事務局からのご挨拶
司会:
本日は午前、午後の部と分かれ、キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアムの各分科会へのフィードバックを、ゲストのお二人にいただく会です。午前は永島さん、午後は髙倉さんからフィードバックをいただきます。それでは早速、分科会の発表に入っていきましょう。よろしくお願いいたします。
各分科会のプレゼンテーションとフィードバック サマリー【後編】

第5分科会 リスキリングの「場」と「仕組み」のつくり方と実践

私たちはリスキリングの場づくりと実践をテーマにしています。リスキリングよりも個人の学びの継続が共通課題であるとし、そこを起点にスタートしました。そして、効果的な動機付けについて仮説を立て、3つのフェーズと4つの因子を見出しました。
3つのフェーズ
- 戦略
- きっかけ
- 強制と自律のバランス
4つの因子
- 経営戦略との接続
- 学びが必要な状態への導き
- 強制と自律のバランス
- コ・ラーニング(共に学ぶ)

(1) きっかけ作り (2) 学びの場の提供 (3) 成功体験を得ること、が循環することで、社員が継続して学べるのではないかと考えているところです。

そして、会社からの支援と自律的に学ぶ社員の割合が増えるにしたがって、時系列でどういう施策に変えていくべきかを話し合っています。
永島さんからのフィードバック
永島:
ありがとうございます。まず、リスキリングとキャリアオーナーシップとの関係を教えてください。
― キャリアオーナーシップが高い社員はリスキリングへの意欲も高いという部分があり、狭いスコープではあるかもしれませんが、リスキリングをやりたいと思っていただける打ち手を用意したいという意図です。
永島:
ありがとうございます。よくわかりました。知識とかスキル、これに加えて行動特性がセットにならないと、成果は生まれないですよね。今日の議論全般につながるところだと思います。特に「きっかけ作り」が大事ということですか。
― そのとおりですね。学びの場を作ることについては、e-ラーニングなど提供している会社さんは多いですが、それが使ってもらえない、続かないことが課題だと考えています。
永島:
キャリアオーナーシップって、会社は所属しているのではなく、今いるステージだと思うのですね。自身が会社とフェアに付き合っていると思っている。そして、キャリアオーナーシップを持っている方は、事業を知っている方が多いですね。だから会社の事業を知ってもらうのが大事ですよね。いかに他部署の紹介を出しても見てもらえない、といった問題が人事にはよくあると思いますが、こういった情報をどう見てもらうかが大事です。
キャリアオーナーシップを持ってもらうということは、リスクもありますよね。黙って仕事をしてくれた人が、キャリアについて意見を持つわけですから。だからこそ自社の成長機会をフェアに提示していくことになりますよね。
また、成功体験については周囲からのフィードバックが大事です。他社からのフィードバックで初めて自己認識が深まりますので。全体の流れが素晴らしいと思いますので、社員と企業の関係を1対1で見ていただけると、さらによくなると思います。
施策としてはたとえば、社内講師を使った研修もいいですね。リスキリングについては、意外と社内に講師がいるのではないかと。そして、講師はフィードバックを受けて成功体験をつめるわけですから。
― ありがとうございます。
髙倉さんからのフィードバック
髙倉:
日本企業にとって大きなテーマですね。この分科会は成功事例を研究しているようですが、私は逆に「なぜ日本人は学ばないか?」を調べてもらったほうがいいと思います。
日本人が一番、学習へお金も時間もかけていません。では、なぜか。これは私見ですが、日本では学ばなくても社内で評価されるからだと思います。周りとうまくやれる能力のほうが評価されていて、専門性や学歴は生意気とみなされる風潮がありますよね。
ですから、企業では「なぜ学びが大事か」を定義づけたほうがいいと思います。これから外部環境も変わる、今までの蓄積では戦えなくなると。世界市場で戦えるだけでのものを持ってもらわないと困るのですよと。また、せっかく学んでもスキルを使える場がないと、学ぶ意味がないですよね。そうなると相応の人事評価と、力を発揮する場が必要です。
さらには、「周りとうまくやる」ことに力を注ぎすぎて、学びの時間がない問題があります。飲み会に行って、上司に寄り添ってかわいがられることに時間を割かざるを得ない。
先日、アメリカ・サンフランシスコのセールスフォース社に行きました。そこの社員は「私はこれを学んで成果を出します。会社は費用を出してください」と交渉できます。いま日本でそういう場があるかというと、あまりないですよね。
こういった、バラバラとした仮説がある中で、優先順位を決めましょう。さらに、これらの仮説にはストーリーがあるはずなのです。まず学んだ人が評価される制度があり、そして学びを実現する予算がもらえて、さらに……といったように。会社の支援と本人の頑張りは分けたほうが望ましいです。
― ありがとうございます。まさに拡大していくテーマですので、優先順位を考えていきたいです。そのうえで質問させていただきたいのですが、以前は会社や組織としての打ち手を考えていたのですが、過去に田中健之輔先生からいただいたフィードバックで、「もっと個人がどうすべきかを考えてみたら」と言われてこの流れになっています。髙倉さんはそのうえでも、個人の取り組みより制度の考えを優先すべきだと思われますか。
髙倉:
そうです。結論、人は学びがお金にならないなら、学ばないと思うのですよ。その仕組みや評価基準あってこその学習意欲じゃないでしょうか。
― ありがとうございます。
第6分科会 越境活動の事業実装 -事業貢献の定量検証-

