すべての国家公務員が力を最大限発揮し、
活躍できる人事制度を企画・立案
内閣官房内閣人事局(以下、内閣人事局)さんは、2014年に設置されたと伺いました。まずは組織が設置された理由や背景、民間の事業会社におけるミッションのようなものがありましたら、お聞かせください。
企画係、人材戦略担当、マネジメント向上担当(当時)・山本 琴瑚(以下、山本):すべての国家公務員の方々が、それぞれが持てる力を最大限に発揮し、活躍していただく。そのような環境を実現するための各種人事制度や施策を企画・立案するのが私たちの役割であり、ミッションでもあります。
このような考えから、内閣人事局は各省を横断した国家公務員の人事制度に関する戦略的中枢機能を担っています。
人材育成担当調査官・長野 浩二(以下、長野):我々内閣人事局は、各省庁、そして人事院と3者で連携、協力しながら各種人事関連の施策の企画立案や実施を進めています。民間、事業会社で説明するところのホールディングスカンパニーが内閣人事局であり、各省庁がグループ会社だとイメージしてもらえると、分かりやすいかと思います。
1つの省内に留まっての施策だと、どうしても視点が限られてしまいがちです。内閣人事局では、人材も各省庁から集まっています。たとえば私は内閣府から、山本さんは総務省からの出向で、全体で160名ほどのメンバーで構成されています。
社会や経済の情勢が目まぐるしく変化する昨今、私たち国家公務員もその変化に対応していく必要があります。そしてそのためには、多様な能力や経験を有する人材が必要なのです。
マネジメント・コミュニケーション力の向上に注力
これまで具体的にどのような取り組みを行ってきたのか。また、近年注力されている領域やテーマはございますか。
山本:近年は特に国家公務員の志望者の減少や、離職者の増加が課題になっており、民間人材の活用を含む人材の確保・育成に取り組んでいます。また、業務の効率化・デジタル化、マネジメント改革の推進などの働きやすい環境の整備を進めています。
長野:ワークライフバランスの観点で言えば、政府全体の「WLB指針」とそれを踏まえて各省庁が策定する取組計画をベースに推進しています。そこでも一つの柱となっているのが、「管理職のマネジメント」です。たとえば令和4年度に実施した研修には、「新任管理者マネジメント研修」「マネジメント能力向上のための管理職向けeラーニング」など、マネジメントに関するものがあります。管理職昇任前の課長補佐対象の研修にも、管理職の上司である幹部クラスのセミナーにもマネジメントについての講義があります。
カリキュラムの内容について、具体的な研修を参考に教えてもらえますか。
長野:「新任管理者マネジメント研修」を受講するにあたっては、まずは「国家公務員のためのマネジメントテキスト」というテキストを事前に学習してもらった上で参加してもらいます。
研修はケーススタディ、ロールプレイングなど、単なる座学ではなく、様々な工夫をしています。ケーススタディでは、どこが課題なのかを考え、グループでディスカッションし、研修講師(外部講師)からアドバイスも受けながら、解決策を見出していきます。なお研修を行う前には事前課題を行ってもらい、さらに研修後1カ月ほどして、実際の業務にどのように活かしているか、レポートを提出してもらい振り返りを促しています。
山本:「国家公務員のためのマネジメントテキスト」は、もちろん民間の知見も借りながらですが、内閣人事局で作成したものです。ポイントは、特にコミュニケーションに着目している点で、心理的安全性の重要性なども語っています。
また、このテキストは国家公務員だけでなく地方公務員や一般企業の方など、多くの方に活用してもらいたいとの想いから公開しています。
解説動画も同じく公開していますので、マネジメント、コミュニケーションに関心がある方は参考にしてもらえればと思います。
マネジメント、キャリアオーナーシップは
官も民も変わらない
マネジメント能力の向上になぜ注力しているのか。改めて説明していただけますか。
山本:環境変化への対応や人材の育成・活用において、マネジメントは極めて重要だからです。また、管理職のマネジメント能力は職員の価値観や事情の多様化により一層求められています。さらに、個人的な見解として踏み込んだことを言えば、今回コンソーシアムで議論したキャリアオーナーシップを含め、様々な人事施策がありますが、このような仕組みや制度をいくら整えたとしても、大前提として部下の意志やアクションに対し、上司が支援するようなマネジメントが確立されていないと意味がない、と考えています。
