第1分科会 人事と他組織の接続(経営・事業との連携など)
現在、各社の比較をしつつ、さらなる課題の洗い出しに専念しています。まずは、整理した「現状課題」、未来の理想像である「ありたき姿」、そして「理想とのギャップ」をまとめました。
私たちの分科会では各社ごとに細かな課題は異なります。しかし、共通の課題として「キャリアオーナーシップの浸透について、経営層、部門責任者へどうアプローチしていくか」が重要なテーマではないかと考えています。
経営陣については、そもそもキャリアオーナーシップの重要性を人事として十分に訴求できていないのではないか、という点が挙げられます。定量化がひとつの手段になるとは思いますが、我々としてはさらに、定量データをどういった手法で使っていけば、より経営陣に重要性を訴求できるかという「訴求するために必要な条件」を洗い出しています。
また、経営陣だけでなく部門責任者にどうアプローチしていくかについては、さらに考えていきたいと考えています。田中研之輔先生から分科会でもコメントをいただき、「どのタイミングで」「誰に」「どうやって」進めていくか、具体的なアクションプランを立てていく必要性をご指導いただいています。
今後、第1分科会ではさらに経営陣・部門経営者それぞれの課題を深ぼりした上で、行動指針を作っていきたいと考えています。
タナケン先生からのフィードバック
人事部門の役割が歴史的に転換を迫られている危機感を共有する、というのが第1分科会の共通の課題であるかと思います。現在、人事は「不都合な関係」に置かれています。経営陣に比べて、人事は下部組織に置かれてしまっているからです。
従来型の企業経営には「人を事業にはめていかねばならない、合わせていかねばならない」という考え方がありました。その結果、人事部門が事業に合わせた調整セクターになっていってしまったのです。
人事はこれから「人的資本経営・元年」として、人事戦略をリードする立場となるべきです。人事組織にもKPIを設定し、「こういう施策を打ったら3ヶ月、6ヶ月で事業にこの変化が現れます」といえるようにならねばならないのです。リソースが足りない、という言葉では突破口が見えませんから、どこと協調すれば人事戦略を作っていけるのか……と考える必要があります。
たとえば、「キャリアオーナーシップについて、法人営業部門はこう進めましょう」といった、パターン化した協働のアプローチを作っていければ良いですね。キャリアオーナーシップを浸透させていきつつ、人事部門としての戦略設計を進めていくことが大切です。
現状、人事の各メンバーは「人事のプロ」ではないことが多いはずです。他部門からいきなり異動を命じられ、腰掛けで3年程度在籍するケースも少なくありません。この構造自体がまずいわけです。これからは、人事の知見を積んだ人が、人事戦略を作って行く流れになると思います。
第2分科会 人事の役割と必要なケイパビリティ
私たちの課題も、第1分科会と似ていると感じています。現状としては、今までキャリアオーナーシップという概念がなかったので、サポート体制もありませんでした。
そういった前提で、いきなり自律的キャリアや社員の能力育成の議題が出ても、各社の現場は混乱している状況です。
私たちも各分科会のみなさんと一緒に議論・ヒアリングをさせていただきつつ、大事な要素を記述し、共有することをゴールとして設定したいと考えています。
我々はまだ「誰にアプローチしていくか」という部分まで議論は進んでいないのですが、まずは参画企業のヒアリングスケジュールを立てました。
実際にヒアリングする中で、施策を実施する上での苦労や、どこを乗り越えなくてはいけないかを先進的な企業から伺うことで、抽象化したアクションプランを立てていけるのではないかと思います。
タナケン先生からのフィードバック
なぜ「キャリアオーナーシップ」という言葉を大事にしているかについて、自立型キャリアでは言葉が強すぎる、といったお話を前回させていただきました。
かつて経団連から「このままのキャリア形成では無理がある」という発表があったかと思います。さらに、新型コロナウイルスがやってきました。このような流れの中で、第2分科会が果たしていくべきゴールを考えてみましょう。
というのも、私は「人事の人たちも困惑しているな」と思っているんですね。現在は、ロールモデルがない状況ですから。
そこで、「人事に求められるケイパビリティが、この3年くらいで大きく変わっているのだ」ということを、施策として広めることが重要ではないかと思います。コンソーシアムではよく「経営陣、管理職、メンバー」といった人事以外の方に対するアプローチを考えますが、人事に対してもメッセージを伝えていく必要があります。
第3分科会 企業文化の醸成・適合
私たちの分科会ではまず、現状課題を各社で共有しあいました。
