お客様が望む未来を超えた提案で、
一人ひとりの想いを実らせる
パナソニックさんのグループ全体に対し抱く印象として「人財の育成支援が手厚い」と、多くの方が語ります。特にパナソニック インダストリーさんでは、どういった背景から人財育成へ注力されるようになったのか、背景を教えてください。
常務執行役員 CHRO 総務担当 梅村 俊哉(以下、梅村):バックボーンには、創業者の精神があります。松下幸之助は、「松下電器(パナソニック)は人を作るところでございます。併せて電気製品も作っております」と述べていました。ものを作る前に、人を作る。この思想は、人的資本経営の思想そのものであると考えています。
また、グループの中でも、パナソニック インダストリーは基幹事業である電子部品を扱っています。電子部品の世界市場規模は今後も成長基調にあり、この市場トレンドの中で事業貢献できる人財を育てることは急務です。
人的資本経営が政府によって推し進められ、事業としては市場が拡大傾向にある。こうして私たちのプリンシプルにやっと時代が追いついた……というと、言い過ぎかもしれません。しかし、それくらいパナソニック グループ、そしてパナソニック インダストリーにとって、人財育成は重要なことなのです。
特に近年は、日本の労働人口が減少していく中、私たちが採用する方を選ぶだけでなく、応募してくださる方々に私たちを選んでいただく、相互関係が生まれています。パナソニック インダストリーが必要としている人財に選ばれる会社になれなければ、いずれは競合に負けてしまうでしょう。そうした方々にとっての挑戦・成長機会をつくる、すなわち「人財育成」は創業者精神に則った前提であると同時に、これからの重要戦略でもあります。
人事戦略統括部 人財開発部 部長 黒木 生也(以下、黒木):これまで、当社は「お客様が望むものを提供する」ことに熱意を注いでまいりました。日本経済が潤っていたこともあり、私たちはかつての成長を、精神論で達成してきた部分もあります。しかし、これからはお客様がまだ見えていない未来にまで想いをはせる必要があります。それも、ただ想うだけでなく、具体的なソリューションを持って、お客様とともに社会変革をリードしていきたいという想いがあります。
こういった覚悟を踏まえ、パナソニック インダストリーの人財戦略には「想いを、動かせ。」と、スローガンを掲げています。
お客様も見えていない、いわゆる今後の変化を見据えた先を提案するには、各人財が自律的に考え、行動し、新しい取り組みを考案できるようにならねばなりません。人と組織が自律的に成長していくことを常態化していくことは、これからの変化の時代を生き抜き、事業の成長につなげていくための必要条件なのです。その各自の想いに個々に応えていく、自律的に走れるように支援していくことが、人事の役割であると考えています。
こういった取り組みが評価され、昨年は「日本の人事部HRアワード2023」や、「キャリアオーナーシップ マネジメントアワード 2023」など、多くの賞をいただきました。まだまだ成長途中ですが、さらなる変化を進めていきたいと思っています。
すでに人財育成を支援してきたパナソニック インダストリーさんが、これから目指そうとしているキャリア支援の未来像はどのようなものでしょうか。
梅村:100人社員がいたら、100通りのキャリアパスを実現できる場づくりです。かつては、真面目で同質的な社員が一致団結してお客様のお困りごとを解決していくという、キャリアとしては、ある意味、単線なものであったかもしれませんし、そのことが当時の事業を大きく成長させた要因でもありました。
ですが、これからはそうではありません。事業環境はますます変化が激しくなり、また個人のライフプランや価値観も多種多様になっています。その中で、パナソニック インダストリーの理念に共感いただき、ここで働きたいと考えてくれた方々の、それぞれの想いに応え、挑戦・成長できる機会を提供できる人事でありたいのです。
キャリアオーナーシップを急加速させられた秘訣は
「予算組み」
実際、パナソニック インダストリーさんは多数の施策を実施されています。中でも特筆して、社員に変化が見られたものがあれば教えてください。
