社員と会社が実現したいことをパーパスでつなげていく
当コンソーシアムでは、社員の自律的な働き方を支援する「キャリアオーナーシップ」の考え方を大事にしている8社の方々が集まって、この文化さらに広げるためにどんなことが大事なのかを研究をしています。このコンソーシアムには何を期待されて参加されましたか?
市田 純(Employee Success本部Engagement & Growth 統括部 キャリアオーナーシップ支援部長):2年前から、「富士通はDXカンパニーに変わっていく」という社長の宣言の下、様々な変革を行っています。去年の春から先駆けてはじめたのが人事制度の改革で、幹部社員を対象にジョブ型の働き方を導入しました。そして、ポスティング制度を拡大したり、教育のやり方も、必修教育を極力無くし「自分が学びたいこと自らを学ぶ」と言う風に変えていったんですね。しかし、制度があっても社員が主体的に使っていなければ意味がなくて、まずは制度を使う人たちの意識を変えていく必要があると考えました。一人ひとりが、仕事や働き方を主体的に考え行動する、キャリア意識をより自律的なものにしていくことがすべての基盤と考えたのです。
それで、去年の夏くらいから議論をはじめたのですが、内部だけではなく外部の知見をお借りしようと、当コンソーシアムの顧問である田中研之輔先生と意見交換させていただいたんです。それ以降、何度もアドバイスを頂いてきたのですが、その流れで当コンソーシアムをご紹介いただきました。
私たちは弊社を、キャリアオーナーシップ人材の宝庫にしたいんですね。どうすればキャリアオーナーシップ人材が育つのか、キャリアオーナーシップ人材はどう成長していくのか、そしてどうしたら組織の中で経営にインパクトを与えるだけの活躍ができるのか、その知見を得たいというのが、コンソーシアム参画へのモチベーションとしては大きいですね。
ただ今まで参加させていただいて、どの企業も苦労されているし、そう簡単に解があるものではないということは、あらためて実感しているところです。
参画している各社によって定義は重なるところと違うところそれぞれありますが、富士通にとってのキャリアオーナーシップ像を言語化するとどのようなものになりますか。
市田:色んな定義があるとは思うので、一概に言うことは難しいのですが、自分自身がよりよい生き方を考えるように、キャリアに対してしっかりと認識を持って動いていくことがまず前提です。ただ、単純に独りよがりなキャリアを求めていくのではなく、外とのつながりも大事にして、周囲との関係を築きながら、自分のありたい姿や生き方を実現していくことがオーナーシップを持つ人材のあり方だと考えています。周囲への貢献を積み重ねながら、自分のキャリアも積み重ねていける、そんな人材を私たちの会社は求めています。
御社の経営が大きく変化する中で、求められる人材の定義が変わってきたと思うのですが、どんな流れがそこにあったのでしょうか。
阿萬野 晋(Employee Success本部長):前提で言うと、元々富士通は、チャレンジャーの集団ではあったはずなんです。しかし、この「失われた20~30年」と呼ばれる時期の動きを見直す中で、本当にやりきれていたかという反省がありました。だんだん、怖さとか不確実さもあり、寄らば大樹という考え方もでてきて、本当の意味でのチャレンジができていなかったのでは、ということですね。
その間、富士通は成果主義も入れてチャレンジを促そうとしていましたが、結果的にそれが具現化できない時代が続いていたと思うんです。それは外的要因の問題もあるし、社内のマインドの問題もあります。今起きているのは、このままで会社として生き残れるのか、本当に社会に、お客様に貢献し続けられるのかという問い直しなんですね。
DXカンパニーと言う言葉が象徴している通り、我々の事業の生業も変わっていきます。以前は、お客様の困りごとを解決したり、お客様の業務を効率的にして生産性を上げるソリューションを提供することが仕事でした。しっかりつくって、しっかりおさめて、サポートするという商流の中で、お客様から言われたことをやっていればよかった時代が長かったんです。
けどそれは機械がやったり、人工知能でもできるようになります。ますます時代の不確実性が増してくる中で、お客様が次はどこに向かうのかを一緒に考えて、伴走できる企業が生き残れると思っています。そんな未来への伴走を実現するために、私たちにとっていちばん近しいテーマが、DXだったということなんです。
既存のビジネスについては、お客様のニーズがある限り堅牢にやっていきますが、それプラス、新しい領域をやっていく必要があります。だけど新しい領域は、当然のことながら、誰もやったことがないんですね。そうなると社員を、自分で考えて、自分で学んで、自分で現場に足を運ぶことで、自分で仕事を見つけられる人材に変えていく必要があります。そのために人事制度や教育をフルモデルチェンジしたわけです。
御社では「パーパス」という言葉が様々な発信を通じて象徴的に語られています。そして社員一人ひとりがパーパスを持つことをはじめられました。まず経営陣から発信したことで、どのような効果がありましたか?
