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参画企業インタビューVol.7

KDDI「両利きの経営を実現するKDDI版ジョブ型人事制度とキャリアオーナーシップ」

2022.01.21

インタビュー

参画企業

「キャリアオーナーシップが、社会を動かす。」そのような宣言とともに2021年4月「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」がスタート。最先端のはたらき方を模索する先駆者となる企業8社が、「個人の主体的なキャリア形成が、企業の持続的な成長につながる」という考えの下、「キャリアオーナーシップ人材を活用し、企業の中長期的な成長を生み出していくには、どうしていくべきか?」という問いについて、議論・実践・検証を重ねています。
 
参加企業8社はこのコンソーシアムに何を期待しているのか、参画理由について深掘りするインタビュー企画の第8弾は、KDDI株式会社 人事本部 人財開発部長 千葉華久子さん、人事企画部長 横尾大輔さんに、Potage代表取締役の河原あずさがお話を伺いました。

千葉 華久子
人財開発部長

1994年 大学卒業後、国際電信電話株式会社(KDD、現KDDI)に入社。法人営業、衛星通信サービスの企画などを経て、2013年から人事部においてグローバル人財育成を含むグローバル人事施策を推進。2017年4月から人財開発部で採用、異動配置、育成、理念浸透を担当。2018年4月から現職。

横尾 大輔
人事企画部長

2000年 国際電信電話株式会社(KDD、現KDDI)に入社。事業部門を経て、約15年間法務部に在籍し、途中米国留学を挟み、国際法務、コンプライアンス案件などに携わる。2019年4月より人事部長となり、2020年4月より人事企画部に改称。現在は「KDDI版ジョブ型」人事制度の企画・導入、D&I、労務、給与などを担当。

INDEX

    自社の特色を混ぜ合わせて生まれた「KDDI版ジョブ型人事制度」

    KDDIさんは、働いた時間ではなく成果や挑戦および能力への評価を軸とした「KDDI版ジョブ型人事制度」の導入を2020年に発表しました。この目的と背景を教えて下さい。

    人事本部 人事企画部長 横尾大輔(以下 横尾):当制度は、2020年8月からスタートしました。弊社は、電気通信事業、とりわけモバイルの売上/利益は大きいのですが、事業環境が大きく変化していく中で、それだけでは将来にわたる持続的な成長は描けないと考えています。

    以前より、両利きの経営というフレームを掲げて、成熟した国内通信事業を軸にしながら、ライフデザインをはじめとする新規事業領域を伸ばし、持続的成長を実現しようとしています。

    ただ、実現にあたっては、既存のスキルセットではまかなえないところもあります。人財戦略でいうと、中途採用の強化も大事ですし、既存の社員についても、社外でも通用するようなプロの人財になっていく必要があると考えています。そのような背景もあり、2019年度から新しい人事制度を構想していました。

    2020年8月導入当初は、中途で入社した方や、新卒の希望者から導入していきました。既存社員については、2021年度から、弊社ではライン長と呼んでいるリーダー層から全面移行して、一般社員については、2022年度から順次適用を考えています。一方、一部評価制度や1on1などのキャリア支援施策については、先行して一般社員も対象とした運用がはじまっています。

    KDDI版ジョブ型人事制度は、行動評価も組み合わせていて、ジョブ型評価と人間性評価の部分を合わせているのが特徴です。何故そのような独自制度を採用されたのでしょうか。

    横尾:「KDDI版」と表現している部分が特に力点を置いているポイントは2つあります。

    1つは「コンピテンシー」です。一匹狼タイプの専門職を評価するということではなく、「KDDIフィロソフィ」という企業理念、行動規範に基づき、しっかりチームで働いて、周りと協調しながら成果を出せる人財を評価していくということをコンセプトにしています。

    もう1つは「職種の多様性」です。グループ会社あわせて非常に多岐にわたる事業領域があるので、KDDIグループの中で多様な経験をしていただいて、社員の成長につなげるという狙いがあります。職務範囲が狭いジョブ型ですと、ジョブがあわなくなると社外に出ていくということが起こりえますが、我々の場合はグループの中でいろいろな経験ができますし、社内異動を促すことで、人財の流出を防ぐこともできると考えています。

