ヤフー、キリン、KDDI、パーソルキャリアが語る「事業・組織・人事の戦略と同期方法」
本コンソーシアムでは、企業においてキャリアオーナーシップをどう推進し、事業の成長につなげていくかをテーマに研究を重ねています。その鍵となるのは「経営戦略と人事戦略の統合」ではないか、という仮説の元、「棚卸しシート」を作成しました。
本シートを用い、コンソーシアムに参加する全8社の代表者の方が、各社の事業戦略と組織戦略、そして人材戦略がどのようにつながっているかを可視化し、自己採点します。くわえて課題や今後議論したい内容を記載いただき、研究会でプレゼンテーションしています。人材戦略に関して現状を棚卸してもらいつつ、他社に課題共有することで、お互いの気づきと議論の発展につなげています。なお、こちらのシートのフォーマットは、皆様に活用いただけるよう、研究会の成果の1つとして公開しています。
「事業の変化と人事活動を同期するための棚卸しシート」
パーソルキャリア株式会社、ヤフー株式会社、キリンホールディングス株式会社、KDDI株式会社の順に4社がプレゼンテーションを行いました。具体的な話が数多く飛び出し、活発な議論が展開されました。
研究会の議論の内容は、こちらのグラフィックレコーディングにまとめられ、その内容を元に、ファシリテーターの法政大学・田中研之輔教授による整理が行われました。他の参加企業も交えて特に話しあわれたのが、下記の2つのポイントです。
4社のプレゼンから見えた2つのポイント
①誰が責任を負うのか
キャリアオーナーシップを全社レベルで推進する時に大切なのが「どこが責任を背負って推進するのか」である、という話が各社のプレゼンを通じて出てきました。
経営者がやれればいいが、費やせる時間には限界があります。ではどこのユニットが責任を持って推進するのか。そこを明確にできるかどうかが、大切なポイントになります。特に「組織が複雑になるほど、どこが意思決定をし、組織への浸透速度を上げていくのかが問題になるし、担当者間のパワーリレーションも生まれがちだ」という意見が出ました。推進する上では、グループ会社含む各役員の思いを踏まえないとならないし、関わる人たちの腹落ち感がないとなかなか進まないという現状もあります。
そんな中、参加企業の中には、人事の部門と、人材成長やタレントマネジメントのための部門を分けている会社もでてきています。新しい組織のあり方として今後に注目していきたい事例の1つです。
②キャリアオーナーシップ推進の効果測定・指標化
売上でははかれないキャリアオーナーシップの浸透の効果をどのように指標に落とし込み、効果測定していくかについて、企業から課題意識として共有され、活発に議論されました。社員の人材価値が上がると事業の価値が上がるという仮説があるものの、それを証明する方法論については各社模索中というのが現状です。悩みとして各社共通している部分でもあり、コンソーシアムの活動を通じて指標化の方法論を確立していきたいという意見も、参加企業から出てきました。
議論を踏まえた田中研之輔教授によるラップアップ
議論後、ファシリテーターの田中研之輔教授より下記のようなこれまでの研究会のまとめがありました。この仮説に基づき、次回の第5回研究会では、三井情報株式会社、コクヨ株式会社、株式会社LIFULL、富士通株式会社の4社による棚卸しシートによるプレゼンテーションが行われます。その内容を元に、更にブラッシュアップし「はたらく未来」への提言を形にしていきます。
4社のプレゼンテーションを終えて:法政大学・田中研之輔教授のコメント
事業戦略で考える視点と人材戦略で考える視点、どちらかを取るとどちらかが立たない、そんな構造になりがちですが、それをどのようにつなぐのかという議論を経て、組織戦略とは何かが見えてきたというのが、これまでの研究会の流れになります。
それをキャリアオーナーシップという観点で見ると、人材戦略の方で言えば、しっかりキャリアオーナーシップ人材を「増やしていく」というベクトルとなり、事業戦略の方で言うと、事業部をまたいで「つなぐ」、つまり事業間のつながりを作ってくというベクトルとなります。
この「つなぐ」と「増やす」の2つの実践が合わさり、正方形の面積がどんどん広がっていくイメージで、うまく相乗効果が生まれれば、実際に事業や組織が「変わる」のではないかという仮説を持っています。「事業間をつなぐ」ことと「組織を変える」ことをどう接続するかが経営戦略の要ですし、「キャリアオーナーシップ人材を増やす」ことと「組織を変える」ことをどう接続するかが、新人材戦略の要ではないかと考えています。
「変える」ための一歩目を「つなぐ」という縦方向に進めるのか、「増やす」というも横方向に進めるのか、これは各社の事業課題の中身や、置かれている事業のフェーズによって異なってきます。実際、各社の事例を伺っても、一歩目をどうするかはそれぞれ違っていましたし、これは当然のことかなと感じています。
ただ、いずれにしても、その歩みを2歩、3歩と進めていくうちに、組織が「変わる」ための構造を作っていきたいというのがこのコンソーシアムの大きな目的であり、そのステップを含めて、今度更に議論をしたいなと思っております。
これを抽象的に語るのではなく、具体的なアクションとして事業フェーズに紐づける形で可視化していくことで、構造や本質が見えてくるのではと考えています。
構成:河原あずさ・西舘聖哉(Potage)