは同期ネットワークなど、社員間のネットワークです。例えばあまり利害関係のない同期へ「いまどんな仕事をしているの?」と聞けることは、キャリアを描く上でとても重要です。新型コロナウイルスで一時は対面での合同研修を中止していたものの、来年度から全新入社員が一同に会す対面での研修を再開予定です。同じ環境で食事をとり研修を受けることで、結束力を高めてもらいます。

    次に「希望部署へ異動するためにはどうすればいい?」という問いに答えるのが、キャリアチャレンジ制度、1on1ミーティングです。キャリアチャレンジ制度は社内の公募制度です。会社の経営戦略の中で「働きがい」を感じた部署に異動する機会を広く提供しています。また上司との1on1ミーティングは上司が「指導」するミーティングではありません。上司が「聞き役」「相談役」となり、部下が何をやりたいかをじっくり対話を通じて明らかにしていきます。キャリアチャレンジによる社内公募や上司との1on1ミーティングを通じて、最適なキャリアパスを見定められます。

    そして「行きたい部署があり、応募方法も分かるけれど、どうしたら必要なスキルが身につくのか?」という問いに答えるため、300を超えるeラーニング講座を用意しています。また今年度からは、デジタルスキルを学びたいというニーズに応えるためUdemyの試行提供をはじめました。今まで、ゆうちょ銀行の研修はOJTと集合研修に重きをおいてきました。OJTは既存の知識の踏襲がメインであり、重要ですが、革新的ではありません。各階層別に行う集合研修の内容は画一的になりがちです。そこで多様性を前提とした金融革新にフィットした人財を育成するために、オンラインで自由に学べる研修や、学びたいスキルを能動的に学ぶセレクト型研修の拡充をすすめています。

    我々は人財育成に「必死」に取り組んでいます。何しろ、ゆうちょ銀行は銀行が持つ3大機能である貸出、決済、貯金のうち、現状、直接貸出が認められておりません。競争の激しいこの分野に参入することは得策ではないと考えています。また決済については資金決済事業者が多く参入してきています。貯金についても今後デジタル給与が拡大してくれば銀行口座はスルーされることにもなりかねません。ゆうちょ銀行が生き残るためには、制約からイノベーションを生み出し、新しい業務フロンティアを切り拓いていかなければなりません。

    このような状況を踏まえると、社員一人ひとりが「仕事を押し付けられたから、やる」意識ではなく、会社の成長を自らの成長とを重ね合わせて自らの意思で仕事に取り組む「プレーヤー意識」を持つことが必要不可欠です。

    田中:テクノロジーはどんどん進化していきますが、その中でも会社を動かしていくのは「人」であることに変わりありません。仕事上の悩みは尽きないかもしれませんが、それを克服して前に進んでいく、挑戦を諦めない社員を応援していきたいですね。自ら考え自ら行動する社員をいかに増やしていくか、これが私の大きなミッションと考えています。

    今回の「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」へ参加したのも、そういった背景からです。各社が先進的な取り組みをされている中で、内向きになっている場合ではない。参加している方々から刺激を受けると、当行の様々な課題も浮き彫りになる、その上で当行に見合った戦略を考えてもらう。ビジネスモデルの転換やイノベーションを実現するためにも、意欲的に参加してもらいたいと考えています。

    ダイバーシティ育成のカギはコミュニケーション

    ゆうちょ銀行さんは、「日経xwoman」による『女性活躍戦略レポート』(2022年12月発行)において535社中9位の実績を誇るなど、女性活躍を含めたダイバーシティ育成で先陣を切っています。実際には、どのような取り組みがあったのでしょうか。

    田中:当行では女性活躍を含めたダイバーシティの観点で、早くから力を入れて取り組んでまいりました。社内の女性比率が約43%と比較的高いこともあり、さまざまなキャリアを描いている女性の先輩から学べる環境があると思っています。民営化する以前から、女性が産休、育休を経て職場復帰するのは当たり前という土壌があったことも大きいかもしれません。