    伝統的な欧米のジョブ型は、ジョブディスクリプションに基づいて、社員を事業に必要なパズルのピースだととらえる一面があるという見方もありますが、私たちはこの2つの特色を重視して欧米のジョブ型にエッセンスとして加えることで、自社の文化や特色になじむ制度にしています。

    「KDDI版ジョブ型人事制度」による新しい働き方の浸透度合いに対する感触はいかがでしょうか。

    横尾:まだ道半ばかなと思っています。一般社員については、1on1などの施策ははじまっていますが、経営からの発信や人事からの説明会などでの反応においても、キャリアに対する考え方が大きく変わる制度が全社員に腹落ちして受け取られているかというと、まだまだ正直、戸惑いの声も多いかなと思っています。

    浸透させていくために、人事から、制度に関する適切な説明を階層別に丁寧に行うだけでなく、経営からも定期的に発信しています。

    当社では「ワクワクツアー」と呼んでいる経営と若手社員が直接コミュニケーションをとる全社ミーティングがあるのですが、その場で経営自ら、新人事制度への移行予定をかみ砕きながら社員に説明しています。更にインターナルな広報施策として、イントラや社内報に新人事制度の特集記事を載せたりと、多角的なやり方で理解を促しています。

    ただ、繰り返し言っていても、どうしてもこの「ジョブ型」という言葉が一部の社員に、少しとがりすぎて受け止められている部分はまだまだあると思っています。私たちが考える「KDDI版ジョブ型人事制度」というのは「組織として成果が出せるプロ人財を育てて行く」ということなんですね。これは、言葉で伝えていくのもそうですし、人事施策そのものが社員に対してメッセージを伝える手段だと思っているので、これからも継続的に施策を実行していかなくてはいけないと考えています。

    通信とライフスタイルの融合の鍵になる「自律的キャリア形成」

    期初・期末だけに確認するような形式的な目標管理制度を廃止して、1on1で都度目標とその達成度についてフィードバックしていくかたちに切り替えるなど、日常のコミュニケーションを通じて社員のキャリアオーナーシップをはぐくんでいきたいという意図を感じます。キャリア施策を強化するようになったのには、どのような背景があるのでしょうか。

    人事本部 人財開発部長 千葉華久子(以下 千葉):キャリアオーナーシップについては、弊社の中では「自律的なキャリア形成」という言葉で、2019年度から中期経営計画の中でうたい始めています。KDDIの場合、通信という世界の中で、ジェネラリストの育成を会社主導で行ってきました。しかし、今のこの時代、社外に出ても働けるような専門性を磨いていかないと、会社の中での活躍も難しくなるというのが事実あると考えています。

    2018年から、社内エンゲージメントサーベイを四半期毎に実施しているのですが、その結果を見ていると、自身の成長やキャリアについての充実感が、エンゲージメントに大きく影響していることがみてとれたんですね。

    それらの流れも踏まえて、自律的なキャリア形成を自ら意識して仕事にあたったり、学んだりすることが必要ですよとメッセージ発信をするようになりました。

    御社の中でキャリア自律促進の鍵になってくると考えている施策を教えて下さい。

    千葉:2021年度に入ってからは、新しい人事制度への順次移行にあわせて、自らのキャリアの棚卸施策を推進しています。10数年前から「自己申告制度」という名称で、年1回自身のスキルや経験を記入して、上司と面談して記録に残すという施策は実施してきたのですが「書いてもなにも変わらない」と、ポジティブには受け取られていませんでした。

    それを今回「キャリアプラン申告」と名前も変え、システムも刷新して、それまでは自分と上司しかみられないようになっていた自分がやってきたこと、希望するキャリアを、社内で公開できる仕組みに変えました。当社では社内公募制度や社内副業制度も実施しているのですが、この公開されたキャリア情報が、自発的なマッチングを起こすきっかけになると考えています。リニューアルしたばかりではありますが、今後はより充実させていこうとしています。

    社内副業制度では、半期に一回、150~200のポジションで募集をかけていて、その中でマッチングが徐々に進みつつあります。例えば、ある部署でデータ分析ができる人を探していた際に、システムで該当する社員を探してスカウトして、マッチングが成立したという事例がありました。社員が仕事を見つけるだけではなくて、うまく自分たちのニーズを把握すれば、部署側も上手に活用できる環境が整っていくと感じています。