<各社から出た現状の課題>
- 自律的キャリアデザインが描けない
- キャリアオーナーシップに対し、経営層・マネジメント層の理解がない
- ひとつの会社で働き続けることへの疑問がある、会社への帰属意識が薄い
- 働きがいがあまりない
- ミドル・シニア層にキャリア自律をする概念がない
- キャリアが組織に依存してしまっている
<企業文化の醸成・適合におけるゴール>
- キャリアオーナーシップを一人ひとりが理解し、自ら行動できる状態になる
- キャリアを地域・世代・職種に関わらず共通言語で語れる
- 自分がどうしたいのか「ありたき姿」を描く環境・機会を作る
まず、各社で課題を話し合ったところ「状況がバラバラである」ことが再確認できました。1社で勤め上げることが前提となっている伝統的な会社では「キャリア意識が希薄」という課題を抱えがちなのに対し、先進的な企業では「キャリア意識はあるが、会社への帰属意識が薄い」という課題が出ました。
しかし、立場は違えども共通見解として「キャリアオーナーシップを持てていることは、社員にとって重要である」という理解に至りました。そのため、キャリア意識を持つ重要性を、組織へ醸成・浸透させていくゴールを作りました。
タナケン先生からのフィードバック
議論が進んでいますね。ここまでの発表を見ていくと、第3分科会がキャリアオーナーシップにおける出発点で、第1分科会・第2分科会が続けてアクションを起こすイメージですね。その意味でも、第3分科会が大事な地点になると考えています。
私の調査では、98%の企業が年に1回はキャリア研修を実施しています。しかし、問題なのはこれらのキャリア研修がうまく機能していないことです。その理由は、キャリア研修が過去の棚卸しに終始してしまいがちな点にあります。
私は、持続的な企業成長につながるエンジンがキャリアオーナーシップにしかない、と考えています。日本企業がこの数十年、爆発的成長を遂げられなかったのは、キャリアオーナーシップの不足にあるとすら考えているんです。
従来の組織内キャリア(⇔キャリアオーナーシップ)とは、組織内で人的資本を抑制し合います。「まだ私は3年目だから、5年目だから」といった思考で、先輩に任せることを続けていく。そうなると、キャリアオーナーシップは育ちません。
では、キャリアオーナーシップをどう醸成するか。これには、個人と組織2つのアプローチがあります。個人に関して言えば、「キャリアオーナーシップを認知・行動・持続させる」ことです。組織においては、人事評価にまでキャリアオーナーシップを入れなくてはならないと考えています。
やり方としてはまず、採用の段階で「公募制度があります」「副業があります」といったアピールをしていきましょう。また、入ってきた人たちにキャリアオーナーシップ文化を根付かせるための方法に、研修・文化づくり・トップメッセージの3つがあると考えています。
次に、キャリアオーナーシップの醸成について、手数を増やしてください。たとえば、企業の公式YouTube、Udemy、セミナー型研修、公募制度、副業など、多数のアプローチを用意すると「この会社ではキャリアを大切にしていいんだ」と社員が感じられるようになります。今までやってきた伝統に対して「創造的破壊」を第3分科会からどう出すかが大切です。
第4分科会 マネジメント層の役割と育成
第4分科会では、Excelシートを使って各社の課題、ありたき姿、そして理想とのギャップを書き込みました。
まだ一つにまとめる段階へは至っていないのですが、書かれていることの結節点をまとめると、以下のポイントが明らかになりました。
ポイント1 マネージャーの役割変化が必要
社員の活力向上支援、キャリアオーナーシップ支援…マネージャー自身も変わっていくことで、これらを先導する。
ポイント2 育成・支援のために求められることがある
‐キャリアの定義・必要なスキルについて知識のインプット
‐マネージャー自身の経験促進
‐全社的な可視化
また、これらを達成するために「評価制度へどうつなげていくか」については、残る課題となっています。
タナケン先生からのフィードバック
発表の通り、マネージャーに対してキャリアオーナーシップをどう醸成するかについては、とても大事なポイントだと認識しています。具体的には、賞状やバッジなどを使った感情報酬が有効だと考えています。
管理職研修へ行くと、一般社員よりも熱意があるんですね。ですが「じゃあ、どうやって1 on 1の面談をすればいいの?」といった行動面で止まってしまう。そこで、人事部・経営層が背中を押してあげる仕組みが必要です。
これまで部署はチーム・部門の売上など、結果で評価されてきたと思います。それが、取り組みで評価される制度も追加していけると、マネージャーが動きやすくなるのではないでしょうか。
