参画企業の管理職研修を見学したことを皮切りに、
交流の必要性を痛感
キャリアオーナーシップ リビングラボ 伊藤 剛(以下、伊藤):まず、「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」から派生して生まれた「チョー魂」がどのようなグループなのか教えてください。
内閣人事局調査官 長野 浩二(以下、長野):「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」(以下「はたらく未来コンソ」)に参画する中で、キャリアオーナーシップの推進の中心である人事の質の向上は必須であると感じました。そのためには、テーマをキャリアオーナーシップに限定せず人事領域についてざっくばらんに意見交換できる場が必要だな、と思ったんです。人事はとかく綺麗なことばかり言いがちですから。直接のきっかけは、電通デジタルさんの管理職研修を見学させていただいたことです。その研修を拝見し、はたらく未来コンソに参画されている企業・団体が、人事のさまざまな取り組みを実際に体感し合い情報をシェアできたら、もっと意義深い取組になると感じました。
電通デジタル 人事企画部 ディレクター 伊勢田 健介(以下、伊勢田):管理職研修には長野さんの他にも髙山さん、山田さんや他数社・数名の人事の方にも見学いただきました。電通デジタルでは社内の重要な位置づけにある研修は内製する方針を取っているのですが、その研修の内容を自分達だけで評価するのは難しいという課題感を持っていました。他社目線でのフィードバックをいただいてプログラムをさらに良いものにアップデートしていきたいと考えていたところ、同様の課題感を持った方々からとても前向きに協力・参加したいと言っていただけたので実現しました。実際にやってみると、想像以上に専門性の高い、幅広い知見からのご意見をいただけましたし、現在まさに実施している研修にもフィードバックいただいたことを反映しています。
長野:組織が違えど、人事は似た悩みを抱えます。そこで、お互いにさまざまな人事課題を共有できるコミュニティを、はたらく未来コンソが定めるテーマに限らず作りたいと思ったわけです。現在は16名の方に、「チョー魂」にご参加いただいています。会社の数でいえば10社ですが、あくまで個人としてご参加いただいており、会社としての活動ではありません。
発起人同士は、「この人、熱そうだな、面白そうだな」とお互いに思っていたんでしょうね。私が声をかけた時は二つ返事で「OK」でしたから。ですから、現在にいたるまでメンバーの入会審査に基準を設けるといった考えは持っていません。高山さんも、そうやって自然にお声がけした方の一人です。
ゆうちょ銀行 コーポレートスタッフ部門 人事部 人材開発室 主任 髙山 舞子(以下、髙山):変化の激しい現代において、人事課題を解決するには、自社のみで課題を抱えずに、外に目を向けたほうが、知恵が集まりやすくイノベーションが起こりやすいのではないかと考えていました。人事部門って、業界に依らず、結構共通の悩みがあるのではないかと。勧誘いただいた、というよりは、長野さんとのお話から自然な流れで参加しています。お声がけいただけて、嬉しかったですね。
伊藤:長野さんが持っていらっしゃった構想に賛同された方が集まって生まれたのですね。
三井情報株式会社 人事総務統括本部 グループ人材開発部 キャリア推進室 室長 山田 美夏(以下、山田):電通デジタルの伊勢田さんとは第2期のコンソーシアムの最初の頃にご一緒させていただき、いろいろとお話しする中で、別の分科会で参画していた長野さんと繋がりました。その際に、長野さんから学び合うコミュニティを作りたいというお話をいただき、社内外で様々な場づくりを行っている経験も活かせればと思い、立ち上げに関わりました。初回は、LINEヤフーさんの本社スペースで、どの様な人事課題を共有したい?どの様なコミュニティを作りたい?などホワイトボードを使いながらざっくばらんに話し合ったことを記憶しています。
長野:コアメンバーが集まったところで、名称を決めようという話になりました。私が決めたんじゃなく決めたのは伊勢田さんなんですよね。飲み会の帰り路、伊勢田さんにユニット名どうしようかと相談したところ、「長野(チョーノ)・コンソーシアムでしょう」と。「長くないか?」意見したら、「略して長コン、「チョーコン」でいいじゃないですか。コンは「魂」で行きましょう」と。若干恥ずかしいと感じましたが、インパクトはありますよね。伊勢田さん、遊び心があります。