言い方を変えると、各種制度の整備も大事ですが、上司と部下の良好な関係性を構築することが、結果として各種人事施策の実効性を高めることにつながる、と考えています。そして、このようにマネジメントの向上に注力していることが、結果としてキャリアオーナーシップの推進につながる、とも思っています。
コミュニケーションが重要とおっしゃっていますが、どういう意味でしょうか。
長野:先ほど山本さんが言った心理的安全性の担保です。この上司に意見しても理解してもらえないだろうと思ってしまうような関係性では、それこそ意見が出てこないですからね。
上司も部下の想いを受け止めつつ、適切なアドバイスができる。このようなコミュニケーションが醸成されている環境を抜きにして、各種人事施策の効果は薄いと考えます。
山本:実際、マネジメントテキストにはまさに長野さんが説明したような、心理的安全性を担保しつつ部下と接すると、結果として人は成長する。このような内容を理論も含めて説明しています。実感として、今回コンソーシアムに参加する中で私が長野さんと様々に議論し成長する機会をいただけているのは、心理的安全性があるからこそだと感じています。
長野:山本さん、いいこといいますね(笑)。ヒエラルキー文化が濃い業界ではありますが、コンソーシアム参加メンバーの最年長と最年少でも心理的安全性を醸成することは可能なんですよね。自画自賛っぽいですけど。
先ほど外部講師や民間の知見のお話も出ましたが、人事分野における官と民の違いについて感じたことはありますか。
長野:官と民では文化も含め、いろいろと違う点もあるでしょう、という声をよく聞きます。確かにそうなのですが、人事に関する領域であれば、ベーシックな部分は人に資する内容ですから、官も民もないのだと思います。
どうやったら部下がやる気を起こすのか、やりがいを感じるのか。逆に、やる気をなくしてしまうのか。そこに、官と民の違いはないです。取組のHOWの部分は違うにせよ。
山本:私もそう思います。官と民は違うから、ではなく、違う部分も踏まえた上で、積極的に学び、時に取り入れていくことが重要だと感じます。
本来業務以外にも、有志のプロジェクトに
挙手制で参加するカルチャー
今回のコンソーシアムへの参加も含めて、内閣人事局さんはどのような環境や体制で仕事を進めているのか。教えていただけますか。
長野:本来業務がある一方で、職員がプロジェクトを立ち上げ、興味を持っている、取り組んでみたいというメンバー自らが、積極的に手を挙げて参加するプロジェクトもあります。霞が関では珍しいかもしれません。
山本:キャリアオーナーシップに関しても、まさにそのような流れで生まれたプロジェクトのひとつでした。民間で注目されているキャリアオーナーシップを、まずは私たちがしっかりと研究する必要があるだろうと。
そのためコンソーシアムへの参加の他、週1回の頻度で勉強会を行い、キャリアオーナーシップとは何なのか、10名ほどの参加メンバーで意見を言い合うような場も設けています。
長野:山本さんはプロジェクト参加に積極的なメンバーの1人で、キャリアオーナーシップ以外のプロジェクトにも参加しており、ロールモデルの1人と言えると思います。
山本さんは他に、どのようなプロジェクトに参加されているのか。また、参加する目的も聞かせてください。
山本:1つは、タレントマネジメントシステムの調査や研究に関するプロジェクトです。システムを扱っている企業にその考え方を伺ったり、人事担当者にインタビューを行ったりしながら活動をしています。
その他、内閣人事局で行ったオフィス改革におけるコミュニケーション戦略に関するプロジェクト、民間の学習サービスを用いた学びに関するプロジェクトなどにも参加しています。
そもそも私が公務を志したきっかけは、人の役に立ちたい、誰かの助けになりたい、という想いが強くあるからです。そして、国家公務員の働き方を変えることが実現すれば、国家公務員が取り組んでいる仕事の先にいる人、つまり全ての人のためになるのではないか。このような志を持って取り組んでいます。
有志のプロジェクトでは通常業務に比べフラットに議論できると感じたことや、本来業務以外の業務にも取り組むことで自分のできることを増やし成長したい、との思いがあったことから、参加を決めました。私はもともとフットワークが軽いタイプではなく、コミュニケーションスキルも乏しい方だったので、自分自身が変わりたい、という気持ちもありましたね。
