専門職と総合職に共通する「4つの育成視点」とは?
総合メディカル様は人財の育成にあたり、「4つの育成視点」をもって教育体系を構築されています。その育成プログラム導入の背景についてお聞かせください。
人事本部 人事部長 水口 真一(以下、水口):総合メディカルグループは、1978年に医療機器のリース業から事業を開始し、「よい医療は、よい経営から」をコンセプトに経営コンサルティングとDtoD(Doctor to Doctor:医業継承・医療連携・医師転職支援システム)をベースに医療機関のトータルサポートを行っています。医業支援事業においては、医療モール開発や病院建替え支援、人材派遣や病院アメニティなど年々サービス領域を拡大しています。また、創業10年後には調剤薬局事業を開始し、現在全国に736店舗を運営しており、電子お薬手帳やオンライン服薬指導に対応したアプリ(タヨリス)の自社開発などデジタル事業を融合したビジネスポートフォリオ構築を行っています。
私も松尾も入社時は薬剤師として勤務し、その後はブロック長として急拡大する調剤薬局事業のマネジメントに従事してきました。地域医療において薬局に求められる役割を果たしていくためには、そこで働く薬剤師とRCS職※の教育、そしてエンゲージメントがいかに重要かを体感し、現在は人事として制度作りやサポートを担う立場にいます。
※RCS職:ラウンドケアスタッフの略。薬局事務職。事務処理に留まらず、待合室や薬局全体に目を向けケアをすることができるスタッフという意味が込められている。
人事本部 人財育成部長 松尾 里絵(以下、松尾):当社の事業は「医業支援事業部門」「ヘルスケア事業部門」「デジタル事業部門」という3本の柱から構成されています。医業支援とヘルスケアは歴史ある事業であり、それぞれ専門性を高めるための社内教育・認定制度を構築し、長年にわたって運用してきました。一方で、事業拡大に伴い、部門によらず、変化の激しい時代に対応できるポータブルスキルを備える次世代リーダーの育成の重要性も増してきました。そこでいずれの職種にも共通する概念を導入し、人財育成制度として体系化したのが「4つの育成視点」です。
「①知識やスキル」に加え、それらを効果的に活用する「②コンピテンシー」、企業理念に基づく志である「③マインド」「④経験」という4つの視点であり、これに基づき教育体系を構築し、昇格制度とも連動させ運用しています。
水口:薬剤師の皆さんは大学の教育カリキュラムにより高い専門性をもって入社いただいておりますが、その後の卒後教育が適切になされないと患者さんに価値提供ができないという課題意識の下、導入したのが「GOES(Gradable OJT Educational System:階層別OJT教育システム)」という教育制度でした。
また薬剤師自身も企業を選ぶ際、いかにスキルアップできるかを非常に重視します。弊社では、このGOESを教育基盤として、様々な教育研修機会を設け、薬剤師の専門教育支援を行っています。また、薬局長やブロック長などキャリアが上がっていくと、専門教育に加え、コミュニケーション力や考える力などの「コンピテンシー」、医療を通じてどう社会に貢献するのかといった「マインド」や「仕事を通じた経験」がより重要になってきますので、キャリアの節目で「4つの育成視点」に沿って振り返ることも行ってきました。
医業支援事業においても専門性教育制度を構築しており、それが「PPI(Process Practice Innovation)」です。
PPIは3つの分野で構成し、具体的には、医師の開業支援や人材紹介、医療モール開発など事業サービスに必要となる「専門分野」、医療業界や財務などの「基礎分野」、コンサルティングに必要となる面談スキル・マーケティング・戦略立案などの「ビジネススキル」の3つです。各分野で必要な知識やスキルを体系的に学べる仕組みとしており、レベル認定を行っています。上位レベル保有者には後進育成に携わってもらう仕組みづくりも強化しています。こうした教育制度により、創業以来重視してきた、医療機関のパートナーとしてその信頼に応えることのできる高い見識を持った人財育成を目指しています。
現場での業務に日々奮闘する専門人材に
キャリアへの気づきを与えたい
薬剤師など専門職の人財育成において、何を大切にしておられますか?
松尾:2点あり、1点目は専門知識だけでなく、ヒューマンスキルやリーダーシップを磨くことに注力しています。薬剤師は個人として患者さんと向き合い役割を果たすことも必要ですが、前提としてスタッフと連携し、チームとして貢献することが重要なためです。例えば、在宅医療の推進において薬局薬剤師、医師や看護師、介護職など複数の職種とコミュニケーションをとって情報共有し、患者さんとそのご家族にとって最適な医療提供のために、連携し一専門家としてチームを引っ張っていくことが求められます。
2点目は専門性を磨いてもらうことです。そのための施策として、2007年から「専門薬剤師(社内認定制度)」を設け、がんや糖尿病、プライマリケアなど領域別にスペシャリストを養成しています。
専門薬剤師は患者さんに対してより専門的な医療を提供するほか、学術研究ヘの参画による薬剤師の職能発揮、人財育成への貢献、地域貢献など様々な期待が寄せられています。社内研修において講師として登壇したり、1998年から実施している社内学会「ファーマシーフォーラム」や外部学会で発表をしたりする機会を設けることで、アウトプットの幅が広がる仕組みづくりをしています。現在、社内には100名以上の専門薬剤師が在籍し、活躍しています。
マネジメント層のヒューマンスキル育成において、何を大切にしておられますか?