梅村:「マナビバevery」です。マナビバeveryは、社員が受けられる研修の情報を一元化したプラットフォームです。マナビバeveryが生まれる前は、「研修を受けたくても部門の予算が回ってこない」「なんとなく受講機会は先輩から」「将来に向けた自己投資をしたくとも、現状の部門を超えた学びがしづらい」「研修はたくさん提供されているが、網羅的に把握できるプラットフォームがなくわかりにくい」などの声が挙がっていました。その中で生まれたマナビバeveryによって、22年度1年間で事務局の予想を大きく上回る1万人以上の社員が学びの機会を得ることができました。事務局はパンクしてご迷惑をおかけしたところもあったのですが、本当にうれしい悲鳴でした。
黒木:当時の課題はたくさんあったのですが、実は、研修の予算編成の考え方を抜本的に改めました。かつて、パナソニック インダストリーの研修予算は課ごとに計上されていました。例えば営業利益が上がっている課は潤沢に研修が受けられますが、赤字の課では年間の研修予算が数千円などということもあったのです。そのため、研修は「成果が出た課に対するご褒美」と誤解されてしまっていた部分もありました。赤字・黒字は社員の努力だけで決まるものではありません。せっかくやる気のある社員がいても、偶然赤字の課に配置されてしまったことで、適切な研修が受けられない問題があったのも事実です。
梅村さんは、CHROになってから研修予算を一括で本社の人財開発戦略費として集約。課ごとの研修予算を本社に集約し、課を問わず手を挙げた順に受講できるようにしました。その結果、やる気のある社員が一気に研修を受けてくれたのです。しかも、その多くがこれまで赤字の業務を担当していて、なかなか研修を受けられなかった社員でした。
私が梅村さんと働けてよかったと思っているのは、こういった現場目線が梅村さんにあるからです。施策をトップダウンで打ち出すばかりでなく、現場の方が何を考え、悩んでいるかを掴んでくださる。だから、実際に応募者が殺到する結果を出せているのだと思っています。
梅村:こうして黒木さんに褒めていただけるのはありがたい反面、課ごとに予算がついていたせいで、1万人以上の社員が学びの機会を逸していた実態を知ったときは、正直、恥ずかしかったですね。こんなにやる気のある社員がパナソニック インダストリーにいてくださっていたのに、そのチャンスを潰してしまっていたわけですから。
今は約4.2万人いる社員のうち、「まだ」1万人しか研修の恩恵を受けられていません。これから、それぞれの挑戦ができる機会をもっと増やしたい。マナビバeveryはそのための、一つの扉に過ぎないと考えています。
社員の中に生きる「社員稼業」という考え方
マナビバevery以外にも、パナソニック インダストリーさんでは、係長以上の異動を公募制にされましたね。
梅村:パナソニック インダストリーの人事異動は、主に2種類に分かれています。社内公募制度「Iチャレンジ」を活用して社員が自らポジションへ応募するものと、本人の同意を得た上で会社が社員に異動先を推薦するものです。公募は通年、係長級以上のポジションを対象としており、課長以上の全ポストに役割と人財の要件定義を定め、公開しました。導入後半年で約800名が、公募により新たな仕事に挑戦しています。
とはいえ、個人のキャリアを自らが考え、行動に移し、実現できるチャンスがある、という一方で、受け入れ側も面談を行いますので、すべての希望が叶うというものではなく、そのポストに一番ふさわしい人が、まさに適所適材で登用されるというものでもあります。私たちは、公募制を単なる配置・登用の手段とだけ位置付けているのではなく、合格された人も、残念ながら見送りになった人にも、挑戦してくれた人には必ず1on1によるフィードバックを行い、次なる挑戦への気づきにしていただくようにしています。まさにこれは人財育成なんです。
この結果、よい変化は生まれています。かつては「上の役職が詰まっているから、なかなか昇格できない」「いま、現場で扱っている技術が時代遅れになってしまっても、リスキリングするすべがない」といった悩みを解消する手段がありませんでした。公募による異動は、自らのキャリアを充実させていくためのソリューションのひとつになっています。