輪番制でテーマを決め、民主的な運営を実現
伊藤:現在の「チョー魂」は、どのように運営されていますか。
長野:勉強会では毎回「ホスト」を決めて、その方がテーマを決め、議論を主導しています。ホスト役は輪番制です。
キックオフ会を2023年の5月に行い、大まかな方針を決めました。その後、7月に開催した第1回目は、山田さんや同じ会社の荒川さんがホストを担当し「新卒採用」をテーマにして議論しました。
同年11月には伊勢田さんがホスト役を担い、「新卒採用後から、配置・新人教育の取り組み」をテーマとしました。続けて、12月はメンバーの竹内さんが「HRBP」をテーマ開催しています。
ホスト役は事前に課題をメンバ-周知して、アンケートを取ります。そのアンケートであらかじめ各社が行っている取り組みや抱えている悩みについて把握し、それをもとに当日話を展開する流れです。話したい方が多いので(笑)、議論は尽きないですね。毎回、1時間半ほど話し合い、その後は第二部として必ず懇親会を開いて、さらに深堀してもらってます(笑)。
髙山:「はたらく未来コンソ」本体は、分科会ごとにテーマへ真剣に取り組む機会をいただけて、とてもありがたいと思っています。他方で、腹を割って本音を話すためには、もうひとひねり必要な印象がありました。
たとえば、目の前の業務で手一杯の方へ、どうやってキャリアオーナーシップを浸透させるのかといった施策を相談しながら、「現実問題として、それって難しいですよね。実際のところは、どうやっているのですか」と、真面目だけれどフランクに話をしやすいのが「チョー魂」の魅力です。
山田:参加して感じたのが、「心理的安全性の高いコミュニティである」「インプット&アウトプットのバランスがよい」ことでしょうか。参加者それぞれが今まさに直面している、様々な人事課題をテーマにするため、安心・安全な場であることが大前提、且つ会社規模や業種も異なり、必ずしも自社の施策が正しいとも限らない中、参加者の皆さんが受容的に関わり、建設的な議論を交わすことができます。また、ただ参加するだけ、聴くだけの方は一人もおらず、次回のテーマ決めや懇親会の手配などまで、次回のテーマ担当企業を中心に、主体的且つ熱量高く活動しているのが特徴です。逆に言えば、受け身な方や、単に知見を吸収したいだけの方は、向いていないかもしれません。
伊勢田:髙山さんや山田さんもおっしゃっている通り、いち人事パーソンとして、とにかく本音で活発に議論できることですね。課題解決のための施策立案は皆さん当然できるのですが、その施策の効果を出すための実行・浸透という最も難しいフェーズをどのような工夫で乗り越えるのかという点について深く議論できることに大きなメリットがあると思っています。
事前に資料を読み込む熱意あるメンバーで、
濃密な議論ができる
伊藤:アンケートを事前集計するなど、勉強会への参加には、なかなかの準備が必要そうな印象を抱きました。その点において、参加されている方はどう取り組まれていますか。
長野:アンケートもそうですが、強制してやってもらっている訳ではなく、自主的にやっていただいてます。我々には何ら「取り決め」がないんです。本当に、みなさん意欲的にコミットしてくださっています。また、例えば山田さんのこの手の取組の仕切りの巧みさは特筆すべきものがありますが、ああいうものも直接体感できるのはメリットとして大きいです。
自主的という話でいうと、アンケートの調査結果も事前に配布する場合もあるのですが、みなさんが事前に読んでから参加してくださっています。なので、即議論に入れる。だからこそ、1時間半という限られた時間においても、濃密な共有ができています。
さらに、参加者の出席率も高く、賑わっています。私は、こうした小規模コミュニティは貴重な場であると理解しています。我々の活動に関心を持っていただくことで、はたらく未来コンソへ参画したいと思っていただく企業が増えれば、win-winですね。