私たちは越境施策が事業貢献につながるかどうかを検証しています。越境体験が「なんとなくいい」ではなく、事業貢献するという構成要素とストーリーを定量的に示したいです。越境体験には社内と社外がありますので、それぞれ分かれてデータを収集、検証しています。

結果として、越境参加者はイノベーションへの前向きな視点を表すスコアや、エンゲージメントスコアが上がっていることがわかっています。また、質的なデータにおいても「業務意欲」や「アイディア活用」など個人・組織に正の影響がみられました。
ただ、もともとエンゲージメントが高い人が参加したことでスコアが改善したのかが見いだせていません。また、エンゲージメントサーベイは越境だけでなく従業員の環境全体で決まる課題もあります。しかし、ある程度の成果につながるのではないかと見ています。
永島さんからのフィードバック
永島:
越境体験は、コンフォートゾーン(安全地帯)から一歩外に出ていただくことが重要だと思っています。越境先はどういう風に決まっているのでしょうか。手挙げした人をマッチングしていますか。それとも、人事の指名ですか。
― 各社異なりますね。
永島:
越境で「どうやっていいかわからない、誰に聞いていいかわからない」といった経験をすることが大事ですよね。お客様扱いでは越境と言えません。越境体験で自分を成長させてくれるかが、エンゲージメントの要素と言えるかと思います。居心地のいいところに行ってしまったら、越境とは名ばかりのものとなってしまう。その越境先がどこかという点に示唆があればいいなと感じました。
― ありがとうございます。人事の指名か、手挙げでの応募か。そして、行った先でも成長機会を得られたかが、差異につながると気づかされました。
永島:
今まで培ったものが役に立たないけれども、フィードバックを受けて成長できる。こういった経験ができると越境体験に価値が生まれますよね。そこをちゃんと見てくれる人が越境先に設置されていることが重要なのでしょう。
イノベーションは、越境者がやることも多いですよね。喧嘩しながら事業を作っていくような。たとえば3か月の越境なら、最初の1カ月はきつい体験ができる方が大事なのではないかなと。行って楽しかったで済ませる越境ではなく「本当の意味で役に立つ越境」を提供できているかも調べてほしいです。
そうしないと、名ばかりの越境をまねする企業が増えてしまいます。どういう越境体験があるべきなのかという姿を提案していただければ嬉しいです。
髙倉さんからのフィードバック
髙倉:
越境の意義がこれから大きくなってくると思います。他社から見て自分がどう見えるかは、キャリアオーナーシップのみならず会社経営の観点からも重要ですね。すばらしい分析なので、一回みなさんの企業のトップマネジメントであったり、これまでに活躍された方の履歴を見ていただきたいです。
越境は突然地方に行ったり、全然関係ない業務に行ったりすることだけを指しません。たとえば、社内で全く異なる部署に行くことも越境です。これまでのトップはそういう意味で、社内越境を経験しているのです。そのプロセスで、今のトップたちは何を学んだのかを知るとよいでしょう。
こういった知見から、越境から得られる要素を拾い上げてみてください。
第7分科会 事業成長とつながるキャリアオーナーシップ行動の
起こし方

