各ワーキンググループによる「議論したい課題テーマ」の発表
発表① 議論したい課題テーマ「人事の体制・ミッション設定の問題、人事パーソンのケーパビリティ不足」(Dチーム)
私のチームでは、To-Be(これからなってほしい期待値)とAs-Is(現状)を比較しました。
そこで、As-Is(現状)を見てみると、こんな声が挙がりました。
「マネージャーに号令をかけても、各社の現場は混乱していて、ライン長、課長層が自ら行動するところができていない。人事だけが迷走してしまう」
対策としては、人事による並走でサポートし、所属のライン長についても趣旨を理解し、キャリアオーナーシップを理解する上で何ができるかを考えていくことが必要です。
To-Be(これからなってほしい期待値)のイメージとしては、キャリアオーナーシップ経営を実践する会社における人事ミッションの先進事例を明確化する必要があります。
その結果、会社にとっての新たなキャリアオーナーシップ経営を導入するための考え方・動き方がわかるのではないかと、期待しています。
田中研之輔先生コメント
私は、個人的に「中間管理職」という言葉が難しいのではないかと考えています。「管理」という言葉が強すぎるのです。言い換えるなら、たとえば「グロースマネージャー」といった立ち位置で、組織を支援していく必要があると考えています。
さらに、キャリアオーナーシップを考える上では、世代間の断層があります。経験値を詰んだマネージャーは、キャリア自律を形成できていないんですね。ですから、ゼロイチでキャリア形成する点にブレーキがかかります。単に「変わりましょう」という声をかけるだけでは変わらない。もう一歩、踏み込んでいく必要があります。
そのためには、emotional reward(感情的な報奨)、たとえば表彰やバッジの付与など、感情を動かすわかりやすい報奨が望ましいと考えています。
マネージャー層と比較したときに、30歳~35歳以下は、キャリア自律について大学で耳にしている世代です。だからこそ、会社を辞めていってしまう。組織内キャリアは、自律型キャリアに合わないからですね。そのため、自律型キャリアを促進するためには、インセンティブ型の制度に踏みきる必要性があるのではないでしょうか。
発表② 議論したい課題テーマ:「企業の成長につながるCOを持つ社員を増やすための施策」(Aチーム)
私たちのチームでは、「企業の成長につながるキャリアオーナーシップを持つ社員を増やすにはどうしたらいいか」が共通の課題でした。その中でも、大きく課題は2つに分かれていました。
<パターン1>
- 会社がキャリアのレールを引きすぎていたため、個人のWILL(意思)が弱い
- 平均年齢が高い会社で、若手のやる気を引き出すこと/シニアの活性化は、異なるアプローチとなりそう
<パターン2>
- WILL(意思)はあるが、組織内での実現方法がわからない
- 自分でキャリアを考え、自社へ転職してきた人が、また他社へ転職してしまう
そこで、これら2つのパターンについて議論しました。
まずは、キャリアをどう定義するか。異動や越境、昇進だけでなく、現在の職務も捉え方によってはキャリアになるのではないか……と、伝えていく必要性です。
たとえば「昇進できないなら」「好きな仕事ができないから」転職します、となってしまう方に対して、今の職務でのやりがい、やりたいことの繋がりをミドルマネジャーが提案できると、WILL(意思)が強い方でも組織の成長と両立できるのではないか。といった議論になりました。
田中研之輔先生コメント
私からは、この課題テーマに関わる「世代間の達成感」についてお話させていただきます。キャリアオーナーシップについて議論すると、どうしても世代間の話になりがちです。世代によって全然関心も働き方も違う。
ですが、シニア層に対しても、キャリアオーナーシップを考えるヒントを与えられると考えています。ひとつ言えるのは、シニア層が定年退職されてから、「個人事業主に多くはなる」という事実です。たとえば、雇用延長された先で年商500万円になったら株式会社を作ることになりますから、その視点からミドル・シニアへ「今を活かしながらキャリアどうします?」という話をしていく可能性があります。
世代間の活性化については、コンソーシアムでの議論から作り出せばよいと考えます。終身雇用は企業が甘えていた時代です。これまで、社員が辞めない前提で動いていました。我々はこれから、会社が「選ばれる時代」になっています。働き先として選び続けられるための施策を考え抜く必要性があります。
辞めようとは思っていなくても、今の職務・役割もありますから、必ず本人のキャリア形成やずれが発生するとは限りません。退職を選択する前に1:1など、具体的な対策を取れるわけです。まず、本人の今年やりたいことを書いてもらう。そして、それを社内で誰もが見られるプラットフォームを作る。そういったプロセスが他社事例でもあるのです。
キャリアオーナーシップは本人が幸せになるためだけでなく、企業が成長するためにもあるわけです。
発表③ 議論したい課題テーマ「社員のキャリア自律意識感・浸透策の検討」(Bチーム)
私たちのチームでは、まず「キャリア自律意識感、浸透作の検討」から始めました。
私たちが目指すキャリア自律とは、従業員に「キャリア自律感」を持ってもらうことです。ですが、経営陣や社員へ、「腹落ち感」を持たせることに苦戦していました。なぜなら、それぞれの社員が抱えるキャリア意識の違いによって、打つべき手の違いがあったからです。
特に、以下3つの課題が浮き彫りになりました。
- キャリアプランを書いてみて、といっても書けない
- キャリアプランを書いてもらっても、上司から自部署の方針に合わせるよう指導が入ってしまう
- さまざまな施策は準備しているが「総合的に何が必要か」は精査できていない
課題を明らかにしたところで、今後のステップについても合意しました。