伊勢田:はたらく未来コンソーシアムは世の中への提言も含む白書編纂が軸にあるので、どちらかというと普遍的なことであったり、世の中共通の経営課題に対する解を出すことに軸足を置いていると理解しています。チョー魂はその逆で、汎用性は低いかもしれないが、いま目の前の個別課題に対して具体的にどう対処すべきかをいろんな視点から考えることができる場になっているので、どちらもバランスよく、個人的にもとても勉強になる環境だと思っています。
伊藤:我々も、30人以上の規模になると、ざっくばらんな議論は難しいのではないかという意見がありました。
山田:企業と個人の持続的な成長を実現するための「はたらく未来」を模索する、会社単位での公式な活動が「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」。第1期は8社からスタートし、第3期には38社に増える等、はたらく個人の力を最大化させるためにどう向き合うかを、業種・業界の枠を越えて企業同士で考える機会は大変貴重です。
一方、「チョー魂」はさらにもっと深く掘り下げたい、活発な議論を行いたい有志のメンバーが集まる非公式なコミュニティ。 “当事者意識をもつ個人”が主体で活動している印象があります。「チョー魂」以外にも別のコミュニティが発足してもいいと思いますし、企業としてのコンソーシアム活動と、個人が主体となって活動するコミュニティの双方を行き来することで、自身や自社の認知の外にある「知の探索」、更には「知の進化」に繋がる相互作用が生まれればよいなと感じています。
自主的な小規模コミュニティの発足を
さらに促進していきたい
伊藤:今後、「チョー魂」をどう運営していかれたいですか。
長野:どのような形式であれ、人事が本音で悩みを吐露できるような場があったほうがいいとは思います。実は、何人もの方から「参加したい」とのご連絡をいただいています。その受け皿として「第2チョー魂」と呼べるものを結成するのか、外に開かれたカンファレンスやセミナーを開催することで広く交流を図るのか、検討しているところです。それらによってはたらく未来コンソの活性化にもつながれば嬉しいです。
また、「チョー魂」の特徴として、アルムナイ(以前、はたらく未来コンソに参画されていた方)もいらっしゃることが挙げられます。中には、はたらく未来コンソで参画していた当時、お勤めだった会社から転職した方もいらっしゃいます。チョー魂は、個人の参加であるので、はたらく未来コンソにもういないから議論に参加できないということはなく、ずっと関係性が続きます。
伊勢田:世の中の人事が抱える課題には共通することがたくさんあると思っています。ただ難しいのは、その共通する課題に対してたとえ全く同じ施策を打ったとしても、うまくいく組織とうまくいかない組織に分かれてしまうことだと考えています。つまり、特定の会社の人事という組織の価値や独自性というのは生み出される施策そのものではなく、その施策の実行や浸透プロセスの「工夫」の中にあると思っています。しかもその「工夫」に関しては、他社の人事にはどうにも真似できないことであったり、たとえ完璧に真似したとしても自社ではうまくいかなかったりするものなのではないかと。だとすると、腹を割って情報交換や議論をしても、盗まれて損するような競合関係にはなりようが無く、逆に共に高め合える関係が作れるのではないかと思い、それでスタートしたチョー魂はまさにその世界観が実現した活動になっていると思っています。
山田:伊勢田さんの仰る通りですね。業種特性や会社規模、企業文化や風土などによっても施策の打ち手が異なってくると思います。だからこそ、共に高め合える関係性を創れる参加者同士が、本音で議論をしていくことで、「あ、この施策だったら、スモールステップで実現できそうかも」と想像力を働かせながら、実効性の高い取り組みを考えられるようになるのかなと思っています。個人的に実現したいこととしては、チョー魂から派生して、次世代を担う人事の若手~中堅層の交流の他、人事部門から更に派生して、社員間の学び合いができるような、企業間の枠を越えた取り組みにも繋がると面白そうだなとも思っています。
髙山:自主的な活動を「チョー魂」に留めなくても良いと思っています。「こんなふうに、フランクに集えるグループがあるのだな」という一例として、「チョー魂」を見ていただければ理想的に思います。コンソーシアム内に「チョー魂」の派生グループが複数あってもいいですし、「チョー魂」とは別で自主的なコミュニティを形成してもいい。さらに、コミュニティ同士のコラボレーションもできれば、もっと面白いですね。
