第1分科会 マネジメント自身のキャリアオーナーシップ
私たちはミドルマネジメント層へのCO(キャリアオーナーシップ)浸透施策をテーマに議論してまいりました。現状、マネジメントには業務が集中しており、COを考える時間を作れないこと、そしてCOの重要性を理解しておらず、メンバーに促す動機がないことが、課題として判明しました。そこで、解決策として次の2点が挙げられます。
(1) メンバーへ権限を委譲することによるマネジメントの時間づくり
(2) 社内外での活動を通じてCOの重要性を把握していただく
さらに参画企業でどのような権限委譲が行われているかを調査し、うまく権限委譲するための手法を調べました。
そこで明らかになった権限委譲の手法が、上の画像です。たとえば、時間的余力を創出するための服務管理の委譲や、適切に処遇されるためのマネジメント一歩手前の役職設置、権限委譲に関するガイドラインの制定などを検証し、可視化していくことを考えました。
しかし、権限委譲ができていても、マネジメント層自身のCOができていないと、メンバーへCOを浸透させることはできません。
そこで、CO醸成につながる社内外のネットワーキング活動を4象限に分類しました。専門外・社外交流をすると、CO醸成に対する効果が見込めると判断しています。
タナケン先生とのディスカッション
これまでのプロセスを拝見しまして、CO経営の話がマネジメント層のレベルまで降りてきたことが、成果であると思います。CO経営をするなら、経営層だけでは難しい。そこでマネジメント層に注目すべきだと着目してくれました。
そのうえで、マネジメント層は困惑するわけです。そこでどうブレイクスルーして、COを育てるか。そこで社外交流会、地域活動といった対策が、1枚のシートで社内共有できるようになったことが成果です。現状は、絵は描けたので、これからテストしていく段階でしょうか。結果を見ていくのを、楽しみにしています。
第2分科会 越境体験の実践体系づくりとキャリアオーナーシップ効果検証
私たちは、掲題のとおり越境体験の実践体験づくりを通じ、CO効果を検証しました。越境体験は注目されていますが、どんな越境体験が存在するか、その要点は揃っていないこと、そしてどのような越境体験がどの企業、人財に適しているかが不明瞭でしたので、この課題に取り組みました。
具体的な取り組みとして、すでに越境体験を実施されている企業へヒアリングし、施策カードとしてまとめました。また、個人・人事部向けに「向いている越境体験の診断ツール」を作成し、意思決定のサポートができるようにいたしました。
発見として、同じ言葉で越境体験を提供していても、企業により制度、運用に大きな差があることが判明しました。また、同じ方への越境体験の提供であっても、心理状態や社内でのCOに対する意識の度合いでも、提案すべきプランは大きく変わると判断しました。
診断ツールは、このような形式です。雑誌の占いや診断ツールと同じように、辿っていくとたどり着けるようになっています。まだプロトタイプですので、これからブラッシュアップしたいと思います。
診断結果のサンプルは、上図のとおりです。
他チームとのディスカッション
――診断チャートで主語を会社ではなく、個人にした理由を教えていただけますでしょうか。
まず、会社と個人、いずれかに分けたほうがわかりやすいと思ったのが1点目です。もう1点、COの話ですので、個人主体の方が望ましいと思いました。人事部の方がご覧になる場合は、自社の方を想定していただいて診断していただければと思います。
タナケン先生とのディスカッション
発表、ありがとうございます。第1分科会の「マネジメント層へのCO浸透」の表にある、効果が高いとされる施策(第4象限)にでてきたものとセットで考えると、とても素晴らしい施策になりそうです。
「越境体験をすると、辞めてしまうのではないでしょうか」というのは、取材などでよく私が聞かれることです。しかし、実際には社内で気づきを得て、社内に活かしていただくためである、ということがこれで見えたと思います。さらに、越境体験をゼロから本人に選んでいただこうとすると、第一歩を踏み出すのが難しい。そのために診断チャートがあるのが、大きな前進になるかと思います。これからぜひ、本コンソーシアムをプラットフォームにして実際の越境体験を試し、診断も更新していっていただきたいです。
