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参画企業インタビューVol.15

ベネッセコーポレーション「『まず自分たちが学び続ける』志で、キャリアオーナーシップを育む」

2023.03.16

インタビュー

参画企業

23社の企業・団体が集まり、2022年7月「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム 第2期」がスタート。最先端のはたらき方を模索するトップ企業が「キャリアオーナーシップを企業に根付かせ、中長期的な成長を生み出していくには、どうしていくべきか?」という問いについて、議論・実践・検証を重ねています。
 
参加企業はこのコンソーシアムに何を期待しているのか、参画への熱意をインタビューする企画。2期目の第7弾は、ベネッセコーポレーション 人財本部 本部長の村上 久乃さん、人財本部 副本部長の後藤 礼子さんに、HR領域の取材を多く手がけるライターの杉山 忠義と、キャリアオーナーシップ リビングラボの伊藤 剛がお話を伺いました。

村上 久乃
人財本部 本部長

1991年、福武書店(現在のベネッセホールデイングス)入社。進研ゼミのマーケティング、商品サービス開発を担当した後、進研ゼミの事業部長、ベネッセコーポレーション人財部長、事業基盤本部長を経て、2023年1月より現職。

後藤 礼子
人財本部 副本部長、Digital Innovation Partners DX人財開発部 部長

1993年、ベネッセコーポレーション入社。事業部門を経験し、退職・再入社後、部門人事を経て2014年から全社人事を担当。2021年よりDX人財開発を兼務し両者を連携しながら人事制度改定、採用、人財開発に取り組んでいる。

INDEX

    創業以来変わらない理念「よく生きる」から
    ブレずに改革を

    ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)さんは2022年の12月、ウェルビーイングLabという拠点をオープンさせました。どのような背景や狙いがあったのか、お聞かせください。

    人財本部担当 本部長・村上 久乃(以下、村上):Benesseという社名は、ラテン語で「良い、正しい」を意味する「bene」と、「生きる」という意味の「esse」を一語にした造語です。「よく生きる」という意味を表しており、現在の言葉に置き換えればウェルビーイングと重なります。
    社名に込められた理念であり、フィロソフィーでもある考えのもと、お客様一人ひとりが生まれてから成長し、成人、高齢者となるまですべてのプロセスに寄り添い、よく生きる、を実現していくことに寄り添っていきたい。このような姿勢で、私たちはさまざまなプロダクトやサービスを展開してきた自負があります。
    一方、社会のありかたや個人の考え方は、多様化が進み続けています。今回設立するラボでは、「ウェルビーイングでありたい」と考える様々な方に向けて、ベネッセがこれまで培ってきた知見・リソースを活用したサイトでの情報発信、対話・理解の機会提供を行います。また、当社自身もこれからの「よく生きる」をアップデートしていきます。ラボの活動から生まれた考え方を、事業化する可能性や、起業家を支援することも視野にいれながら、新しい可能性を広げていこうとしています。

    現在取り組まれている中期経営計画「FY2021-2025」においても、Benesse(よく生きる)、ウェルビーイングのフィロソフィーが根幹にあるというわけですね。

    村上:私たちの事業領域である教育、生活、介護といった市場は急速なスピードで変化しています。変わり続ける世界の中で、不変の理念であるBenesseを実践していくには未来を洞察して期待に応える商品・サービスを開発・提供していく姿勢が重要です。
    中長期的な成長戦略の中心は既存事業領域でのオーガニック成長ですが、並行してM&Aなども含めたインオーガニックな成長戦略を推進します。これらとともに、新領域での事業創出・拡大によってさらなる飛躍を目指しています。

    新領域の開拓では、とくに大学・社会人の教育市場を重視しています。社会人になっても新たな能力を獲得し、自分の可能性を広げることが必要な時代になっていく中で、ニーズを満たすサービスを開発・提供していくことは社会課題の解決に寄与する取り組みであると考えています。海外事業の拡大も加速します。国内で培ってきたアセスメント事業の海外展開を進める方針で、インドで有償アセスメント事業のテストを開始する等の取り組みが進んでいます。

    すべての事業領域において、オーガニック/インオーガニックにかかわらず、DXが成長の非常に重要です。グループ横断組織「Digital Innovation Partners(DIP)」を設置しました。事業別のDX推進と組織のDX能力向上をスパイラルアップさせ、グループ全体の事業変革を加速させる役割を担い、グループ各事業のDX推進を強力にサポートしています。

    全社員のDXスキルの底上げ×専門人財のかけ合わせで
    改革を加速

    紹介いただいた経営戦略を実現するために、どのような人事戦略を掲げ、推進しているのか。教えていただけますか。

    村上:「人が圧倒的な財産である」。この考えも先のウェルビーイングと同じく創業当時から変わらず根付いており、人の成長こそが事業成長の源との考えで事業を進めてきました。今でこそ使う企業が増えましたが、人財の「財」の字も、ずっと以前から「財」を使い、「人財」と表記してきました。

    戦略の実現に向けては、外部のキャリア人財を招き入れるのと平行して、既存社員をリスキルし、コア事業の進化や新たな領域への挑戦を推進していこうとの方針で進めています。これら変革に絶対的に必要なのが「DXスキル」です。