小規模コミュニティに必要なのは「面白いですね」
と共感する姿勢
伊藤:今後、第2、第3の「チョー魂」が、「はたらく未来コンソ」だけでなく、さまざまなところで生まれるといいと思っています。こうした自主的な人事担当者コミュニティを運営されようと考えていらっしゃる方がいらしたら、どのようなアドバイスをされますか。
長野:アドバイスなど言える立場でもないですよ。チョー魂のメンバーみんな素晴らしい人たちなので、私は場を提供しているだけだと思っています。
高山:チョーノさんは、ご自身でお気づきではないような気もするので私から補足しますね(笑)。まずは、このような自主的なコミュニティを始めるには、リーダーの存在が重要だと思っています。こうしたコミュニティでは、アイディアのポジティブな面をみつけて、伸ばす関係性を目指すことが重要です。誰かが発案してくださったときに、まずは「面白いですね」「いいですね」と共感してくれる方がいなければ、コミュニティは続きません。「チョー魂」では、チョーノさんがとにかくメンバーを褒めて伸ばすタイプのリーダーでいらっしゃるので(笑)、皆がそのポジティブさに引っぱられて、良い影響を与え合っているように思います。
次に、メンバーのスタンスも重要に思います。自社の人事だけにとらわれず、「そもそも人事ってどうあったらより良いか、面白いか」という視点を持つことです。「自社の課題をなんとかしたい」という課題意識のみを抱えて参画すると、どうしても議論が小さくまとまってしまいがちです。「チョー魂」では、メンバーそれぞれに「人事」に対しての熱い想いがあるので、他社の課題に対しても「こうしたらどうだろう」という提案が活発です。さらに発展して、「日本の人事を変えるために、こうできたら面白い」という話もよく出ます。
そういう視座を高める方向に持っていく役割はメンバー皆が担っていますが、やはりリーダーであるチョーノさんの「人事」に対する熱さが、皆の熱さを引き出してくださっています。
長野:高山さん、ありがとうございます。自己肯定感が高まりました(笑)。
私が意識していることといえば、「ここでは何を話してもいいんだ」と思ってもらえるような環境にすることですね。我々は、本音を語れるからこそ意味のあるコミュニティな訳なので。
その関連でいうと、私はよく高山さんをネタに笑いを取るのですが、高山さんの献身性には感謝しかないです(笑)。
山田:私見にはなりますが、チョー魂に限らず、長く継続している自主的なコミュニティにはメンバーが「こうなりたい」「こうありたい」といった明るい未来像を持っている他、いくつか共通項があると思いました。
例えば、
- 参加者各々が、“自分の強み”をコミュニティの中で活かせて、無理なく役割分担できていること(懇親会の幹事が得意、日程調整が得意、資料の可視化が得意、司会進行・ファシリテーションが得意、盛り上げるのが得意など、どんな小さなことでもOK)
- 自分事化して考えられるメンバーで構成されていること
例えば、他社の事例であったとしても、自分だったらこんな風に考えるなど、主語が「自分」または「私たち」であること。 - (持ち回り制の場合は特に大事)自分の番になったときに止めないこと(苦笑)。忙しい場合は無理せず、話したいテーマをもっている方に速やかにバトンを繋ぐことも大事だと思います。
伊勢田:コミュニティ活動成功の秘訣は、全員前のめりに参加するということに尽きると思っています。活発で意味のある議論の場にしたいのであれば、受け身姿勢の人の存在が大きな足かせになります。とにかく前のめりに議論に参加する姿勢を全員が持つこと。あと加えるのであれば共通の明るい未来像を掲げるということなのかなと思います。
長野:こうして私たちの活動を見返してみると、面白い集団だなあ、と思います。意識高い系なんでしょうけど、かなりユルい繋がりです。お互いにベッタリではないが、信頼はしている。そして「考えるなら、まずやってみよう」という行動原理を持っている。
自主性を促しながらも、フォローをしてくれそうな優しさがある。そういうムードを、「チョー魂」に感じますね。
今後は「チョー魂」でイベントなども開催したら面白いだろうなと思っています。