阿萬野:もともと弊社の行動指針であるFUJITSU WAYというものが存在していましたが、今回はその前段として「パーパス」をつくってわが社はなんのためにあるのかを言語化したんです。そして、パーパスを実行するディシプリン(指針)としてFUJITSU WAYの見直しを行い、大切な3つのバリュー「挑戦」「信頼」「共感」を定義しました。
しかし当然のことですが、定義した結果、トップ自身が変わらないと、会社は変わらないんですね。社員の人達に「これにならいなさい」とパワーポイントなどで示していくだけではダメで、経営陣が腹落ちして社員に語っていないと、企業は変わっていきません。
そのため「パーパス経営」が大事だと言うだけではなくて、まずトップから自身のパーパスを言語化して発信する「トップファースト」という活動からスタートしました。真っ先に腹落ちしていないといけないのは社長の時田であり、社長の直属である経営陣です。そのため、社長を含めたトップの方々に対して「そもそもあなたのパーパスはなんですか?」というところまで深堀って、そしてそれぞれのパーパスを会社のパーパスとどう共鳴させていくのかを議論して、その結果を社員に共有していくことからスタートしたんです。これをじわじわっと進めることが、会社のパーパスへのコミットメントにつなげる上で重要だと思うんですね。
トップからはじまったパーパスの言語化は、社内にどのように広げていっているのですか。
阿萬野:「パーパスカーヴィング(Purpose Carving)」と呼んでいるのですが「自分は何者ぞ」ということを、過去の人生を振り返りながら、自分自身で言語化し、それが会社でやっていくこととどう結びついていくのか考えていきましょうという流れで進めています。ゴールとしてはグローバル13万人の従業員を対象に広げたいのですが、まずは国内グループ社員の8万人に広げようとしています。上から「パーパスってこういうことだよ」と伝えていきながら、現場の第一線の社員まで順番にパーパスの言語化を行っていこうとしているんですね。
まだ今年始まったばかりですが、これを1年半くらいかけて全社に広げようとしています。その前段として、人事部門に関していえば本社の1,000人弱がこのプロセスをほぼ完了しました。まずCHROの平松からパーパスを言語化し、部門の全員に共有し、「みんなもパーパスカーヴィングをやるんですよ」と組織単位で伝え、チームを組んで広げていきました。それを人事だけじゃなくて、他の管理部門も、事業部門も、同時並行で進めているところです。
市田:パーパスを考えたから即、社員の「腹落ち感」につながるかというと、正直、決してそうではないと思ってはいますが、会社のやや大きめなパーパスを元に、自組織のビジョンを身近なテーマまで落とし込んだときに「自分たちの組織はこういうことを実現するのだ」と明確に社員が表現できるようになってきました。それは大きな変化だと感じています。
パーパスは直訳すると「存在意義」で、それだけ言うと重い響きもあるのですが、自分が実現したいことと富士通が実現したいことがつながることで「自分は仕事を通じてこういうことを実現するんだ」という仕事への動機づけにつながっているというのは事実あると思っています。もちろん、それが組織全体に染み渡るようになるには時間はかかりますが、自分の考えを持つことが推奨されてきていて「自分が何をしたいのか」ということが常に問われる環境に徐々に変わってきているような状況です。
阿萬野:あくまで「パーパスカーヴィング」はきっかけなんです。そもそも入社したときは「こういうことを実現したい」とそれぞれ思いがあって、面接でそれを伝えて入ってきているんですが、時間が経つうちに忘れられてしまう……でも、自分もやりたいことがあったはずだと、これを機会に思い出してもらおうということなんですね。
変われと言われても、やらされ感で変わるほど苦痛なことはないですから、みなさんが何を動機にしていたかを思い出してもらうことで、自分の動機をもとに変化できるようなきっかけをつくっているんです。
パーパスが言語化された後に、それがどのように業績に反映されるか、事業成長につながっていくかをステークホルダーからは問われてくると思いますが、業績の変化の兆しは見えてきているのでしょうか。