黒木:付け加えると、「無理に全社員へ公募を強いてもいけない」というのが私たちの考えです。公募制を導入したことにより、逆に「この部署にとどまって、専門性を磨きたい」と考える社員もあらわれました。これもまた「キャリアオーナーシップ」の一環として、素晴らしいことだと思っています。
例えば、「公募制があるからみんな応募しなさい」、「フリーオフィス制度があるから全国に散って勤務しなさい」と、会社が命令しては施策も意味がありません。私たちは、キャリアの選択肢を増やすことで、社員が自ら決断できるようになってほしいと考えています。何よりも、最近のバズワードを使うために、人財戦略を策定しているのではありません。社員が自律的なキャリアを歩め、成長することで事業貢献へつなげることこそ、パナソニック インダストリーの本質なのです。
現場の社員にキャリアオーナーシップを
持ってもらうため、挑戦は続く
「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」に参画することで、どういった知見を得たいと考えていらっしゃいますか。
梅村:現場で働く社員の、キャリアオーナーシップを浸透・定着する方法です。パナソニック インダストリーでは、全社員の5人に1人が工場の現場で働いています。そして、オフィス勤務の社員と比べ、これらの社員は疎外感を抱いている、という声もあります。現場で活躍している社員を考慮せずに施策を進めても、製造業でのキャリアオーナーシップとは言えません。
私たちは、良くも悪くも日本の典型的な製造業だと思っています。製造業としてのキャリアオーナーシップとは、こういった色んな職場がある中で、すべての人が、自らの挑戦・成長の機会を得て、自らのキャリアを自ら描けるということが求められると思っています。そうするためにも、まずは先進的な事例を学ばせていただきたい。こういった期待値で、「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」に参画しました。
黒木:参画したことで、他社の皆さんも同じ悩みを抱えていることに驚かされました。苦しんでいるのは自分たちだけではないんだなと。同時に、ニトリの元人事責任者である永島 寛之さんもお話しされていた「自社の製品がどういった未来を作るかを、現場の方には見せるべき」といった言葉にインスピレーションを得ています。
今後は「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」も活用して、さまざまなテストプランを実行していきたいですね。
最後に、御社の考える「キャリアオーナーシップを発揮している社員」とはどのようなイメージか、教えていただけますか。
黒木:松下幸之助の言葉を自分なりに考えて、チャレンジできる人です。パナソニック インダストリーの社員の中には、私たちが制度で障壁を作ってしまっているがゆえに、今はまだ自律的キャリアを歩めていない人もいると思っています。彼ら、彼女らに本来の力を発揮していただくためにも、支援を続けていくつもりです。
梅村:「パナソニック インダストリーの優秀な人財」が、一生当社にとどまるだけが、キャリアの選択肢ではありません。例えば、社員が今後どこかに羽ばたいていったとして、そこで、「この人、すごく優秀だよね。前職はどこだったの? ああ、パナソニック インダストリー出身なのか。さすがですね」と言っていただけるような、価値ある人財を輩出していきたいのです。
そうすれば、社会で活躍したい人は自然とパナソニック インダストリーの求人に応募してくださるでしょう。世界でパナソニック インダストリー出身の人財が一目置かれた結果、よい人財がさらに来てくれる。そのサイクルを作ることで、いずれは当社を人財領域におけるブランドとして、認知してもらうのが私の夢なのです。
こういうことから、私自身のパーパスは、『パナソニック インダストリー流の人財育成で、「さすがインダストリー!」な人財輩出会社になる』ということになります。また、典型的な日本の製造業である私たちがこのような取り組みに挑戦していくことで「日本の製造業を、再び元気に」とういことに少しでも貢献していきたい、そんな想いを抱いています。
構成:伊藤 ナナ・杉本 友美(PAX)
企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)