第5分科会 非連続な環境の設定(副業・リスキングなど)
第5分科会では、「非連続な環境の設定」、すなわち越境体験を通じて効果の見える化をしていこうというアプローチをしています。
前回までに議論してきたコンセプトとして「ゆるい越境」と「カチッとした越境」の2種類を混ぜ、「ゆるカチ越境体験」の効果検証をしていく考えです。
その上で、改めて課題にずれがないかを確認しました。最後に、このテーマは「やってみないといけない」部分が大きいので、次回から具体的にどんなアクションを起こすかについて、詰めていきたいと思っています。
他の分科会でも「各社で状況、課題が違う」点が挙げられていました。私たちは、この「違い」こそがチャンスだと考えています。各社で状況が違うからこそ、越境に価値が生まれるのではないでしょうか。
そのためにも、越境体験の「ゆるさ」「カチッと」とは何か、もう少し具体化しました。たとえば「ゆるい越境」を考えるとしたら1日で他の企業へ体験に行く、というケースもあれば、自分のスキルを他社さんでコンサルティングするだけでも越境と言えるかもしれません。
「カチッとした越境」も、業務工数なのか、期間なのか……といった定義を考えていく必要があります。最終的にはこれらを整理しますが、次回は分科会でアイディアを出し、具体策へ落とし込んでいきたい流れです。
そして、私たちはアイディア出しに使うフォーマットを作りました。
越境体験の具体案を出す上で「キャリア志向が高い、Will(意思)がある人」といったように、具体的な社員を想像して策を提案していきたい考えです。
さらに「キャリアにおけるどのタイミングで越境体験をすると効果がありそうか?」、ライフスタイルに合わせた議論もしていきたいところです。
タナケン先生からのフィードバック
かなり議論が進んでいますね。越境体験がキャリアオーナーシップに効果があることはデータでも出ています。次は整理の段階に入っていただいて、どんどんプロトタイプとなる案を出し、数値化していただきたいと思います。
たとえば、1日の研修と数週間の研修で効果にどのような差が出るか、といったデータを今後取っていけるとよいですね。
第6分科会 キャリアオーナーシップ人材やキャリアオーナーシップ経営の診断・可視化
私たちの分科会では、第6分科会は、そもそも「キャリアオーナーシップ人材が増えると、企業価値は持続的に向上するのか?」という、根本的な問いに向き合っています。
キャリアオーナーシップを高めることで、生産性や組織力にどう貢献できるかを、働く個人に調査する形で可視化したいのです。
その上で、具体的な現状の課題、ありたき姿、そして理想とのギャップを明確にしました。
そこで明らかになったのが、「キャリアオーナーシップは事業戦略との連動が見えない」という課題です。売上、利益など財務指標と連動できれば素晴らしいのですが、キャリアオーナーシップは「そこじゃないところ」にも相関がありそうだな、と考えています。
このコンソーシアムでは、人事戦略と事業戦略との連動を可視化していきます。その第一段として、人的資本経営の開示項目から、キャリアオーナーシップと相関がある項目を抽出する予定です。
議論の中で興味深かったポイントは、他チームと似ているかもしれません。
<議論に挙がったポイント>
- そもそも経営層は、キャリアオーナーシップを理解していると言えるのだろうか
- 無理にキャリアオーナーシップという言葉を使うのではなく、目的に合わせて伝え方を変えて「結果としてキャリアオーナーシップが育っている」状況を作れないか
- 共通尺度を作るとはいえ、画一的ではない多様性を持ちたい
- キャリアオーナーシップは「当たり前」と言われがちな風潮もあるので、事業にどういった影響があるのかマイナス面も含めてきちんと精査する必要がある
こういった点を踏まえ、キャリアオーナーシップを可視化する指標を作っていきたいと考えています。
タナケン先生からのフィードバック
ご指摘のとおり、キャリアオーナーシップを査定する尺度を作る上では「誰に向けた尺度なのか」を意識することはとても大切です。理想を言えば、キャリアオーナーシップの施策を実施した上で、変化を追える尺度になると良いですね。
今後の流れ
今後は、各分科会が設定したテーマにもとづいて議論を深めていきます。議論を深ぼりしていくフェーズとなりますので、時間をチームごとに割いてより詳しくディスカッションしていける形を目指す予定です。
企画編集:伊藤 剛(事務局 広報・啓発 責任者/キャリアオーナーシップ・リビングラボ責任者)
構成・ライター:伊藤 ナナ(PAX株式会社)、杉本 友美(ライティングファーム紡)
グラフィックレコーディング:松田 海(株式会社グラフィックレコーディング)