阿萬野:パーパスドリブンって何?とステークホルダーから問われたときに、それが営業利益の数字の結果に結びついていかなくてはいけないというのが、社長の強い思いとしてはまずあります。ただ、事業として、お客様から評価されて、業績につなげるためにどうしていくかについては、躍起になって正解を探しているところです。
ただ、ちょっと違う話にはなりますが、パーパスの実現を測る上では、営業利益だけでは不十分なんですね。私たちのパーパスを実現して企業としての責任を果たすときに、数字だけでは達成できないので、社会に対する影響についてもきちんと測って、両輪を回していく必要があるんです。
この「パーパスの実現に必要な業績以外の指標」を富士通では「非財務指標」という形で設けています。「Global Responsible Business」という名前をつけ、「人権・D&I」「ウェルビーイング」「環境」「コンプライアンス」「サプライチェーン」「安全衛生」「コミュニティ」という7つの指標を設定しているんですね。社員のエンゲージメントスコアやお客様からの評価の数値も出して、それぞれの指標を達成するための目標数値も設けています。
定点観測が会社と社員の信頼関係を産む
パーパスドリブンの経営と人事制度はどのように接続しているのでしょうか。
阿萬野:「コネクト」という名前で呼んでいるのですが「パーパスと事業戦略と人事評価のつながり」を可視化しようとしています。すべての事業活動がパーパスに結びついて、組織が2~3年先にどんな状態でいたいのかが具体的な目標になっていて、人事評価にも接続されています。それまでの目標管理制度をやめて、パーパスの実現のためにゴールに向かっていけるように、人事評価も変えたんですね。
パーパスだとかFUJITSU WAYだとかDXカンパニーだとか、トップマネジメントから発信すると、言葉として華々しいのですが、現場とやっていることとが直接的につながっていないということが起こりえますし、その結果、拒否反応だけが起きるということもありえます。上の方で話していることと現場感の乖離が起きないように、人事の仕組みや管理の仕組みとも全部一貫性を持ってつなげていく、これを本気でやろうというのが、今の富士通なんじゃないかと思います。
つくった制度を血の通ったものにするには地道なプロセスが必要になると思います。実際に動くものにするためのプロセスはどの程度進んでいますか。
市田:本当に、まだスタートしたところだなと思っています。制度自体は去年からはじまっていますが、単に「こうしなさい」とインプットするだけではなくて、実践する場があってはじめて成立するものなんですよね。
たとえば、社内の流動性を上げるために、ジョブ型人事制度をまずは幹部社員(管理職)から導入したり、ポスティングという社内異動制度などを充実させています。異動者だけみても、以前の社内募集制度に比べても桁が違う勢いで異動数は増えていまして、制度を活用する人の数は増えているのかなと感じています。
しかしまだまだ足りていないと思っていまして、これらの異動の機会を組織として有効活用する人を増やすためには、もっと制度を、手続き面でも文化面でも、使いやすいものにしていく必要は感じています。
くわえて、これらの機会を知るきっかけをつくることも大事だと考えているので、全社員に対して「富士通におけるキャリアオーナーシップ」というタイトルでEラーニングを実施しました。自分で自分のキャリアをつくっていくという考えを元に制度を活用できるようになると、会社と対等な立場で自分のキャリアをつくっていくのだというモチベーションが生まれます。そのモチベーションを実現する環境が富士通にあるという納得感が得られてくると、自分で自分のキャリアをつくりあげるという風土が定着するのではないかと思っています。