<今後のステップ>
- いわゆる2:6:2問題における「中間層」である6割社員の定義づけ
- 目的の明確化、ゴールイメージの明確化、ターゲット設定
- 具体的な仕組みづくりの検討
- 検証項目、成果指標の検討
田中研之輔先生コメント
プレゼンを聞き、キャリア自律という言葉がパワフルすぎるかもしれないと感じています。自律というと、個人がやることでしょう、という誤解を招きやすい。だからキャリアオーナーシップという言葉を、最近は使っています。「社員ひとりひとりが、キャリアのオーナーになる」、それが組織をより良いものにしていくと感じませんか? というわけです。
キャリア自律は1980年代から唱えられているのですが、日本でなかなか広がりませんでした。2019年くらいからコロナもあって広まりつつありますが、いわゆる2:6:2の「6割の中間層」については、なんとなくキャリア自律に対してインプットしないし、仕事はなんとなくやっている……という方が多くいらっしゃいます。
また、キャリア自律に対してアレルギー反応を起こす方もいます。「キャリア自律だなんて、急に言わないでくれよ」と言われることが多い中で、キャリア自律の代わりとなる「キャリアオーナーシップ」は受け入れられやすいと考えています。
まずは意識を変えるよりも「3ヶ月でこう行動しましょう」とアクションを与えることで、6割の中間層にも響くのではないでしょうか。これから具体的なアクションを考えていただくと、社会的インパクトが大きく出てくるのかな、と考えています。
発表④ 議論したい課題テーマ「“ゆるカチ越境体験”の検証による個人のキャリアオーナーシップ向上および組織貢献の可視化」(Cチーム)
私たちは、他社への「越境体験」にフォーカスして話し合いました。ゆるい施策と、カチっとした施策を併せて実施する、名付けて「ゆるカチ越境体験」です。
越境体験を一つの施策に絞らず、ゆるい施策&カチッとした施策の両方を用意し、それぞれ実施して、効果を比較・検証したいと考えています。
<ゆるい施策案の例>
- 企業間を超えたメンタリング
- 1日体験副業、兼業
<カチっとした施策案の例>
- 数ヶ月にわたる副業・兼業
この「ゆるカチ越境体験」のハイブリッドによって期待される成果は2点あります。
- 個人の成長にとどまらず、企業ごとにあう越境体験とは何かを知るメリットがある
- 選択肢があるため、参画できる企業が増える
そして、今後のステップについては以下の通り進めていく予定です。
<今後のステップ>・ゴール設定の明確化、ターゲット設定
- 具体的施策(ゆるい&カチッと)の条件・内容を検討
どこまで人を出していくのか、給与は出るのかなど - 検証項目の検討
ゆるい&カチッと両方に通じる検証項目を決める必要がある
田中研之輔先生コメント
今リアルでの越境を100人単位でやると、準備も大変かと思います。しかし、いまならZoomを使い、プロジェクト単位でも実施可能です。
キャリア形成は大人になればなるほど難しくなりますよね。だんだん他社で行われていることに対して入れなくなります。カチっとした施策は昨年度スタートして反響がありました。それに加えてゆるい施策を足していくのは、大変価値があるのではないでしょうか。年1本とは限らず、10本単位でチャレンジしていただければ嬉しいです。
発表⑤ 議論したい課題テーマ「キャリアオーナーシップ人材の可視化と有用性の検証」(Eチーム)
私たちのチームでは、各社の課題をまずブレストしました。
- 社員が学びたいときに学べる環境の提供……自身が得たい経験に対して、ポストがあるか
- 経営から見た時に、ただ人が辞めている、という見え方にならないように配慮する必要性
- 企業から見たときに、何があると人材の流動性を上げられるのか?
- 経営戦略と人事戦略の接続
- キャリアオーナーシップの必要性の理解(特に経営にとってのメリット)提示
続けて、このコンソーシアムで何を議論していくかについて話し合いました。私たちのテーマは「キャリアオーナーシップの可視化と有用性の検証」です。個人としてのキャリアオーナーシップ状態を可視化し、それがもたらす効能を実証したいと考えています。
田中研之輔先生コメント
キャリア自律と人材の流動化というのは、ある意味経営層から恐れられています。「自律すると会社から出ていく」と思われがちだからです。「社員がキャリア上、滞留していてもいいのか?」という疑問符を提案していきたいですね。
得てして、滞留層は残りがちです。いざキャリアの流動性を高めると、エース級から辞められてしまいます。ですから、流動性をどのように作っていくか、考える必要があります。
ひとつのやり方としては「キャリアをプロデュースする企業、〇〇排出企業」として自社に見せてしまう方法ですが、これはなかなか真似しづらいですよね。そこで答えになるのが越境かと思います。組織内で越境による流動を起こして、どういうキャリア形成があるのか。組織を超えたキャリア形成にどういう意味があるのか。ぜひ試していただきたいです。
さらに、越境を前提とせず「社内だけでも実現できるキャリア流動性」も考えていきたいと思います。それが、組織内での公募制なのか、新規事業チャレンジなのか。さまざまな方向性はありますが、組織で働くことがよりよいものになっていく流れを見つけ出していきたいですね。
本年度議論していく課題テーマを6つに整理
最後に、5つのワーキンググループの内容から11の要素(サブテーマ)を抽出し、田中先生と事務局で6つの課題テーマに再整理しました。
今後、23社・団体の参画企業が、この6つの課題テーマごとの研究分科会に分かれて、約7か月間、議論を深めていきます。
企画編集:伊藤 剛(事務局 広報・啓発 責任者/キャリアオーナーシップ・リビングラボ責任者)
構成・ライター:伊藤ナナ(PAX株式会社)、田中夏奈
グラフィックレコーディング:松田 海(株式会社グラフィックレコーディング)