第1分科会 人事と他組織の接続
※図中CO=キャリアオーナーシップ
キャリアオーナーシップの重要性と推進をいきなり社内で公表しても、他組織に受け入れてもらうことは難しいかもしれません。そこで私たちは、2つの議論を行いました。
1. キャリアオーナーシップのアプローチ区分
キャリアオーナーシップを実現する上でのアプローチは、3つのパターンに分かれると考えました。そして、アプローチ別に「誰に」アプローチすべきかを区分しました。
- 人事主導のファクト積み上げ…マネージャー層へのアプローチを優先
- 経営主導のガバナンス改革型…部門責任者へのアプローチを優先
- 経営と人事が一体となったOSアップデート型…経営層・メンバーへのアプローチを優先
2. 「誰に」アプローチすべきかに合わせ、ジャーニーマップ作成
ジャーニーマップは、日本語に訳すと「旅の地図」です。今回、私たちはあたかも旅路を描くかのように、アプローチの順序を整理していきました。そうして生まれたのが、以下4フェーズです。
「キャリアオーナーシップ」の説明を受ける相手の心理的フェーズ
1)キャリアオーナーシップについて知らない
2)キャリアオーナーシップについて知っている(が、課題は発見できていない)
3)キャリアオーナーシップについて課題発見できている(が、行動は起こせていない)
4)キャリアオーナーシップについて課題解決に向け行動できている
今後は12月20日に向け最終アウトプットを作成していきたいと思います。
特に経営層・部門責任者向けのアプローチについては、他社さんにご協力いただければと考えています。
タナケン先生のコメント
以前、カゴメのCHOである有沢正人さんにゲストとしてコンソーシアムの研究会にお越しいただきました。その際に、カゴメさんがおっしゃっていたのが「トップスタート」の人事改革です。彼らは明確にトップを変える。すなわち、経営層にアプローチしなくては変わらないと指摘していました。
ですが、今回のコンソーシアムでは、人事部主導で経営層を巻き込んで行ける道を探るルートが生まれていると思います。
ミドルレイヤーであるマネージャー層や部門責任者から、どうやってキャリアオーナーシップへ向けて巻き込んでいくか。人事部が管轄だと、おそらく生まれる施策はキャリア研修になっていくはずです。ですが、それ以外の考え方を出していく必要もあるでしょう。
私から分科会への質問は、実際に大きな組織で、経営層へキャリアオーナーシップの話を持って行けているのでしょうか。ご状況を伺ってみたいのですが、いかがでしょうか?
――部門責任者へのアプローチはギリギリ頑張れるのですが、経営層へのアプローチが弊社の課題です。経営会議で根回ししてあげて、といったところで先進事例がないと難しいなと。
そうですね。とはいえ、貴社のような大企業であっても、はたらく未来コンソーシアムへの参加自体は、承認が取れたのだと思います。しかし、それはCHRO(人事トップ)までの承認で動いていたのではないでしょうか。
そこで提案なのですが、実際の行動もCHRO主導で動いていいのではないでしょうか。そして、メディア露出が増えてから経営層が気づく形でも、キャリアオーナーシップの実現はありうると思います。
――まさに先生がおっしゃったとおり、経営者からのトップダウンは難しいなという現状がありました。企業文化に合ったやり方を類型化し、進めていかなくては実現できかねるかなと。そこで生まれたのが、上記のやり方でした。トップダウンのキャリアオーナーシップ導入が難しい場合は、下からの積み上げ型でやっていければなと。
ありがとうございます。経営層も人的資本経営と言われるだけでは「何をしたらいいかわからない」課題を抱えているはずです。そこへ「何を、どうしたらいいのか」という具体的な図を見せると、話が動きやすいはずです。
具体的に「1ヶ月後までに○○をする、2ヶ月後までに○○をする」といった行動のジャーニーマップを作れば、役立つことでしょう。特に、企業も成長を目指す目的とキャリアオーナーシップが合致すれば、話は早いはずです。
他の分科会メンバーとのやりとり
「自社のイメージでいくと、一気に合意する上でもなかなか事例がないと「YES・NO」を言いづらいのではないかと思います。何かしらの「やって良かった・悪かった」ケースを積み上げてから、経営層へは提案する形が望ましいのではないでしょうか」
「キャリアオーナーシップの観点のみで経営層と対話できるかというと、なかなか我々もイメージがつかない状況です。他のすでに承認されたコンセプトと合せ技で提案できると、経営層も動いてくれるかもしれません」
