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参画企業インタビューVol.6

コクヨ「社員の自律と共生が生み出す適所適材の企業文化」

2022.01.14

インタビュー

参画企業

「キャリアオーナーシップが、社会を動かす。」そのような宣言とともに2021年4月「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」がスタート。最先端のはたらき方を模索する先駆者となる企業8社が、「個人の主体的なキャリア形成が、企業の持続的な成長につながる」という考えの下、「キャリアオーナーシップ人材を活用し、企業の中長期的な成長を生み出していくには、どうしていくべきか?」という問いについて、議論・実践・検証を重ねています。
 
参加企業8社はこのコンソーシアムに何を期待しているのか、参画理由について深掘りするインタビュー企画の第6弾は、コクヨの執行役員 ヒューマン&カルチャー本部 本部長・小野公輔さんと、ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革タスクフォース タスクフォース長・新居臨さんに、Potage代表取締役の河原あずさがお話を伺いました。

小野 公輔
執行役員 ヒューマン&カルチャー本部 本部長

1997年コクヨ入社、ファニチャー事業の法人営業、2015年よりHRBPタスクフォース、HR部長を経て、21年よりヒューマン&カルチャー本部長。
持続的な事業成長の実現に向けた、人と組織の関係性に変化を起こすことに取り組んでいる。

新居 臨
ヒューマン&カルチャー本部 働き方改革タスクフォース タスクフォース長

1998年コクヨに入社。インテリアデザイナー・プロジェクトマネージャー・ワークスタイルコンサルタント等、働く環境に関する多様な経験を経て現在に至る。

INDEX

    一人ひとりの創造性を引き出すことで事業の成長につなげていく

    当コンソーシアムでは、社員の自律的な働き方を支援する「キャリアオーナーシップ」の考え方を大事にしている8社の方々が集まって、この文化さらに広げるためにどんなことが大事なのかを研究をしています。このコンソーシアムには何を期待されて参加されましたか?

    ヒューマン&カルチャー本部 本部長・小野公輔(以下、小野):経営戦略と連動した人事制度の変革を進めている中で、自社だけで議論していても、自分たちの考えを超えたものはなかなか生まれてこないだろうと感じていました。キャリアオーナーシップは社会共通の課題ですし、各社組織の中で議論がされていて、弊社の中でも取り入れられることがあるはずだと考え、参加させていただきました。
    もちろん、他社様でうまくいっていても弊社には取り入れづらいことはあると思いますが、その確認も大事な気づきにつながります。同様に、弊社の取り組みが他社様にとっての気づきになればと考えています。お互いの事例を気づきにつなげて、出し合う意見が課題解決のヒントになる、そんな機会にしていきたいと思っています。

    参加してみると「個人と組織をどうつなげるか」というテーマについて、それぞれの会社が葛藤しながら進めていらっしゃることがよく分かります。コンソーシアムでの議論は、私たちの取り組みを見つめなおす上で、非常に参考になっていますね。

    当コンソーシアムでは「経営戦略と人材戦略の接続」が大きなテーマになっています。御社でもまさに、2018年以降人事制度を大きく変えて、中期経営計画と接続しているとのことですが、どのような経緯で経営戦略と人材戦略の接続を進められたのでしょうか。

    小野:コクヨはこの20年で分社化して組織がばらけたのち、変化に対応するために再び1つのコクヨとなる変遷をたどっています。

    会社が1つになった時に、集まってみたものの、大事にしてきた考え方やルールが異なっていたんです。人事制度も各社ごとに最適化されたものがつくられていました。それでこの数年は、世の中の変化と向き合い、コクヨの存在意義を問い直し、新たな企業理念を2021年2月に提示しました。

    その結果「be Unique.」という非常にシンプルで力強い企業理念が発表されました。「創造性を輝かせる」メッセージが印象的ですが、どんな議論から産まれたのでしょうか。