私たちは、キャリアオーナーシップの浸透について、特に郵便局のスタッフや、製造現場の方なども含めた浸透について考えています。中でも特に「現場の若手・中堅・非管理職のベテラン」へ注目しています。
議論の中で、企業内でキャリアオーナーシップが浸透するステップを4分類しています。
- 知る
- 理解を深める
- さらに理解を深める
- 実践を支援する
これをもとに、どういう打ち手があるかをインタビューしていきたいと思います。ただ、インタビューをすべきか、それともアンケートを打つべきかで悩んでいます。
永島さんからのフィードバック

永島:
この図のアウトプットに関して、何が入りますか。
― 施策です。
永島:
若手、中堅、ベテラン、シニアに分けてということですね。ちょっとこれは大変なのではないでしょうか。
― そうですね。ただ各社の悩みもばらつきがありますので、分類すると象限が分かれざるを得ませんでした。
永島:
そうですね。年代を絞ろうか、といった議論はありましたか。絞っていいと思います。みなさま、職種別で悩まれているようなので、職種別の提案が出ると面白いと思います。技術系と事務系でも変わりますし。
もし的が絞り込めるなら、インタビューでいいと思います。しかし、どうしても全体感を見たいならアンケートになると思われますね。ただ、やみくもなアンケートでももったいないのですが。前提として浸透していないはず、と考えてアンケートも作ってほしいですね。何を知りたいかをもとにアンケートやインタビューを作ってもらえればと思います。
― そうですね、アンケートをもとにしてインタビューができればなおいいと思いました。ありがとうございます。
髙倉さんからのフィードバック
髙倉:
キャリアオーナーシップを育てる施策を考えるうえで「ターゲットと、対象への打ち手を分類して考える」ことに賛成です。そのうえで、「キャリアオーナーシップがなぜ浸透しないのか?」を、以下のセグメント別にまず書いてみてもいいかと思います。

たとえば、若手が「キャリアオーナーシップを持ってもかなえてもらえる環境がない」、中堅の方が「今更キャリアオーナーシップと言われても困るよ」、シニアは「キャリアって何だろうって考えると、引退後のことを考えてしまう」と言うかもしれません。
たとえば、中堅層がこの仮説通りなら今後のキャリアを考えながら自社のパーパスと合わせていく会をやってみる……といった施策が考えられます。このように、浸透しない原因がインタビューによりつかめれば、仮説をもとに効果がありそうな施策を提案できるかと思います。あまり大上段に構えず、率直な声を各社で聞いてみたらどうでしょうか。期待しています。
第8分科会 自発的にキャリアオーナーシップを意識させる
実践的アプローチ -特定の不動層対応と具体的な打ち手- 1班

私たちは、キャリアオーナーシップ育成・浸透における不動層の対応を議論しています。と申しますのも、過去のコンソーシアムで打ち手は充実しているにもかかわらず、動かない層がいるからです。
施策の選び方や運用についてはまだ改善の余地があるなということで、不動層にもアプローチできる打ち手の優先順位を明らかにしたいと考えています。その打開するステップが以下3つです。