    このような中、中期経営計画にもあるように、女性の管理職比率20%を目指していますが、現状は16.6%(2022年4月1日時点)。まだまだ発展途上という認識です(参考:日本の女性管理職比率平均は13.9%)。もともと女性活躍の文化はありつつも、国営の時代に男性比率が圧倒的に高かった背景があります。中計の20%はもちろん、長期的には欧米並みに女性社員比率と同等の水準まで女性管理職比率を伸ばしていきたいです。

    また、妊活段階で苦労されているケースも増えています。管理者が男性の場合、不妊治療をしていることを打ち明けづらい。日頃から妊活を把握できるほどのコミュニケーションが大切だと感じますね。中には1on1を通じて妊活中の社員を把握し、しっかりとケアしてくれている男性管理者がいて素晴らしいと思いますし、そうした配慮のできる人財を地道に増やしていくことも女性活躍に繋がっていくと考えています。

    少しだけ自慢させていただきますと、当行では男性の育休取得率で100%を達成しています。これには、社長が2017年度にイクボス宣言※を行い、以降、毎年度管理者向けのイクボス研修を実施していることも影響していますね。今後は取得日数を増やしていくことにも焦点を当てて取り組んで参ります。

    ※イクボス宣言…部下のワーク・ライフ・バランスを考えながら、組織の成果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむ上司になる宣言

    ダイバーシティの伝統的な定義は、「ジェンダー、人種、民族、年齢の違い」と言われており、これらを尊重することは当然ですが、考え方や価値観、働き方や生き方も一人ひとり違いますよね。そうした一人ひとりの内面の多様性も認め合うことが重要で、そういう会社にしていかないと今後生き残っていけないと思っています。多様な人財が活躍する「いきいき・わくわく」に満ちた会社を社員ととともに築いていきたいですね。

    矢野:かつての日本では、人のイメージするライフステージが画一的でした。学校を卒業し、就職して、結婚し、お子さんが生まれてマイホームを購入して、お子さんが進学して……。以前なら、こうしたステージに合わせた金融商品を提供するだけで良かったとも言えます。

    一方で現代はライフステージが多様化しており、お客さまの多様なニーズにお応えするためには、当然サービスを提供する当行も多様化しなければなりません。そういった中で、お客さまニーズに的確にお応えするためにも、ダイバーシティの取り組みは重要で、特に社員の半数を占める女性の意見を積極的に聞くことが必要だと思います。

    「仕事は足で稼げ」と言う時代もありましたが、足で稼ぐことを全員に押し付ければ、体力的に不利な人も出てきます。こういったアンコンシャス・バイアス(無意識に起きる認知の偏り)を起こさないように気をつけようと、日頃から社内発信しているところです。

    ゆうちょ銀行の未来を、草の根の取り組みから実現する

    社員のキャリアオーナーシップを育成することで、どのような変化をゆうちょ銀行へもたらしたいと考えていらっしゃいますか。

    矢野:まず、キャリアオーナーシップとは「社員一人ひとりが自分の未来を切り拓く、チャレンジしていく姿」だと思っています。私も当然、社員の一員として挑戦していきます。全社員がタッグを組むことで、当行全体が変わってほしいですね。

    これからの未来像としては、我々がΣ(シグマ)ビジネスと呼んでいるゆうちょ銀行の新しい法人ビジネスをビジネスの柱の一つに育てることにチャレンジしたいと考えています。現時点で当行のメインのお客さまは個人ですが、これを法人へ広げていきたい。ただ、先述のとおり規制があるために直接貸出業務は行えませんし、行いません。そこで考えているのが、出資業務です。Σビジネスとは「投資(出資業務)を通じたゆうちょ銀行らしい新しい法人ビジネス」であり、具体的には全国津々浦々に展開する店舗ネットワークを活用し、地域金融機関のみなさまと協働で地域活性化に資する企業(特にベンチャー企業)に投資することで、当行のパーパスである「社会と地域の発展」に貢献するとともに、当行の企業価値向上を図るビジネスです。