第3分科会 キャリアオーナーシップと事業貢献の見える化
我々の分科会は、「COはそもそも事業貢献に繋がっているのか?」と、コンソーシアムの前提を疑うところから始めました。各社のサーベイを見てみると、それぞれ経営課題からCOの進捗度合いも異なり、一律のデータ分析は難しいとわかりました。そこで、共通項目は残しつつも、会社ごとに検証することとなりました。
結果として、「COが高い人であれば、パフォーマンスが高い」と判明しました。しかし、部全体の売上・利益は外的要因も絡むため、単純な相関にはなりませんでした。
特にサンプル数が多い富士通さんのデータによると、COが高い「未来創造フェーズ」にいらっしゃる方は、個人成績が高い傾向にありました。また、COと売上など事業貢献との関連は、案件によって担当者が携わってから、売上として成果が出るまでの時間軸が異なるため、業界別の分析が必要であることがわかりました。
この分科会の非常に素晴らしかったところは、今後何をしていくかが具体的に見えたことです。今後、どういったアクションを取るかはプレッジ(宣言)として掲載していきます。各企業で実際のビジネスとCOの関連性を追っていくことで、さらなるCOの育成と、事業貢献に寄与できればと思います。
他チームとのディスカッション
――時系列、機能、個人成績といった因子をお選びになった経緯をさらに教えていただけますでしょうか。
属している組織の業態、工場勤務かオフィスかといったもので、COと事業貢献の関連性が変わるだろうというのは当初から想定していました。会社をまたいで共通因子は出せていませんが、現状は仮説としてある状況です。
タナケン先生とのディスカッション
チャレンジングなチームでしたね。そして、困難であったがゆえの有意義な成果が出せたことが非常に素晴らしかったです。COが上がれば、すぐ事業貢献に直結すると言いたいけれど、そうはならないこともありますよね。グローバルで競合との競争など、別の要素で事業がマイナスになることもあります。
次の課題は、富士通さんが定義した「未来創造フェーズ」に該当するCOが高い方が多いほど個人のパフォーマンスが上がることは確定したうえで、その人財を生み出せずに停滞している企業さんも多いところです。第3分科会で相関が見えたからこそ、次は変革の施策を実行していきたいですね。「我々社員の頑張りが、どういった変化につながるかわからない」と感じる社員さんが多いなかで、これだけの結果が明示できたことが素晴らしいです。今後は、年代別、フェーズ別、部署別などで分析し、次なるステップを進めていければと思います。
第4分科会 現場第一線で働く人財のキャリアオーナーシップ意識改革
私たちは、営業、販売、製造など、最前線の現場で活躍する社員がどうCOを醸成するかを議論しました。現場で抱える課題は、ルーティンワークが多いこと、そしてキャリアパスが画一的なところです。
まずは、第一線社員にアンケートを実施しました。第一線社員とは、営業、販売、製造、保守点検、配達などに従事する方々を指します。これらの社員のCOがなかなか進まない現状をふまえ、課題を抽出し、インタビューを実践しました。
タナケン先生が出しているCO診断の項目を活用し、7社で324名からアンケートを行いました。そして、診断結果のスコアと、やりがいを感じているかどうかで分類しています。
- 仕事がどう事業に貢献しているかが見えづらいとやりがいが下がる
→ チャレンジ重視の評価制度導入、1on1で上司と対話して評価を受ける - 業務量と業務時間がコントロールできないと、COが下がる
→ 現場向けのキャリアロールモデルを見せる、研修で外部組織に触れてもらう
という2点の現状分析と、打ち手のセットを考えました。
次期分科会では、業種別のアプローチをできればと考えております。
タナケン先生とのディスカッション
非常に興味深いですね。どうやってやりがいが低い状態を避けていくのかが至上命題ですが、ルーティン業務への向き合い方を「職人的にやる」ことで変えていければいいですよね。どんな業務も、「こなしている」と考えるか、「自分の役割だ」と理解するかで変わります。この差がかなり大きい。これはパーソナリティの課題なのか、上司のフィードバック次第なのでしょうか。