阿萬野:社員1人1人のキャリア自律を定着させるために「キャリアオーナーシップ支援部」という部署も立ち上げました。これまでのキャリア支援組織は、様々なキャリアの選択肢を探したいと思っている比較的シニアな社員を支援することが中心の組織だったのですが、状況が大きく変化する中で、グループ国内8万人の社員の人たちへとターゲットを広げたのです。キャリアオーナーシップ支援部は、全社員が、自分のキャリアについて考えるきっかけをつくるための研修、教育、情報発信、仕掛けづくりやサポートを実施しています。キャリアオーナーシップに関する施策をつかさどる、全然機能の違う組織にフルモデルチェンジすることで、組織的に推進できる体制を整えています。
中間管理職が部下の自律を歓迎するかどうかが浸透の鍵となると思いますが、ミドルマネジメントへの意識はどう持たせているのでしょうか。
阿萬野:そもそも、やり方をすべて変えたわけなので、経営者、社長を含めた事業経営責任者から教育をはじめています。それを各事業ユニットの本部長、統括事業部長、部長という順番に落としていこうとしています。「あなたがたがやらなきゃいけない、考えなきゃいけない、説明責任はここにあるんだ」という意識づけを繰り返しやっていきます。
そして、浸透への手ごたえをしっかり得るために、マネジメントや1on1に関するサーベイを実施しています。社員からの声を定点できちんと幹部社員に届けて、次のアクション提起につなげるということですね。1on1を通じた対話は特に鍵になっていて、全幹部社員に対して、コーチングのやり方を教育しています。
これらのことを手間暇かけてやっていくことが大事なんですね。Eラーニングで言ったからそれで終わりというわけではなく、浸透させていくために、自分事として考えさせられるような仕掛けを実装していくことが大事だと考えています。
もっとも、なかなか変われない幹部社員も中にはいます。ただ、これもサーベイをとると如実に結果として出るんですね。そうすれば、スコアの悪い幹部社員に対してピンポイントで対応することもできます。
これはサーベイをとって、定点観測するから分かることなんですね。従来の「言ったからやれ」というやり方とは違うところです。もちろん、厳しさもそこにはあります。マネジメントの立場にある人は、その部下や、その家族に対して責任を負っているわけなので、しっかりとその責任を果たして下さいということなんです。脅かすつもりはないのですが、ポスティングで人事が流動的になると、入ってくる人も入れば、出ていく人もいるわけなので、どんどん部下が逃げていくことにもつながりますし、きちんとやっていく必要がますます出てくるんです。
社員からすると、このような定点観測を会社がちゃんとやることで信頼関係が生まれます。自律した社員と、支えていくマネジメントとの信頼を元にしないと、パーパスドリブンのようなやり方は成り立たないのではと思います。
ジョブ型人事制度をまずは管理職から導入しましたが、一般社員への適用についてはどのように考えていますか。
阿萬野:基本的には、幹部社員でも一般社員でも、考え方は一緒だと思っています。それぞれの仕事について、ジョブディスクリプションがあったり、ジョブレベルがあったり、ファンクションがあったりというのは、幹部社員だろうが一般社員だろうが、一緒の考えでやっていきます。キャリアオーナーシップ、すなわち自律的な人材だらけの会社にしていきたいし、それを支える人事の仕組みを用意していきたいんです。そのための議論を進めているところです。
会社は、全員に公平に、機会をオープンにするので、チャレンジしてくれというメッセージを出していきます。そしてその仕事の報酬はちゃんと見合うものがもらえるし、チャンスはあるから獲得しにいってね、そのために必要な環境は会社が準備するよ、という考え方でやっていきます。
ただ、一般社員との違いで言うと、幹部社員には、マネジメントポジションとして、組織づくりに対して更なる役割が求められます。お客様やビジネスと向き合う中で常時やることが変化する中で、どんなリソースがどれくらい必要なのかは事業部門しか分からない話なので、今までは人事が全社一括でやっていた配置計画も含めて事業部門のマネジメントでやっていきなさいと伝えています。より経営感覚が求められるようになっていきますね。
今こそ会社と社員の対等な関係性を実現するチャンスだ
コンソーシアムに参加されて、年度でいうと折り返し地点ですが、これからどんな議論をして、どんな気づきを得ていきたいですか。