「まさに昨日キャリアオーナーシップについて上申したところ、上司から『転職者を増やしたいのか』といった言葉をいただいてしまいました。
とはいえ現状を鑑みると、弊社の退職者は減らず、ぬるま湯として弊社キャリアが認識されている現状があります。そこをまず経営層と議論してから、キャリアオーナーシップを伝えていかないと成り立たないなと。また、キャリアオーナーシップを推進する上では経営層の覚悟がないといけないなと感じています」
第2分科会 人事の役割と必要なケイパビリティ
※図中CO=キャリアオーナーシップ
私たちのチームでは、前回いただいたコメントをもとに、今後検討すべきポイントをまとめました。
<主な「今後検討すべきポイント」>
- 古くから言われている人事の役割とキャリアオーナーシップを進める人事は異なるのではないか
- キャリアオーナーシップを勧めるための人事のジョブについてたたき台を作る上で、マネジメントに近いHRBP(Human Resource Business Partner=人事ビジネスパートナー)機能の強化がより重要になっている
- キャリアオーナーシップを勧めるための人事のジョブについてたたき台を作る
- 人事のプロフェッショナルとして活躍するためのコンピテンシーとは何か
- 人事関連のいずれのジョブに就いても、共通するスキルとは
- 成長実感×仕事の成果で見た場合のハイパフォーマー割合は新卒人事が高い?
成果の定義が従来人事を前提としたものになっている可能性あり - HRBPはその導入目的や会社の現状から同一名称でも役割の幅が広いのではないか
タナケン先生のコメント
今のCHRO(Chief Human Resource Officer=最高人事責任者)は、プロとしての業務になりつつあります。CHROと呼ばれる人材はどんどん他社へ移動して、変革エージェントとして会社を作っていかれている。
ところが現場の人事は、ローテーションで数年足掛けとして人事をやっています。ですが、ローテーション人材だけで人事は回りません。これからは、人事のスキルマップを明らかにする必要性があります。
また、「人事の役割は変わっていく」という話にとどまらず、人事にとっての「ジョブ型」とは何かを定義していくことが大切です。人事はいつも研修の窓口ですが、人事にとって必要な研修はカリキュラムからスポッと抜けています。人事にとって必須スキルとはなにか、そしてどのような研修が必要なのかをこの分科会で明らかにしていただきたいと思います。
プロフェッショナルとしての人事になるために必要な理想は「社内兼務」だと思います。人事をやりながら、兼務で他職種に就く。そうすれば、人事部にもビジネス知見が溜まりやすいはずです。
また、1on1についてはロールプレイングをして、モデルとなる1on1を見せないと実施できないのではないかと思います。キャリアコンソーシアムから一歩外に出たときに、どう1on1を実施すべきか、分からず困っている管理職の方はかなりいらっしゃるのではないでしょうか。
他の分科会メンバーとのやりとり
「キャリアオーナーシップを進めるのであれば、自分がそもそもキャリアオーナーシップを持っていないと進められないのではないか、と考えます。キャリアオーナーシップを進める人事として、過不足はないかと」
――おっしゃる通り、マネージャーも「ジョブ型」をいきなり指示されて困っている状況ですね。
「私はHRBP寄りで仕事をしています。個人の価値観が多様化する中で、一律に意見しても浸透しないなと感じています。ボトムアップ施策を多数打ち込んでいかないと、キャリアオーナーシップが文化として根付かないのではないかと。
ボトムアップ施策としてやろうとしている施策は、セルフキャリアドックや、1on1などです。ただ、効果検証がまだできていません。セルフキャリアドックとしては、社内のキャリアコンサルタント資格を持つ人が支援していく見込みです」
「人事が現場と兼務するのが望ましいというのは事実です。ただ、キャリア採用を人事で行うと、ITリテラシーの面で他職種へ適応できるかは疑問です。そこで、現場から引き抜いて人事を兼務してもらう形になるかと思います。
経営企画など、人事と兼務しやすい職種で実施していく可能性はあるかと思います。人事を幹部候補の通り道として、設置できれば理想的ではあります」
第3分科会 企業文化の醸成・適合
※図中CO=キャリアオーナーシップ