25社からアンケート結果をいただき、うまくいっている施策をまとめています。

横方向が浸透するステップ、縦方向には世代別に効果的だとおっしゃった施策のトップ3が書かれています。1on1は多数の企業で全年代に支持されていることや、30~40代ではあまり強制的な研修を受ける機会がないことが判明しました。
そしてアンケートをもとに、何をやっていくべきかのモデルケースをまとめました。

最終的には打ち手を若手・中堅・シニアに分類し「熱なら解熱剤」のように「若手には○○」といえる施策を提案したいと思います。
永島さんからのフィードバック
永島:
不動層の定義はどうなっていますか?
― 各社によってばらついています。
永島:
いずれにしても各社で選んでアンケートを取っていただいたわけですね。
― アンケートは不動層に絞らず、各社で有効だった施策を調査しました。
永島:
ありがとうございます。不動層に限定した施策を作ろうとしているわけではないのですね。
― はい、どちらかといえば、打ち手が多数あるなかで何から始めればいいかわからない人事部の方へ、優先度の高い施策を提案したいという考えです。
永島:
そうなるとキャリア1on1での上司との対話は鍵ですよね。要するにキャリアオーナーシップって自分だけで作れるものではないので。自己認識を高めるなら、周囲からのフィードバックが必須となります。自分のキャリアって、自分で決めたというよりは、周囲からどんなことに向いているかを教えてもらったり、ロールモデルを見つけたりすることで見つかると思います。
そのうえでさらに議論を深めるなら、1on1でも、50代以上にやるものと、20代のものでは異なりますよね。どういう違いがあるとよいのかを提案していただけるといいですよね。アンケートの分析結果が意義深いからこそ、それぞれを深掘りしていけるとなおよいかなと。
― ありがとうございます。
髙倉さんからのフィードバック
髙倉:
この班は成果をモデル化しようとしていますね。そこで、モデル化するメリットとデメリットを述べておきたいと思います。モデル化すると、まずわかりやすくなりますよね。そしてデメリットは各社の違いを無視してしまう。たとえば「ロートで聞いたことだから、自社でもやってみましょう」とコピーしても、成果が出ないことがあります。
効果があった施策を分析されていると思いますが、その施策がなぜ効果を持っていたのかまで調べていただきたいです。たとえば、「キャリア1on1がいいですよ」ではなく、どういう状況でどういう風にキャリア1on1をやるべきなのか、までが提案です。
たとえば、「部下のことを考える上司と部下でキャリア1on1をすべき」だとしましょう。さらに、繁忙期には実施してはいけません、なども考えるべきです。ここまでモデルには入れ込まないといけません。
こうしたモデルが生まれたら、実践していくと思います。実践すると施策のうち (1) 実践しなかったもの (2) 実践したけれども、効果が出なかったもの (3) 実践して効果が出たもの に結果が分岐するはずです。
その結果を追いかけて分析してください。たとえば、実践されなかった施策については、なぜ採用されていないのか。やっても効果が出なかったのはなぜか。また、「効果が出た」は何で測定するのか。ここまで考えてモデルにしてください。
この図のフローはいいと思います。最終的に循環していくと、キャリアオーナーシップが育っていくかたちですよね。このフローを実現するためにも、シンプルすぎるモデルにしないようご注意ください。
第8分科会 自発的にキャリアオーナーシップを意識させる
実践的アプローチ -特定の不動層対応と具体的な打ち手- 2班