    小野:2015年に発表した第一次中期経営計画で、「人の創造性を最大限発揮させる『人間性の尊重』」という言葉を使っていました。人の持っている性(さが)について考えたときに、「創造性を発揮すること」が人間らしいことじゃないかという議論が出てきました。変化する社会で、働き方も学び方も多様になって、一人ひとりの価値観も多様になっていく、そんな中で、多様な個が尊重されてこそ、創造性が発揮されると考えました。

    振り返るとコクヨは過去からずっと、お客様の課題に共感しながら新しい文具やオフィスをつくってきました。こうしてつくった商品やサービスはお客様の新たな活動やアイデアの発想に役立ってきたのではないかと。コクヨの強みは、お互いの共感によって新しい体験を創造する「共感共創」だと再認識したんです。

    こうした議論を経て自分たちの役割を再定義して、人のクリエイティビティの発揮に資することで世の中の個性を輝かせることだと言語化をし、その思いを「be Unique.」という言葉に込めました。

    働き方改革タスクフォース タスクフォース長・新居臨(以下、新居):こだわっているのが「be」の最初が小文字で「Unique」の最初が大文字であることなんです。これは「社会の創造性発揮のために、めちゃくちゃ頑張って貢献したい」というメッセージで、決して「私たちはユニークだ!」と、そうなることを強いる意味ではなく、自分たち本位な「僕らは仕事を楽しむぞ!」というニュアンスでもありません。

    事業的な側面を言うと、コクヨは、一般消費者に認知度の高い文房具、法人顧客に向けたオフィス家具・オフィス空間構築など、マスに向けたビジネスで事業を拡大してきました。しかし、このビジネスモデルだけでは次の成長は見込めないのではないかと。

    だからこそ、次の成長のために大事なのは「個の創造性に寄り添うこと」だと私たちは考えています。個性を輝かせられる社会の変容に少しでも力になることで、新しい価値をつくって届けて行きたいんですね。

    社員の創造性をはぐくむ「自律と共生」

    社会の創造性の変革のためには、社員の創造性が礎となりますが、当コンソーシアムの文脈で言うと、そのために大事な要素が「キャリアオーナーシップの発揮」なのかなと思います。社員のキャリア自律の観点でいうとどのような取り組みをされているのでしょうか。

    小野:私たちは、社会の変容の中に新しいチャレンジの種を見つけようとしています。これには、今までのコクヨの仕事の仕方とは違うことが求められますし、能力の発揮の仕方も変わります。

    そこで、新しいことにチャレンジしたくなるカルチャーをつくるために、人事制度の変革や働き方の選択肢を増やすことに取り組んでいます。

    人事制度の根幹となる考えを見直し、例えばスキルひとつとっても、今までは同じアウトプットをきっちり出し続けることを重視しがちでしたが、これからは挑戦的であるとか、みんなで新しいことに取り組んで未来の糧になるように学習していこうとか、そういう能力発揮の仕方を後押しする制度や運用にしていこうとしています。

    新居:パフォーマンスが上がる組織をつくるために、働き方からもアプローチをしています。

    世の中の環境が変わって、会社の道筋が変わった時に、過去の成功体験に基づく働き方から急に方向転換できるものでもありません。働き方改革タスクフォースは、社員のみんなに対して変化の機会、自律について考える機会を提供するための「働き方」や「働く環境」づくりを行っています。

    昔のような、部署毎に席が決まっていて、上司から呼ばれて仕事を振られるような環境から、社員が「自分の今日の仕事はこうだから、こういう環境を選ぼう。こういう働き方を選ぼう」という選択肢がとれる環境に変えていってます。もちろん、個人のわがままで働き方を選択するのではなく、あくまでチームの結果にこだわりながら「共生」することも大事にしながらです。

    社員全員が「今すぐ変わりたい」と思っているわけではないので、壁を感じる部分もありますが、徐々に理解を得ながら、変革にチャレンジしています。

    社員のキャリアオーナーシップを促す上で手ごたえがあったのはどの施策でしたか。

    小野:変化を起こしつつある1つが「マーケティング大学」です。マーケティングの基本作法を実戦形式のプログラムを通じて習得し、価値創造プロセスにおいて共通言語・スキルとして用いることを目指したものです。まず世の中をみて、その上で自分たちがやってみたいことや解決したいことのアイデアを議論し、事業プランに書いてみることができるように、との考えから始めました。