市田:富士通はこれまで、人事制度やキャリアの仕組みについて長年取り組んできました。それこそ、キャリア開発でいうと、90年代の半ばからやってきたんですね。良かった面もあれば、そのときはうまくいかなかった面もあるので、過去の状況と比べて、今の状況はこうなっているんだという時代の変化を踏まえた話を議論の場で提供するようにしています。社員数がコンソーシアムの中でも多い方なので、マスの取り組みで苦労している面は共有できますし、他の企業にも参考になる部分はあるのかなと思っています。
今後の活動への期待でいうと、社内に閉じこもっていては見えないような、各社の状況をより知ることができればと思っています。特にコンソーシアムの参画企業は、若い企業とベテランの企業とに分けられると思っていまして、若い企業の方とお話していると、やはり違いを通じて気づきや刺激もあるわけです。
これからどういったキャリア志向に世の中がなっていくか考えるにあたっては、違う業界や年代の方々との議論を通じたインプットから得られるヒントがあるのではと考えています。研究成果についても大事だとは思っていますが、むしろ、若い企業の事情なども踏まえて、今の世の中のキャリア事情をより的確につかめることを期待しています。
阿萬野:コンソーシアムにおいては、日本全体の雇用のあり方や、企業の雇う力/従業員の雇われる力をつけていくために何が必要なのかといった議論が必要だと考えています。
企業の問題意識にとどまらずに、キャリアオーナーシップについては日本のマーケット全体の問題だととらえて、それぞれが活躍する道を自分で探していくことが大事です。そして、キャリアオーナーシップを受け入れる度量を各企業が身に着けていく必要があります。そのためには何が必要なのかを業界をまたがって考えて、社会の変化への起爆剤になるといいなと考えています。
そして、参加したみなさんが各企業にこの議論を持ち帰った時に、その内容をきちんと伝えられるかが大事ですし、より精度高く伝えていくためにもコンソーシアムの力をお借りしたいと思っています。
富士通はこれまでも様々なキャリア施策を行っていて、うまくいかなかった例もあるとのオープンなお話が先ほどあって非常に印象的でした。一方で、今はかつての状況とは違うというちょっとした手ごたえのようなものも垣間見えるのですが、過去との違いについてはどのように整理されていますか。
市田:例えば過去の事例でいうと、自身のキャリアについて「カルテ」を書かせたけれども、1回書いただけになって、その後にほとんどの人がメンテナンスしてくれなかったということがありました。
当時の反省としては、施策が単発だったということなんですね。先ほど阿萬野から申し上げた通り、キャリア施策は、他の人事制度と連動して、一気通貫でやる必要があるんです。キャリアの可視化の話だけ言われても「なんでやるの?」という感じになってしまいます。評価制度の改訂についても、以前の改訂は、全社として一貫した取り組みになりきっていなかったんですね。
しかし今は、キャリアの話をするときに、富士通のパーパスというものがあり、それを元に組織も人事制度もつくられていて、その中で仕事をする上での基盤がキャリアオーナーシップとなっているので、今がいちばん機能するタイミングなのかなと考えています。
加えて、キャリアオーナーシップの推進に当たっては、社会環境が大きくシフトしていることが大きいのではと考えています。弊社は、2000年代の頃から「会社と本人が対等な関係になる」とずっと言ってはいたんですが、当時の40歳以上がほとんど転職できないような環境において「会社と社員は対等だ」と言われても、社員が真に受けなかった側面はあったと思うんです。
しかし今は、社内でも異動できるし、人材流動化も進んでいるので、本当の意味で、会社と社員がイコールパートナーになることも、実現できる環境にあると思っています。完全にイコールだと言い切ることはまだまだ難しいですが、少なくとも世の中がその方向に向かっていますし、私たちもこの機会に、会社の風土の変化に向けて引き続きチャレンジしていきたいと考えています。
構成:河原あずさ・西舘聖哉(Potage)