――ライフスタイルかなと思います。今回、アンケート結果は若手が中心だったのですが、そうするとCOが高いけれど、今の仕事にやりがいを感じておらず「今の仕事を続けていてもいいのかな」と考えている方が8名のみとなりました。もっと上の層になると「やりがいはないけれど、家族のために働く」といった形で、働き続ける方が増えるのかなと思います。
いい視点ですね。オペレーティブな仕事をしていると、たぶん上司のCO醸成が上手であるかどうかが、重要であるように思われます。1on1を短い時間でもいいから作り、キャリアの伴奏をしていくアプローチが望まれますね。
第5分科会 キャリアオーナーシップ浸透の実践における課題と打ち手
私たちは、組織のマジョリティである「現状停滞層」のCOを育てる打ち手を検討しました。三井情報さんがデータをもとに分析を始め、年代ごとにペルソナを作り、さらにジョブ型・メンバーシップ型に分け、昨年出した「打ち手100」を元に施策出しを実行しました。今後は施策の有効性を検証していきたいと思います。
そこで分かったことは、高パフォーマンスの社員にも現状停滞されている方がいらっしゃる。そういう方は、現状で結果が出せているからこそ変化への恐怖を抱いていることがわかりました。
そこで、施策を4つのフェーズに分け、さらに世代別にソートしました。
- COを知る機会の提供
- 理解を深める機会の提供
- さらに理解を深める機会の提供
- 実践の支援
そして、それぞれのステップごとに打ち手を提案しました。
他チームとのディスカッション
――他部署ですと、優先順位を見つけて大事なところに注力しますが、人事ですと「誰も取り残さずに、CO停滞層へもアプローチする」重要性が明らかになり、勉強になります。マネジメント層のCO醸成にもつながる分析であり、大変勉強になりました。
タナケン先生とのディスカッション
単にデータを切り取って「停滞層です」と語っても、何も答えにはならないですよね。そこで、なぜ停滞しているのか、そのペルソナと特性を洗い出したことが素晴らしいと思います。他分科会の診断結果をもとに、どうやって停滞層をどうやって育てて、行動を変えていくのか。実践までぜひやりきっていただきたいです。結果が一枚絵になったことで、取り組みが見やすくなりました。ありがとうございます。
第6分科会 キャリアオーナーシップとリスキリング
私たちは、リスキリングの現状を分析しました。現状、課題が上図のとおり、3つあることがわかっています。それぞれの打ち手を提言にまとめたのが、今回のアウトプットです。
そして、年代ごとにそれぞれCO意識の高い方と低い方のつまずきポイントをまとめました。打ち手をそれぞれ記載しています。たとえば、30代は昇進できる・できないでCOが変わってしまう、40代では出世競争から脱落してプレイヤーに戻ることへの抵抗、そして50代では会社以外の人生を見出す難しさが挙げられます。
打ち手は単に研修ではなく、評価制度や職種転換も含めた提言になっています。
そして、社を超えてリスキリングを習慣化するモデルとして「“Re”スキルサークル」を作りました。コンソーシアム参画企業同士で、少人数で興味がある分野のリスキリングを行うことを提唱しましたので、今後は実際にチャレンジし、進めていきたいと思います。
テーマについては、コンソーシアムの参加企業の方々から、社員に取り組ませたいCOに基づくリスキリングのテーマを募集し、提案いただくことで、参画企業に案内をしたいと考えています。その後、テーマごとに興味のある従業員が手を挙げていただき、サークルに入っていただくことを想定しています。
ここで大事なポイントは勤務時間内に行うことです。そこで、意欲あるメンバーが自ら学ぶことを支援します。コンソーシアムで発表していただき、優秀な方へタナケン先生に表彰していただいたり、特別授業を提供していただいたりすることで、サークルの自然消滅を防ぎたいと思います。
タナケン先生とのディスカッション