    ゆうちょ銀行が持つ強みは、日本全国の店舗ネットワークです。地域金融機関のみなさまと協働し、各エリアから現地の情報を集め、有望なベンチャー企業を見つけ、育て、地域活性化につなげたい。また、投資先のサービス・製品を、ゆうちょ銀行のネットワークで全国展開することで、他の地域の活性化にも協力できるかもしれません。

    Σビジネスを展開する上で課題となるのが「人財」の確保です。投資事業を経験した社員はほとんどいません。そこで、投資業務に携わりたい方を社内で公募したところ、若手を中心に多数が声をあげてくれました。これこそ、キャリアオーナーシップの好事例だと思っています。

    現在、若手が抜擢されている事例があれば教えていただけますか。

    田中:ゆうちょ銀行では、郵政民営化以降に採用された20代、30代が社員の3分の1を占めるまでになりました。この中から既に最年少の拠点長として、店舗運営はもちろん、地域貢献にも積極的に取り組んでくれている若手も出てきていますし、本社のグループリーダーにも続々と登用され、各部門の中心選手として活躍をしてくれています。また、40代の早い時期に本社の部長に就任するケースも増えてきており、組織としての若返りが進んでいます。能力や資質があり、チャレンジングで前向きな若手には、早いうちから重責を担わせていきたいと思っています。

    これは本社だけではなく、店舗や事務センターなどにおいても同様と考えています。こうした拠点においても、30代までの若い世代が部課長に登用されるケースが増えていて、大いに期待しているところです。若手の活力とベテランの経験知が上手く機能すれば、より魅力的な拠点になっていくと思っています。
    やる気や能力溢れる若手を抜擢して会社を活性化していくことも、人事担当として私の大きなミッションです。

    一方、ES調査(社員の会社・職場・仕事などに対する満足度調査)では、社員満足度は68.7%に留まっています。この数値が高い、低いの評価は何とも難しいところですが、「まだまだ伸ばせるはずだ」という思いがあります。たとえば、上司と部下が1on1で対話する仕組みも、当行ではやっと少しずつ定着しつつあるといったところです。人事上の様々な課題を一つひとつ解決し、健康経営にも取り組みながら、エンゲージメントを向上させ、当行で働くことを誇りに思えるような会社にしていきたいですね。
    人的資本経営の重要性が叫ばれる中、社員のエンゲージメントを含めた数値を開示していく流れになりつつありますが、たとえ良くない数値であっても開示していき、改善点を探って少しずつでもアップさせていくような方向にしていきたい。社員の働きがいをいかに高めていくか、頑張っていきたいと思います。

    矢野:当行の目指すESG経営は「誰ひとり取り残さない」という社会課題を、業務を通じて解決することで、当行の企業価値の向上を目指すことです。

    ES調査については、こうした「当行の目指すビジョンに、自分は共感している」というスコアをもっと伸ばしていきたいですね。

    この観点から全ての店所において各々の「SDGs宣言」を策定してもらっています。「誰ひとり取り残さない」精神のもと「耳の不自由なお客さま対応を行うために毎週手話のロールプレイングを実施する」「(外国人のお客さまが多いので)外国人の方にも分かりやすく案内できるよう取り組む」といった「SDGs宣言」があり感動しました。

    このような現場の取り組みの積み重ねを通じて社員のESG経営へのエンゲージメントを上げていきたいです。また、それがお客さまの満足度にもつながるよう、全力を尽くしたいですね。

    現在、銀行の未来を考えて多数の社員が不安を抱えています。その中でも「よし、やってやろうじゃないか!」と全社員に「働きがい」と「やる気」を感じてもらえるように、草の根からの取り組みを広げていきます。

    構成:杉本友美・伊藤ナナ(PAX)
    企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)

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    社内公募によりチャレンジ意欲のある社員を募集し、社員一人ひとりが今後のキャリアを見据えた異動を実現する制度です。また、「キャリアデザインとは」という考え方と共に、各組織の求める人物像や職務内容、キャリアチャレンジ制度を活用した社員へのインタビューを掲載した、キャリアデザインガイドブックを作成。自らのキャリア形成に対するイメージを明確にしてもらえる環境を整備しています。

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