長野:志に関しては、私も山本さんと同様です。霞が関で30年働いていますが、組織の環境・文化を変えたい、国家公務員の意識を変えたいという想いです。人事関連のカンファレンスやセミナーなどに積極的に参加したり、民間企業の方々と交流する中で、自分軸が明確になりました。本コンソーシアムの顧問であるタナケン先生も、そういう中で出会ったので旧知の仲ですね(笑)。
国家公務員が生き生きと主体的に働くために
コンソーシアムに参加される前の期待。実際に参加してみての感想や成果などについて聞かせてください。
山本:キャリアオーナーシップというのは、ある時期は高まったり、逆に低くなったりと変化すると考えています。なぜ、変化するのか。高い状態を維持するには、どのような施策を打てばよいのか。このような内容を研究したい、知りたいと期待して参加しました。
分科会は「人事と他組織の接続(経営・事業との連携など)」を研究する第1分科会、「キャリアオーナーシップ人材やキャリアオーナーシップ経営の診断・可視化」を研究する第6分科会に参加しました。
第6分科会では、キャリアオーナーシップの指標を作成し、その指標を試行的に数社で測定しました。得るものは大きかったと思います。測定に参加した結果、他の参加企業さんと比較して、内閣人事局だけが低い指標があることが明らかになったことは特にインパクトがありましたね。
私たちはキャリアオーナーシップを既に推進している他の参加企業さんに比べると施策の実施状況等の点でまだこれからの状態でしたので、参加前は学ぶ一方になるかと思っていました。しかし、実際に参加してみると、議論を通してお互いの意見を交わし、キャリアオーナーシップに対する考えをお互いに深めることができたのではないかと思います。
長野:キャリアオーナーシップを既に推進している企業であっても、不安や悩みを抱えていることが興味深かったです。
お話を聞いていくと、キャリアオーナーシップは人それぞれで正解がない。そのため施策においても何が正解なのか判断するのが難しい。そして、このような正解のない施策に取り組んでいる意味や効果を、経営層に説明することも同じく難しいという悩みは共通だと感じました。
そして、キャリアオーナーシップへのアプローチが、参加企業それぞれで違っていたことに気づけたのも大きな収穫でした。
たとえば、ある企業では、キャリアオーナーシップという言葉よりも、ワークエンゲージメントとの言葉の方が社内では伝わりやすいので使っているということを知りました。目指す方向は同じであっても、企業のカラーや文化と照らし合わせながらフィットさせていく。このような学びを得られたことが大きかったし、興味深い点でもありました。
改めて、お2人がイメージするキャリアオーナーシップについても教えていただけますか。
山本:私が大事にしているのは人をモノ扱いしないこと、個人を尊重することです。このような観点を持つために、組織だけでなく個人にもきちんとフォーカスをするキャリアオーナーシップには意味があると感じています。個人が生き生きと働くことのできる状態が理想です。自分の軸と組織の軸が一致していると生き生きと働きやすくなると思いますので、そのためにまずは、自分の軸と組織の軸がそれぞれ明確になり、それを伝え合うコミュニケーションができる状態をつくることが必要だと考えています
長野:正直なところ、人事の人たちは「キャリアオーナーシップとは何か?」とか、あまり小難しく考えずに、個々が幸せに感じたり楽しくなったりやりがいを感じたりする時間を増やすことが、組織にとってどういう意味があるんだろうかってことを考えて、動くことが大事なんじゃないかと思います。
「キャリア」なんて言葉がむしろ誤解を生むような障壁になるのなら、相手に定義を根気強く説明するより、その言葉自体を使わずに、より本質的な部分に注力した方がいいと思っています。
本日はありがとうございました。最後に、未来の働き方を期待している国家公務員のみなさんへ、メッセージをいただけますか。
山本:まずは身近な同期、若手職員を思い浮かべるのですが、若手に限らず国家公務員のみなさんが、この先のキャリアが見えないから辞めるしかない、と諦めないで済むように、展望が見え、生き生きと働くことができるよう、これからもがんばっていきたいと思います。
長野:国家公務員が主体的に働くことで社会に貢献する人を増やしていく。それがマイ・ミッションです。主体的に働くからこそ、新たな課題にもチャレンジする。主体性(オーナーシップ)は、まさにど真ん中のテーマとも言えると考えています。
構成:杉山忠義・杉本友美(PAX)
企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)