バランスとして難しいのは、勤務時間内にやってもらうと、COが更に下がるということですよね。しかし、自主的にやってほしいというと、今度は誰も参加しない。このバランスを保った着地点が必要で、“Re”スキルサークルが、その突破口になってほしいと思います。ゲーミフィケーションして、主体的に取り組みたいと思わせる仕組みにつながればと思います。
社内ではリスキリングをやられている方もいらっしゃると思いますので、コンソーシアムで上手にその輪を広げて、サークルとして拡大できれば良いですね。経済同友会では「水曜日の午後13:00にやりましょう」と、ノー残業デーのようなものを定めていました。定例会議形式で、30分でもいいので実施することが望ましいでしょうね。
第7分科会 キャリアオーナーシップ推進における人事部門の変革アクションの実証
私たちは、人事全体でもCOについて温度差がある中「人事はどのような存在で、どういう存在になっていくべきか」を議論しました。一般的なCO施策を列挙し、一定の取り組みをされているコンソーシアム参画企業にヒアリングし、人事の役割定義と打ち手を整理したかたちです。
アウトプットとして「メーカー、情報コンサル、小売、インフラ」の仮想企業を立て、人事がCO醸成のため何をやっていくべきかをディスカッションする会を設定しました。意外とこれら4業種で、人事の役割と課題意識に共通点があることが明らかになりました。そして、課題を施策とメッセージに落とし込み、一貫して発信することが人事の役割であると定義できました。
また、ディスカッションを通じて以下のことが判明しました。
- 原則メッセージはポジティブであるべき
- トップダウンでメッセージを発信する
- 対従業員でCOを考える機会を提供するべき
- 社員がキャリアについて希望を申し出たら、叶えられる制度が必要
他チームとのディスカッション
――社内における人事部門の強さ・弱さについて議論はありましたか。
強さの観点というよりは、小売さんは店舗が多く関係性が多いとか、メーカーは技術部門が強いといった視点は出ました。しかし、それよりも会社ごとの差が大きいことが議論でわかったため、社ごとに施策は変わるだろうというのが結論です。
タナケン先生とのディスカッション
最後の発表にふさわしい、人事の未来に関する提言が拝見できました。我々もプレイヤーである、そしてコンソーシアムで議論している、ということがわかりました。ぜひ今日の取り組みを自社の人事部に持ち帰っていただき、実践を進めていただきたいです。
人事はグロースユニットであり、これからの経営を育てるのは人事です。ですから、経営部門のエースを人事に充ててほしいですね。
タナケン先生の総括
今回、ゼロからコンソーシアムを作ってくださった村澤さんが駆けつけてくださりましたので、まずは感想を伺います。
村澤:
最初はCOの定義で悩むところから始めましたが、今期で具体的な提言、人の変え方まで出てきたのが嬉しいです。人的資本経営の会議ではどうしても数値目標の話になりやすいのですが、ここでは地に足の付いた議論が多く、ぜひご支援できればと思いました。
タナケン先生:
「COとはたらく未来コンソーシアム 第3期」では、各社が本当の現場であるオフィス、工場まで行ってヒアリングしてくれました。問題を明らかにするだけでなく、打ち手として提言を出せたことが大きな成果でした。
「この提言を10年かけてやりましょう」では、世間のうねりに追いつけません。ですから、来年、再来年で成果を出していきたいです。ぜひ今後、みなさんでプランを実施していただいて、社内イントラ、動画コンテンツなどで発信していっていただきたいです。そして、見つけたことを社外へ発信していただき、知見を参画できなかった企業さんへも見せていただけると大きな社会がうごき、変わります。いろいろな学びをありがとうございました。
今後のプロセス~「はたらく未来白書 2024」の公開~
多くの法人様から「”はたらく未来白書”を見て、人事施策を作りました」という声が届いています。今年度のコンソーシアム研究会の成果報告書「はたらく未来白書2024」は、各分科会のレポートを編纂の上、3月下旬に公開の予定です。
構成:伊藤 ナナ・杉本 友美(PAX)
企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)
グラフィックレコーディング:松田 海(ビズスクリブル株式会社)