    参加者からの評判がよく、卒業者が次の参加者へ参加を呼びかけたり、メンターになるといった流れが生まれてきています。中長期のテーマを部署を超えて話すことで活性化していますね。

    プログラムの過程では、おもしろいアイデアやビジネスの種になるようなものが生まれてきて「これを研修だけで終わりにしていいのか」という意見が出てきています。5年間の継続で人材の層も厚くなってきましたし、マーケティング大学の役割も少しずつ変えていくことも考えたいと思っています。

    新居:社内複業制度である「20%チャレンジ」も手ごたえを感じています。やりたい人が手を挙げて、就業時間の20%を社内の副業に充てるものです。参加することで社内の議論が活発になるというのはもちろんあるのですが、大事なのは公募することで組織も内省を促されることだと思います。

    「我々の組織としてこれをやりたくて、こういうテーマで参加者を募ります」と、広く社員に発信するわけですから、人気があるところに応募は集中し、響くものがないと誰も反応してくれません。

    結果として、募集する側は一生懸命、募集テーマについて考えることになります。これがマネージャー陣にとっても、自分たちのやっていることを振り返るいい機会になるんです。

    もともと「安定した会社」と捉えていた社員も多数いる中で、キャリア施策を進めるにあたり葛藤もあるのかなと思います。社内への企業理念「be Unique.」の浸透度合いはどのように評価されていますか。

    小野:これまでの自分たちの活動を振り返り、強みを再認識した上で、「be Unique.」な社会への変化に貢献する仕事を楽しみ、お互いの多様性を尊重しながら一緒に仕事ができるように社員一人ひとりがなれる、そしてそれを支える働き方や組織風土を醸成すること。これが、これからのチャレンジです。
    このチャレンジのために、役割をベースにした人事制度に変えました。これまでは実行体制を組むとき、人材をみて、どんな仕事ができるのかを考えて、それから仕事をつくっていく「適材適所」の流れでした。

    これからは「適所適材」に変えていきたいと考えています。まず世の中をみて、私たちは何をやるべきかを考えて、実行体制を描いて、そこに人に集まってきてもらえるような関係性に変わっていきたいんですね。それにあわせて、人事制度を変えました。

    新居:「適所適材」の考え方による変化は大きかったです。今までは年功序列的に、経年変化に応じて給料が上がるというのが半ば常識だったものを、役割ベースの給与体系に変えました。これにより、「適所」にはまるような能力開発も必要になり、社員自身の挑戦へのマインドセットが必要になるように変わりました。これが社員に対する、けっこう強いメッセージだったのではないかなと思いますね。

    小野:「20%チャレンジ」も、各組織が募集する「適所」を、「何のために何をするのか」をちゃんと言語化するようになるきっかけになりました。これは上から「やれ!」と言うのではなくて「こういうことを会社はやりたいから、やってみたい人は手を挙げてほしい」とコミュニケーションするような関係づくりなんです。極力、こうした関係がある状態の中で会社を動かしていくと、みんなが仕事に対して当事者意識を持てて、チャレンジできるのではないかと考えています。

    流動性を高めて活躍の機会創出を実現する

    「適所適材」を進めていくに当たっては、社員のリスキル(再学習)が大事になると思います。コンソーシアムでの議論の中でも課題として出てきているのですが、こういう風にアプローチすると上手にリスキルを進められるというヒントのようなものを得られたのでしょうか。

    小野:これは弊社でもかなり議論されてきているのですが、まずは会社の中の仕事に対する人の流動性を高めていくことが大事だと考えています。

    仕事が変わると、組織にとってはフレッシュな視点を持った人が入ってきますし、個人は新たなことを勉強していこうと意識に変わることにつながります。その結果、リスキルがなされたり、新しい仕事へのチャレンジへのモチベーションが生み出せるのではないかと考えています。