    全社員が最低限のDXスキルやリテラシーを持っていなければ、高度なスキルを持つDX人財を仲間に加えても、最大のパフォーマンスを発揮できない、と考えているからです。

    育成という観点では、「職種・スキル」を再定義し全31種類(計58回)の研修プログラムを整備。ITデジタル職以外の職務についている社員を含めて全社員にDXアセスメントを実施しています。アセスメントによって学びをガイドし学習を進めます。人事や役員も同様で、私自身も昨年研修を受けました。
    このような取り組みをグループ会社も含めて横断的に進めることで、新たなサービスの創造などを実現していきたいと考えています。

    ところでなぜDXスキルがベネッセにとって必要なのか。特に全社員がDXスキルを学ぶ理由について、詳しく教えていただけますか。

    後藤:教育は普遍的でありながらも、学ぶ目的などは時代により変化しています。そのため、私たちが提供するプロダクトやサービスも変化する必要があります。たとえば、以前であれば、学習の目的が、大学に入学することでした。でも今では、将来を生き抜くために必要な知識やスキルを学び続けるコンテンツが求められています。すると、現時点では存在しないような職業につくことを前提としたときに、どんな体験や学びが必要か、といった視点が必要です。過去の経験だけに頼るのではなく、自分たちの考えや顧客への提供価値をトランスフォーメーションするために、DXリテラシーやスキルが必要なのではないかと。だからこそ専門人財に限らず、全社員に必要だと考えています。
    実際にサービスを生み出していくプロセスでも、DXのベース知識がないと専門力のある人財と共に開発していく際にうまく進まないことも多いです。

    「私はデジタルが苦手だから…」、という意見の社員もいるのではないでしょうか。

    後藤:おっしゃるとおりです。日々の限られた時間の中で、目の前の仕事を進め成果を出すには、DXスキルを勉強するのは後まわし、と思ってしまう心情もあります。
    一方で、もっと成長したい、学びたいと思う社員が多いことは、当社の特徴だと思います。冒頭に紹介した理念「よく生きる」に共感し入社する社員が、新卒・中途どちらにおいてもとても多いという特徴があります。自分なりの「よく生きる」が動機になっているからこそ、お客さまの成長に貢献したい、新しい価値を提供できるようになりたいという思いが強く、それを実現するために自分に必要なことは何かを真剣に考える人も多いです。そして自身が当事者となり、生涯にわたってウェルビーイングを実現していきたい。だから、学び続ける。そのような考えをもつ社員大勢いて、学習して新しいチャレンジをしていくことをリスペクトする文化があると思います。

    子ども関連の教育事業に携わりたくてベネッセに入社された方が多いと思います。そこから大人の学びや介護といった領域に、デジタルの学びも含め視点やマインドを変化させることには、苦労も多いのではありませんか。

    村上:入社の際には小学校や高校生といった、子ども向けの領域を担当したい、との希望を持つ方が多いのは間違いありません。一方で、自分が担当した子どもたちが成長していくにつれ、成長した先のフィールドでの学び、ウェルビーイングまで手助けしたい。このような思考性を持つ社員も多くいます。介護の領域も同様に、自分の親が高齢になってくるにつれ、その課題解決やウェルビーイングに取り組みたいと考える社員もいます。

    まさに当社の理念である、人が育っていく瞬間の時々への貢献です。そもそもベネッセの事業に携わると、社会の課題は、単体で存在しているわけではなく、「地続きである」ということに気づかされます。だからこそ、社員一人ひとりが「人の成長」や「テーマ同士のつながり」を俯瞰で見る風土があります。今、目の前で向き合っている子どもの課題の解決をするためには大人も変わっていく必要があると、社会人の領域に興味を持つ社員もいれば、これから起こりうる未来の課題も解決したいという社員もいます。子ども向けの領域に留まらない、大学生の学び、社会人の学び・リスキリング、介護といった領域でも、納得感も含め、やる気を持って取り組んでいる社員が多いとの印象を持っています。

    後藤:人事として、こうした社員のやる気を後押しするため、ジョブチェンジできる制度も拡充しています。未経験でもリスキリングを進め新たな挑戦をする社員も大勢います。
    社内公募案件を見て、「転職サービスの求人より、やってみたい案件がそろっている」という社内の声もあるくらいです。

    課題を地続きに捉えている社員ほど、職務を広げ柔軟に新しい領域を学び続けている。これが私の実感です。社内で、「ラーニングヒーロー!」と称えたい学びの達人たちに出会うことがあるのですが、そういった社員一人ひとりが「学び続ける企業文化」を生み出していると感じています。

    既存概念を打ち破り、新たなビジネスモデルを発想できる
    リーダーを育む

    デジタルスキルやウェルビーイングを実現したいとのマインド以外で、経営、人事として社員に持っていてもらいたい思考性などを教えてください。

    村上:全社員が当事者意識や主体性といったリーダーシップを備え、持っている能力を最大限発揮してもらいたいと考えています。実現に向け、いくつかの施策を行ってきました。