    社員のスキルややりたいことが可視化された後に、配置の最適化や、社内の人財の流動化をすすめていく必要があると思いますが、キャリア自律が文化として定着する上で次に必要なステップは何だとお考えですか。

    千葉:先ほど申し上げた「キャリアプラン申告制度」については、システムは刷新したものの、まだ多くの社員が申告内容を公開していません。文化が根付くまでは時間がかかるものですが、加速していくために、まずは自分が今後こういうキャリアを歩みたいという「Will(意思)」の部分については今年度中に全社員に公開してもらう方針に変えました。

    それをうけて、社内の部署と社員のマッチングの好事例がどんどん出てくると、もっと表明する流れになってくると思っています。その一歩として、まずは申告内容を公開してもらうことが、重点的に取り組むべき施策だと考えています。

    数はまだ少ないですが、キャリア申告制度から発生した部署と社員のマッチングは徐々に生まれてきているので、人事としては活躍事例を社内に発信していきたいと思っています。

    個人の棚卸を進める一方で逆に、チームがどんな人財を必要としているかの棚卸の施策は行っているのでしょうか。

    横尾:まさにそれが来年度からはじまる「人財ポートフォリオの整備」というものです。次期中期経営計画の人事施策の目玉になっています。方法はまだ検討段階なのですが、会社全体としても必要とされる人財が変わってきている中で、スキルや経験など様々な軸で分析しながら、どの部門にどんな人財がいるかを可視化しようとしています。理想通りとなっている組織はまだ少なく、理想と現実のギャップがあります。このギャップを埋めるにはどうしたらいいのか、社内副業制度、社内公募制度、採用、教育など適切な打ち手を素早く見つける必要があるので、まずは可視化からはじめていきます。

    新卒の方は最初からKDDI版ジョブ型に肯定的な方が多いと伺っています。若手の方や、とがったスキルを持っている方はアクティブになっている印象を受けたのですが、シニア層の方々への働きかけはどのように進めているのでしょうか。

    千葉:私も年次が近いので気持ちとしてはよく分かるのですが、40代半ば以降の社員からすると「え?」と思う部分はあると思います。「専門性を磨いて下さい」「自分がどこで活躍できるか考えて下さい」といったメッセージは、今まで生きてきた、会社が主導してジェネラリストを育成するためのローテーション施策とは真逆なんですね。

    それを踏まえて、伝えるメッセージに気を付けるようにしています。そもそも、コンピテンシー評価を重要視していて、今までのスキルや経験を否定するものでは全然ないですし、ちゃんと自身の強みだとか、やりがいを感じるポイントを定期的に棚卸することで、その後定年までどのように会社で活躍できるのかをぜひ考えて下さいという、緩やかなメッセージにしています。

    当社の場合、複数の通信会社が統合してできた事情もあって、40代後半から50代の人数が多いので、年齢構成的にマジョリティを占めるこの層の活躍なくしては、会社も成長できないと考えています。

    そのような観点から、50代以上のエルダー社員にしぼった社内公募を行っています。エルダー社員が活躍できそうなポジションを各部署で考えてもらい、半期に一回募集をかけて、マッチングしたら異動してもらうという制度です。ここまでのところ、約200名の方がエルダー公募で異動しているので、ここは継続的にやっていきたいと考えています。

    新規事業領域での公募については、どのように進めているのでしょうか。

    千葉:「成長戦略領域」を当社では定めていて、その領域については2019年から公募を実施しています。

    元々当社にはセルフキャリアプロデュースという社員が手挙げする形の公募制度がありましたが、応募した人の動機をたどってみると、チャレンジというよりは、自分が出身の地域に戻りたいから手を挙げるなど、守りの姿勢」動機になっている応募者もいました。それは意図しているところと違うということになり、以降は成長戦略領域の公募にフォーカスして実施しています。2022年に向けては規模を拡大して、今までの3倍以上の100名規模での公募を行っていきます。

    新規領域については、公募だけではなく独自の取り組みをしているものもあります。特にDXに関しては「KDDI DXユニバーシティ」を2020年度から立上げて、2023年までに社内にDX人材を4000人確保することを目標に、計画的に育成を行っています。DXに関しては、当社の業態を見ても、世の中の流れを見ても、待ったなしなところがあり、積極的に取り組んでいる部分です。