松尾:現在の医療業界は、少子高齢化やデジタル化の進展などを背景に、変化の激しい時代を迎えており、限られたリソースで効率よく医療サービスを提供することが求められています。そんな状況下で、弊社がマネジメント層育成において大切にしているのは、「人財育成」と「変革推進」です。
当社では「信じて任せて、人を育てる」の概念のもと、OJTを中心とした現場での人財育成を重視しておりますが、実現のためにはマネジメント層が計画性と柔軟性を持って部下とコミュニケーションを図ることが必要です。また、マネジメント層がこれまで足を踏み入れたことがない領域に踏み出せるように、チームビルディングやコミュニケーションを通じて「変革推進」できるようになるための研修にも注力しています。
具体的には、事業戦略を実行し、成果を出せるマネジメント層の育成は、リーダーシップ開発プログラムである「SCHOOL」が担っています。その中には「成果を生み出すリーダーのコミュニケーションスキル」「目標設定と達成状況の振り返り」「変革推進リーダーシップ」などのプログラムがあります。
水口:弊社は、2020年4月にMBOにより株式非公開化し、ビジネスポートフォリオの再構築など変革期にあり、変革を担うリーダーの存在が大変重要になってきています。また、薬剤師のあり方も大きく変化してきました。それは「対物から対人へ」、つまり薬を正確にお渡しするだけでなく、医師をはじめとした医療従事者としっかり繋がり、専門家として頼られたり、患者さんの抱える課題に対して地域社会に溶け込みながらコミットしていったりする役割が求められるようになりました。そうしたなか、薬剤師も専門性だけでなく、リーダーシップを発揮することが求められるようになり、上記の「SCHOOL講座」の必要性が高まってきたと言えると思います。
仕組みだけでなく、自律的に学ぶためのカルチャーを醸成
多くの企業でリスキリングの重要性が叫ばれていますが、自律的な学びの難しさも指摘されています。その課題克服のためには「学び合うこと」が大切だとされますが、総合メディカルさんはどのような工夫をしておられますか?
水口:先述した「GOES」という教育体系にはレベルが設けられています。新入社員が基礎レベルに到達できるように、かなり以前から先輩社員が教える文化が自然発生的に醸成されています。
また、社内の専門薬剤師が現場の薬剤師に持っている知見を、全国の拠点を結んでオンラインセミナーで伝える取り組みも行っています。
松尾:さらに、社内SNSの運用も挙げられます。各薬局店舗が行った良い活動について写真を投稿することで、ほかの店舗も学び合えるシステムが構築されています。さらに「ブラザー&シスター制度」という、先輩社員が新入社員のよき相談相手となって新社会人生活をサポートする制度もあり、取り組みの一つとして、地区での学びあいの支援も行っています。
医師の負担増加や人手不足も深刻であり、医療DXも必要かと思います。総合メディカルさんでは、DX人財を育成するためにどのような試みをしていますか?
水口:約2年前にデジタル事業部門を立ち上げ、患者さんの健康管理やオンラインでのお薬お渡しにも対応できるヘルスケアアプリ「タヨリス」を開発し、2024年2月にはオンラインでのお薬お渡しをメインとした「そうごう薬局 蔵前JPテラス店」をオープンしました(勿論、対面も実施しています)。
このプロジェクトではプロジェクトマネージャーやエンジニアなどキャリア採用を行いましたが、社内からも薬剤師や営業、コンサルなどの多様な経験を持つ人材を登用しました。DX人財の育成において座学や研修も一程度有効ですが、実際にビジネス経験を積ませること以上の成長はないと彼らの圧倒的なスピードでの成長から実感しています。
松尾:薬局において従来、紙ベースだった処方箋が今後電子化されていきます。患者さんが自宅から一歩も出ずにお薬を受け取れるようになると、たとえば福岡の患者さんが東京の薬局を選ぶことも可能になり、場所に関わりなく「選ばれる」薬局になる努力が求められます。薬剤師が専門性を高めることはもちろんですが、デジタルスキルも必須になっていくはずです。
今後の研修としての展開は、DX人財育成における上位層のマインドセット研修や、一部専門職に対する外部派遣研修などを予定しております。
現場で患者さんや医師を支える社員に
スポットを当て続けたい
総合メディカルさんの「わたしたちの誓い」は「社員が心から仕事に燃え、天職と確信し価値高い人生を送るための社員の生き方」と定義されています。総合メディカルさんが考える「キャリアオーナーシップ」とは何か、教えていただけますか?
水口:働く未来コンソーシアムに参加し、参加企業の皆さんと意見交換するなかで、医療従事者のキャリアオーナーシップについて考える良い機会をいただきました。薬剤師など医療従事者はコロナ禍でエッセンシャルワーカーという言葉でフォーカスされましたが、当社社員も日々忙しい中でも真摯に患者さんと向き合い、地域医療を支えています。
多くの社員は、患者さんや地域医療に自身の専門性やホスピタリティを通じて貢献することに大きなやりがいや誇りを感じており、そのためにも自身の専門性や経験を積み成長したいと強く思っていると思います。
一方、日々の忙しさのなかで、自身のキャリアを考える時間を設けることが難しいのも現状であり、ともすると仕事への貢献感の低下につながりかねないと考えています。私たち人事部門は、そうした現場の現状を適切に把握し、そうしたなかでもキャリアの振り返り・スキルアップできる機会を適切な手段で提供していく必要があると思います。
松尾:北海道から沖縄まで、弊社はさまざまな医療現場を支えている人たちで成り立っています。現場のメンバーにスポットを当てて、それぞれが自分の役割や価値を実感できるような仕組みや仕掛けづくりを人事として支援したいと思っています。
来期以降ですが、誰もが当社で自分の適性にあったキャリアを形成できるよう、キャリアコンサルタントのアドバイスを受けられる組織体制も検討しています。また、2022年から人事制度が改正されて、専門職が執行役員までキャリアップできるチャレンジングな試みもあります。こうした社内の仕組みによって、キャリアオーナーシップがますます活発になることを願っています。
構成:河合 良成・杉本 友美(PAX)
企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)