    その点、「20%チャレンジ」は人の流動性を高めて活躍の機会を増やすしくみになってきています。異動するわけではないけれど新しい仕事にチャレンジすることを通じて、個人の選択肢を増やし、自分のキャリアを考えるきっかけになっています。この推進は人事が主となり行っていて、希望する組織からきた要件の整理から選考までの仕切りをすることで、適所適材の人材配置になるようにしています。まだまだこれからの取り組みですが、少しずつその方法論が見えてきた印象です。

    新型コロナウイルスの流行は新たな働き方を実現する試金石とも言える機会でした。御社の中では働き方において、どのような変化が見られましたか?

    新居:2017年の東京オフィス移転を機に、固定席やロッカーを無くして場所にとらわれない働き方を推進していました。場所にとらわれない働き方を取り入れて良かったのは、通勤時間が減って肉体疲労が軽くなり、可処分時間が増したことです。1日の中で社員が自由に使える時間が増えたことは、良い変化だったと振り返っています。社員アンケートでも「時間のメリハリがつくようになった」というフィードバックがたくさん見られました。

    同時に新たな課題も見つかりました。WEBを介したデジタル上でのコミュニケーションは、1つの目的を持ったコミュニケーションはできるけど、上司部下の何気ないコミュニケーションや、ちょっとした悩み相談の機会がかなり減ってしまったんです。特に若い世代の成長実感の希薄化は大きなポイントだと考えています。

    コミュニケーションの希薄化に対する打ち手の方向性は考えていますか。

    新居:リモートワークを推進するにあたって課題にすぐ気づきまして、社内SNSを導入して、部門を超えたコミュニケーションづくりを頑張りました。最初は会話量が少なかったんですが、最近はだいぶデジタルツール上での会話が促進されてきたのかなと認識しています。ただ、本質的なものになるとリアルなコミュニケーションの方が濃密だったり、電話のとり方1つとっても、上長の取り方を見て「あ、なるほど、こうやってとるのか」と気づくのが大事だったりするので、コロナの収まりをみながら、リアルなコミュニケーションの機会を増やすことを考えているところです。

    「be Unique.」の話にもあった通り、私たちはクリエイティブな発想にはこだわりのある会社です。場所を問わない働き方を推進していても、創発的なコミュニケーションをとっていくにはリアルの方が明らかに効率的じゃないかと思っています。ホワイトボードに付箋を貼ったり、書いたりしながら、ああだこうだと身振り手振りも交えて議論する方が、アイデアの発散には向いているんですよね。

    そして、コロナ禍を経て、オフィスに求められる役割そのものが変わってきたのではないかなと思っています。今までは1か所に集まって、生産性高く効率的に働くのがオフィスの役割でした。これからは、意思決定にかかわるアイデアや企画を練る場や、自分が会社に所属する意味を感じられる「理念」を感じ取る場が、オフィスの役割になると思うんです。

    オフィスはあくまで1つの例ですが、社会の価値観の様々な変化に対して真摯に向き合って実践していくことが、創造的な働き方を世の中に提案していく上でとても大事だと考えています。製品やサービスを通じて知的好奇心がくすぐられたり、創造性が生まれたりすることで、社会の皆様にユニークな感情を提供していきたいですし、社会の変革の黒子になれるように、社員の成長を促していければと思います。

    構成:河原あずさ・西舘聖哉(Potage)

    コラム「人材の活躍と成長」を中期経営計画で全社テーマとして取り上げ

    コクヨは2021年11月29日、2024年12月期を最終年度とする3ヵ年の中期経営計画を発表した。この3ヵ年で取り組む全社テーマの一つである「人材の活躍と成長」について、「社内の人材の流動性を高め、多様な人材の活躍の機会を増やす。」と明言。「3~5年目安に基幹職を流動化」「リーダー人材30名を新規登用」など具体的な施策も。

    第3次 コクヨグループ中期経営計画 -Field Expansion 2024- 新しいウィンドウで開きます

    ※第3次コクヨグループ中期経営計画より

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