私たちは第1班と施策を共有しつつも、ずばり不動層へのアプローチを考えています。前向きになれない層のペルソナを作ってみたうえで、キャリアに前向きになれず諦めている層への内発的動機付けをするような機会を議論しました。
実験的に、キャリアシートを活用した対話機会を設けてみました。実験した結果としては、一定の成果は出つつも、キャリアシートの質次第でネガティブな効果をもたらしうることがわかりました。キャリアシート面談の設計がかなり重要であると考えています。
永島さんからのフィードバック
永島:
ありがとうございます。キャリアシート面談は、上司と部下の対話ですか?
― いえ、自分が普段話さない方と対話してもらいました。
永島:
周囲との対話機会を意図的に作ったわけですね。1on1やメンターと異なる場として。面白いですね。キャリアの話をするときですが、ある程度社内キャリアが前提になっているならば、どんな事業なのかを知らないで話していると、少し難しい部分もあるのかなと。これは本人視点のキャリアに絞っているわけですかね。
― そうですね。事業とつなげたキャリア対話はすでにやっているので、違う打ち手を考えました。
永島:
それであれば、人事がやるもの、上司がやるもの、そしてこの施策、という組み合わせでどんな成果が出るのか、そして何をやるべきかを見せていきたいですね。
― おっしゃるとおり、複合的なアプローチのひとつとして加えるべきものかなと思います。そこを整理していきたいです。
永島:
キャリアシートを作りこむことが大事なのか、それより対話を優先するのか。対話って、結論が出ないこともありますよね。トピックだけを定めてやる。そうすると30分間「いやあ、本当はキャリアを考えるのなんて嫌なんだよね」と語って終わることもあります。ただ、それをよしとするのが上司面談や人事面談ではないメリットでしょう。それが浮かび上がってくると、何をやるべきかが施策として見えてきますね。
不動層にとって、キャリアオーナーシップについてしつこく語り掛けてくる上司ってしんどいと思うのですよね。「目の前の仕事をやっているからいいじゃないか」と思うはずです。
このアプローチは、退職者の理由チェックにも近いと思います。退職者って上司や人事には本当のことを言わず、周囲の方には本音を語ってくれることってありますよね。それに近いなと。格好をつけず、キャリアについて語れる場があるのは素晴らしいと思います。
髙倉さんからのフィードバック
髙倉:
不動層の定義をきちんとされたことに大きな意義がありますね。「キャリアを考えることに前向きになれず、諦めている」のであれば、なぜ、前向きになれないのかと、なぜ諦めたかを深掘りしたいですね。さまざまな理由があるとは思いますが、それを払しょくする打ち手が早道かなと思いました。
勝手に人事主導の施策を打つよりも、なぜ前向きになれないのか。たとえば「キャリアってわからない」という話なのか「最初から前向きになれない」のか「一度前向きになったけれど、諦めることになった」のか。この3パターンはあると思います。
これらを踏まえれば、内発的動機付けをするうえでのヒントが出てくると思います。
― 私たちの調査でも、相互理解ができていない、チャンスに恵まれない、人事異動の申請をしてもどうせ人事主導だから……といった理由が挙げられていました。そこで、これらの内容を深掘りしたいと思います。
髙倉:
生の声が集まっているわけですね。それをさらに要素分解して、どう打ち手を用意するか選んでいけるとよいですね。「諦める」にもさまざまな事情がありますから、それぞれに合わせた施策を打てたら望ましいと思います。
もし時間があれば、その施策をやってみたうえで、効果があるか実証してほしいです。そうすれば、他社がキャリアオーナーシップを浸透させたいときに「いやいや、キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアムで過去にこういう施策をやってみたけれど、うまくいかなかったというレポートがある」という資料になるわけですから。
― 私たちは手法を考えるよりも、実証を繰り返すチームだと思っておりますので試してみたいと思います。
髙倉:
よいと思います。理論で考えてしまうと、つい個別事情を忘れそうになります。そしていろいろな打ち手が出てきてしまいます。けれども、生の声を前にチャレンジしてみましょう。そのうえで、優先順位をつけましょう。不動層の中でも「この不動層は変えないといけない」と感じる層がいるはずです。たとえば若手、あるいは部下を持つマネージャーといった、不動層の中でも最優先する相手を見つけてください。
― ありがとうございます。今はあえて層を絞ってはいませんが、最終的には優先順位をつけたいと思います。
髙倉:
よいですね。最初に絞りすぎると議論が狭くなるので、その順序がよいと思います。楽しみにしています。
第9分科会 キャリアオーナーシップ実践を阻む壁とその打ち手
-キャリアオーナーシップ非協力者の相互理解と共存アクション-