    M&Aなどでかなり多様なチームがグループには集まってきています。様々な価値観がある中で、グループとしてどのように調和をとっているのでしょうか。

    千葉:KDDIグループはM&Aなどを通じて拡大していますが、組織文化については、先ほども横尾から申し上げた「KDDIフィロソフィ」を核にしています。M&Aをした会社については、創業者やプロパー社員がつくりあげた独自のカルチャーがすでにあるので、フィロソフィについては無理強いすることなく考え方の基盤としてゆるやかに各社で共有してもらっています。

    そして、今後は人財の交流をより活発にしていこうとしています。これまではKDDIからグループ会社に出向という形が多かったのですが、グループ会社のプロパー社員がKDDIに出向することもはじめています。まだ人数的には300名程度と、規模が大きくはないのですが、ここが調和をはかっていく上で1つの鍵になってくると思っています。

    簡単に答えが出る領域ではないからこそ課題意識を持ち続けたい

    当コンソーシアムには「キャリアオーナーシップ」というキーワードを元に、経営戦略と人事戦略の接続において国内において先進事例をつくっていらっしゃる会社が集まっていますが、コンソーシアムにはどのような期待があって参加されましたか。

    千葉:今、世の中の流れとして、企業の価値を上げる上で、人的資本の重要性が強調されています。
    人財の重要性が増している状況で、企業価値や会社の持続的成長にどうつながるのかを、より見える化できて、みんなが納得できるような仕組みに社会全体が変わっていくフェーズなのかなと思っています。その変化に向けた示唆が得られるといいなと思い参加しました。

    横尾:当社でも次期中期経営計画に向けた人財戦略策定が進んでいますが、正直、人財戦略については「これを真似すればうまくいく」という世界ではないと思っています。ただ、経営と対話をしていく中でも、一定の根拠や自信を持って「こういう状況に世の中はなっている」と言えることが必要だと感じています。コンソーシアムで得られるプロセスやアウトプットが、頭の整理にもつながりますし、経営と対話をしていく上で重要な材料になるだろうという期待が元々ありました。実際に日々の活動に有益な知見が得られていると感じています。

    コンソーシアムの発足から半年以上経っていますが、どのようにこれまでの活動を評価していますか。

    千葉:各社の参加者と意見交換、議論をしていると、各社の課題意識は概ね同じでありながら、打ち手は各社で違っていることもあり、非常に参考になるところがあります。

    また、キャリアオーナーシップというと、とかく個人のありようにフォーカスがいくような印象を受けるのですが、当コンソーシアムのテーマである経営戦略と人材戦略をつなぐということだと考えています。事業や組織との接続について考え続けられている人事の方が集まっているので、事業への成果が短期的には見えづらい同じ課題に向き合っている仲間なのだと勇気づけられています。

    横尾:自社の立ち位置を確認する上でも非常に有益だと考えています。いろいろな業界の経験が豊富な人事の方が見えていますので、ディスカッションが非常に刺激になっていますし、キャリアオーナーシップについては、各社それぞれの事情を抱えていて、それぞれのステージの違いや特色があるのだと、濃い議論の中でますます理解できるようになりました。

    キャリアオーナーシップを広げるというのは長期にわたる活動になると感じています。参加すればするほどそう思いますが、やはり簡単に答えが出る問題でもないですよね。今期のコンソーシアムの1年間の活動が終わっても、最終解が出るというよりは、それぞれの問題意識や現状を棚から卸して、整理したことを言語化していくかたちになるのかなと思っています。

    そういう意味では、このテーマについては、人事としても課題として持ち続けないとなりませんし、それを自覚するためのいい機会を頂いているなと思っています。

    構成:河原あずさ・西舘聖哉(Potage)

    コラム一人ひとりがプロ人財になるために能力を存分に発揮できる環境へ

    KDDIは持続的な成長に向け、通信事業を軸としながら新規領域の拡大を進めています。
    通信事業で培った経験も活かしながら、新規領域でも通用する能力を身に着けたプロ人財に、KDDIグループの中で自らのキャリアを切り拓いていってほしいと考えています。
    そのために、2020年8月から「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入し、「人財ファースト企業」=「人財を最も大切なリソースと捉え、経営の根幹に置く企業」への変革を実現していくことを経営からも継続的に社内に発信しています。

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