前回の発表時点では、現状の課題と実現までのギャップを提示いたしました。その後3回にわたって分科会内で会議を実施し、施策をブラッシュアップしています。
まずは、「企業文化の醸成・適合」がテーマである以上、醸成・適合それぞれの意味をしっかり定義する必要があると考え、議論を進めました。
まず、分科会に参加しているそれぞれの会社ごとにキャリアオーナーシップ施策のアイディア出しをしました。続けて、"醸成" "適合"それぞれに施策を分類しました。
<"醸成"に向けて必要なこと>
経営層がやることの例:
キャリアに関する今日的課題、キャリアオーナーシップの背景理解など
マネジメント層がやることの例:
キャリアオーナーシップ経営の正しい理解など
従業員がやることの例:
多様な価値観の受容など
そして、全層においてキャリアオーナーシップ経営の共通言語化、中期のキャリアを考えることが必要と考えています。
<"適合"に向けて必要なこと>
すでに意識が高い層へは:
越境、社外留職、複業、社外の人と1on1など
どうしていいかわからない層へは:
リスキング研修、ワークショップへの参画など
無関心・あきらめ層へは:
キャリアフォーラムなどへの参画、キャリア棚卸研修など
タナケン先生のコメント
ありがとうございます。このチームが実現しようとしているのは、いわゆる2:6:2の法則というものですね。これは、組織の構成比が上位2割の意欲的に働く層、中間の6割が普通に働く層、そして下位2割が怠け者になる、という定説です。
プレゼンしていただいた「既に意識が高い層」が上位2割、「どうしていいかわからない層」が中間の6割、「無関心・あきらめ層」が下位2割と考えると、とても分かりやすくなります。
そこで、会社の枠を超えてこの2:6:2同士を交流させる案を出したくなるものですが、実は、2:6:2の交流・特定は出来ていません。会社によって「ハイパフォーマー」「ミドルパフォーマー」「ローパフォーマー」を分けると、相対評価になってしまうからです。
A社の上位2割の人と、B社の上位2割の人のズレが生じてしまいます。できれば他社間の比較までできれば望ましいのは確かですが、それはかなり難しい試みです。もし他社比較するのでしたら「入社何年目の社員」「職位」などで分類する手があるかもしれません。
他の分科会メンバーとのやりとり
――他の分科会で進めていらっしゃる、キャリアオーナーシップを醸成・適合するうえで、どこまで進んでいるかわかるような客観的な指標があれば教えていただきたいです。
「他チームです。現在、キャリアオーナーシップ経営スコアを作成しています。個人視点・会社組織・環境視点でのキャリアオーナーシップをそれぞれ具体的に聞いていくような指標を作っていく見込みです。
特に、「会社組織/環境視点」のチェック項目で、オープンでフラットな企業風土づくりがどれくらい行われているのかについて、査定していければと考えています。
続けて、社員のエンゲージメントなど、すでに各社で調査しているデータと突き合わせて、たとえば「オープンでフラットな企業風土づくり」が進むと、エンゲージメントは上がるのか? といった調査もできればと思います」
――マネジメント層に求められる役割について、他の分科会からお考えをいただきたいです。
「現在、各社さんから情報を集約している段階ですが、共通点としては
・経営と一体化し、一般社員との結節点を作る
・組織のビジョンを示す
・高度な専門性を発揮し、組織運営や課題解決をリードして成果を上げる
が、役割ではないかと考えています。よりキャリアオーナーシップに注力した役割については、今後言語化していきたいと考えています。アウトプットの方向性としては2点考えています。
- キャリアオーナーシップ経営を推進する上で必要なスキルリストを明示する
- スキルを身につけるために求められている研修を提案する
これらが、他の分科会チームで頑張り抜きたいところです」
今後の流れ
次回は、第4分科会「マネジメント層の役割と育成」、第5分科会「非連続な環境の設定(副業・リスキングなど)」、第6分科会「キャリアオーナーシップ人材やキャリアオーナーシップ経営の診断・可視化」の3分科会の発表を行い、議論を進めていきます。
企画編集:伊藤 剛(事務局 広報・啓発 責任者/キャリアオーナーシップ・リビングラボ責任者)
構成・ライター:伊藤 ナナ(PAX株式会社)、杉本 友美(ライティングファーム紡)
グラフィックレコーディング:松田 海(株式会社グラフィックレコーディング)