私たちは、ネガティブな職場風土が醸成されていることがあると、組織の変化に対する反発があり、キャリアオーナーシップを実践する壁になると認識しています。そこで、組織内でキャリアオーナーシップへの理解者を増やし、キャリアオーナーシップを受容する職場を作る手法を議論しています。

この図は、キャリアオーナーシップの醸成されるステップを左下から右上に向かう図として、グラデーションで示したものです。
私たちは、従業員を (1) 伝統的なキャリア意識層 (2) キャリアオーナーシップ理解・関心層 (3) キャリアオーナーシップ実践層に分けました。ここでいう「伝統的なキャリア意識層」とは、キャリアオーナーシップの対極として「キャリアは会社が決めてくれるもの」という意識を持つ人々を指します。このような伝統的なキャリア意識層も、さまざまな打ち手を通して徐々に実践層に近づけていきたいと考えています。
永島さんからのフィードバック
永島:
ありがとうございます。ここから先、どうやって打ち手を出していく考えですか?
― まだ具体的なところは考えられていません。ただし、現在アンケートを実施しているほか、ヒアリングを実施していきたい考えです。
永島:
まずは「なぜそうなっているか」を明確にしたいのですね。打ち手とは、社員に向けたものだけではなく、組織の配置や人事制度を変えるべきだ、というものもあり得ますよね。それは検討されていますか?
― 現状は社員向けのものが多いかと思います。ただ、組織に不満があるのでしたら、異動も含めた打ち手があるのではないでしょうか。
永島:
結局、キャリアオーナーシップの考えをそもそも持たない方と、持っているけれども自社だと思い通りにならないと感じている方がいると思います。そこで私は、先にキャリアオーナーシップを実現できるような、環境設定が大事なのではないかと思いますね。
過去の組織では、みんながあれやりたい、これやりたいという希望を聞いていくと、人事も丁寧に配置を考えなくてはいけないから大変なのですよね。だから組織がキャリアを与えて、受け身でいてもらったわけです。そのままで生産性が高ければいいのですが、生産性が下がってきてしまった。
その前提を踏まえると、打ち手とは意識を変えることではなく、キャリアオーナーシップを叶える人事制度の変革かもしれませんね。キャリアオーナーシップを持つ方と共存したくても、自分のキャリアオーナーシップがかなわなければまた伝統的キャリア観に戻ってしまうわけですから。
― ありがとうございます。ステップバックすることを考えていませんでしたので、打ち手について幅広く考えていきたいと思います。
永島:
キャリアオーナーシップを持つ人と共存するフェーズって、リスクもありますよね。キャリアオーナーシップに覚醒してきているわけですから。人事のマネージャーに話を聞くと「キャリアオーナーシップに目覚めないでいてほしい」と言われることもあるわけですね。けれども、それで利益が上がらないわけですから。キャリアオーナーシップに目覚めてほしいなら、その方々に動いてもらう方法を考えないと。
不動層は「浮動層」ともいえると思います。キャリアオーナーシップに目覚めてもいいかなとは思っている方がいるわけです。その方々を考えていただきたいと思います。
髙倉さんからのフィードバック