    次世代リーダープログラムにも取り組んでいます。将来的にリーダーとなり得る人財を選定しリーダーシップ開発を行っています。若手にも2018年から実施しているベネッセユニバーシティなどの取り組みを通して育成機会をつくっています。

    次世代リーダーの育成は、先に挙げたDX、事業の変革という観点からも、昨今ますます大きなテーマであり、経営・人事課題であると捉えています。具体的には既存の概念をぶち壊し、新たなビジネスモデルを生み出すことができる、そして牽引していく。そのようなリーダーの育成を、昨今は特に意識して行っています。

    後藤:施策の設計などでは、現在とはなるべく違う価値観に触れる機会を増やしたり、そのような環境に配属したりすることで、リーダーシップが育まれるのでは、との考えで進めています。お互いに議論することで刺激や気づきを得たり、ラウンドテーブル方式で、普段はコミュニケーションの少ない、役員クラスと一般社員が議論するなどして進めています。

    挙手制だけでなく、人事側からの選抜制も重視されているのですね。

    村上:選抜か本人からの挙手制かどちらがよいかについては、結論がまだ出ていないのが正直なところです。リーダーシップの素養があるのに、本人が気づいていない。あるいはキャリア採用のために埋もれてしまっている、など。経営や人事サイドから見つけ出す必要が少なからずあると、現在では考えているからです。

    一方で、自ら手を挙げる人の中にも、優れたリーダーシップを持つ人財がいるのも事実です。両手法をコラボレーションするのか、どちらかでいくのか。これから検討を重ねていく必要があるでしょう。

    ただ現時点では、リーダーシップの育成は人事・経営指導で、しっかりと育成スキームを構築し、本人への意識付けも含め進めていくのがよいのではないか、との考えが大きいです。

    一方で、現場のボトムメンバーの意識改革、変革も重要なポイントです。ただこちらに関してはDXスキルの箇所でご説明したとおり、ベネッセでは創業以来培われてきたウェルビーイングを実現するために、自ら積極的に動くとのカルチャーが根付いています。

    リスキルやジョブチェンジにおける、社員の納得感についても同様です。別の領域での新しい事業の提案なども、お客様のウェルビーイングを考えた結果、社員発で自然と出てくることが多いのです。

    どのようなサービスを提供すれば世の中のため、お客様のウェルビーイングに貢献できるのか。そのことを常に考え、動いている社員が多いと感じています。

    まさしく本コンソーシアムのテーマである、キャリアオーナーシップを実現されているように思います。しかもベネッセの場合は、企業文化として以前から根付いているとは驚きました。

    後藤:ベネッセでは以前から、今でいうキャリアオーナーシップの考えが普通にカルチャーとして浸透していたように思います。90年代の人事制度から「自律的なキャリア開発」の考え方は導入されていました。1on1やキャリアシートといった制度はありませんでしたが、事業の特性もあり、自ら学ぶ、何の仕事をしたいかを自ら考える社員も多くいました。
    ですから会社や上司の対応も「あなたは何がしたいの?」といったコミュニケーションが、日常の対話の中にありました。一方で全社員の望みが、そのまま業務と合致するわけではありません。そこが、人事の悩ましいところでもあります。

    村上:今でこそジョブ型人事制度やキャリアオーナーシップといった取り組みが注目されていますが、ベネッセの社員の多くはキャリアという意識ではなく、あくまでお客様の望むニーズやフェーズを追っていたら、自然と自らのキャリアとなっていた。そのような説明の方がしっくりきますね。

    最後に、コンソーシアムに参加された目的、期待することをお聞かせください。

    後藤:本日お話しさせていただいたとおり、私たちはこれまで培ってきた文化の中で、当たり前のような感覚でキャリアオーナーシップを進めていました。一方で、本コンソーシアムの設立も含め、キャリアオーナーシップの考えやキーワードが昨今、注目されています。

    ベネッセとしても改めて、参加企業の皆さまとキャリアオーナーシップについて議論させていただきたいと考えました。キャリアオーナーシップ的な発想は、経営戦略や事業成長と結びついているとの感覚はありましたが、ロジックとして明確に立っているとは言えなかったからです。

    コンソーシアムで行っているさまざまな調査や定量的なアプローチを通して、私たちが長年意識することなく取り組んできたキャリアオーナーシップが、経営や事業成長に具体的にどう寄与しているのか。コンソーシアムでの活動を通して明確にしていきたいと考えています。

    構成:杉山忠義・杉本友美(PAX)
    企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)

    コラム自律的な学びの支援制度

    社員には自身の「志」と会社の方向性をすり合わせながら、常に学び、力の発揮にオーナーシップを持つことを求めています。
    だからこそ、会社は、目指す方向性や求めることを明確にした上で、様々な施策を複合的に活用しながら、フェアな成長機会を提供しようと考えています。
    2年前から、公募制度の中に「DX CHALLENGE」枠を設定しました。
    DX職種未経験の方でも、手をあげてチャレンジできる制度です。座学だけでなく、仕事の打席に立つことで、経験し、気づくことで成長すると考えるからです。実際に、手を挙げてくれた社員の多くが、価値創造に力を発揮してくれています。

     

     

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