髙倉:
このシートが面白いですね。伝統的キャリア観の持ち主というのは、キャリアオーナーシップを持たない人たちなわけですね。単純な疑問ですが、伝統的なキャリア意識とは何でしょうか。伝統的なキャリア観を持つ方は、すなわちキャリアオーナーシップを持たないだけの方なのか、それともキャリアオーナーシップを持つ方を阻害する方なのでしょうか。
キャリアオーナーシップを持つ人と、持たない人の間に共存者がいるということですか。キャリアオーナーシップへの非協力者・協力者・キャリアオーナーシップを持つ方の3分類をしたかったということ?
― まず、キャリアは自分で考えるものではなく、会社が決めてくれるものと考える方を非協力者と定義しています。
髙倉:
この図ではそれが見えませんね。黄色い線があるということは、この方々をキャリアオーナーシップを持ってくれという方向に導きたい、ということですか。
― 組織経営としてはキャリアオーナーシップを持ってほしいと思うのですが、他方でそこまでは至らないケースもあると思います。そこで、まずは他の方がキャリアオーナーシップを持つとなったときに、阻害しなくなることが大事であるなと。たとえば、上司本人にキャリアオーナーシップがなくても、部下のキャリアオーナーシップを否定しないようにする、といったことですね。
髙倉:
ありがとうございます。不動層にキャリアオーナーシップを持ってほしいのではなく、みなさんは現実的に「せめて、邪魔しないでくださいね」という見極めのラインを引いたわけですね。そうなると、伝統的なキャリア意識の定義と、それがなぜキャリアオーナーシップを阻害しうるのかについて説明しないとよくわからないロジックになりますよ。
極論ですが、もし伝統的なキャリア意識が実は「キャリアオーナーシップを持つこと」にあったとしたらどうでしょうか。そういった誤解を防ぎたいならば、定義をしっかりしてください。伝統的なキャリア観とは何か、今は答えられなくても構わないので考えていただきたいです。
実はこの分科会が成し遂げようとしていることは、かなり根源的で、大きな分析です。なぜ、今の日本にキャリアオーナーシップが必要なのかを問いかけるレベルのことです。頑張ってください。
永島さん、髙倉さんからの全体フィードバックと、
事務局からのお知らせ
司会:
本日は発表者の皆様、プレゼンテーションお疲れ様でした。永島さん、フィードバックをありがとうございました。ここからは、私たちの活動についてご案内します。
まず、私たちは「はたらく未来白書」「キャリアオーナーシップ経営の打ち手」を発刊しています。ぜひご覧ください。
「はたらく未来白書 2024」を見る
「キャリアオーナーシップ経営の打ち手107 – 2024 EDITION -」を見る
それでは全体フィードバックをお願いします。
永島:
今年のプレゼンテーションを通じて「やってみたうえでの課題」に触れていらっしゃる方が増えたと感じています。キャリアオーナーシップ施策を打っても動いてくれない方がいる、マネージャーが阻害してしまうケースがある、こうした課題が見えてきたのですね。
だからこそ、なんのためにキャリアオーナーシップの浸透や育成をやるのかを振り返り、施策を考えていく。そういうステージに進んだものと思います。髙倉さんからも実践に基づくアドバイスをいただけると思います。楽しみですね。どうもありがとうございました。
髙倉:
みなさん、ありがとうございました。それぞれのチームが真剣にお話になっている意義を感じました。キャリアオーナーシップをさまざまな角度で考えていらして、これまでのプロセスを知らずに初めて伺ったかたちですが、ここで企業を超えて討論されたことが、意義深かったと思います。
これからの期待値として、「はたらく未来」がこのコンソーシアムのテーマですから、どうかみなさんのキャリアオーナーシップを持って、この議論を進めていただきたいです。みなさん自身に「私はこうしたい、私はこうなった未来を楽しいと思う」という話をしてください。
日本人が好きな「かくあるべき論」から離れて、みなさんのキャリアオーナーシップがある発言をしてください。今後深い議論をされると思いますが「もっとこうしたい」という視点を持っていただければ、有益な機会になると思います。
司会:
ありがとうございました。それでは、最後にお知らせです。
私たちが過去の実績をまとめた「はたらく未来白書」「キャリアオーナーシップ経営の打ち手」を発刊しています。オンラインでもご覧いただけます。
「はたらく未来白書 2024」を見る
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本稿は前編・後編に分かれておりますので、前編も是非ご覧いただければと思います。
それでは、本日の会はここまでとさせていただきます。みなさま、どうもありがとうございました。
構成:伊藤 ナナ・杉本 友美(PAX)
企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)
グラフィックレコーディング:松田 海(ビズスクリブル株式会社)