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キャリアオーナーシップとはたらく未来研究会(第3期)

有沢正人氏、永島寛之氏をお招きし各分科会の成果に対するフィードバックセッションを開催

2024.01.16

研究会

日本を代表する38の企業と団体が参画する「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム 第3期」の公開研究会が、2023年12月21日(木)に開催されました。「人事変革の実践者と共に探る、人的資本を最大化する7つの実践課題」と題し、ゲストにカゴメ株式会社の常務執行役員であり、元最高人事責任者の有沢正人さんと、元株式会社ニトリホールディングス人事責任者であり、現在はトイトイ合同会社の代表である永島寛之さんをお招きいたしました。
 
ゲストのお二人には各分科会の現時点における成果をご覧いただき、示唆深いフィードバックをいただきました。また、コンソーシアム顧問の田中 研之輔先生(タナケン先生)からも追加でコメントをいただきました。
本稿では、第7回 研究会で行われた各分科会の発表と、ゲストのお二人からいただいた知見を中心にご紹介します。まずは、タナケン先生が開会の挨拶からご紹介します。

有沢 正人
カゴメ株式会社 常務執行役員 兼 カゴメアクシス株式会社 代表取締役社長

1984年に協和銀行(現りそな銀行)入行。銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年、HOYAに入社。人事担当ディレクターとして全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入等を通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築。09年、AIU保険に人事担当執行役員として入社。ニューヨーク本社とともに、日本独自のジョブグレーディング制度や評価制度を構築。12年1月、カゴメに特別顧問として入社。カゴメの人事面におけるグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。12年10月執行役員人事部長、2017年10月執行役員CHO就任。2018年4月、常務執行役員CHOに就任。2023年10月から現職。

永島 寛之
トイトイ合同会社代表

大学にてマーケティングと産業組織論を学んだのち、東レおよびソニーにて海外事業の新規市場開拓に従事。米国駐在(ソニーUSA)を経て、ニトリホールディングスに入社。似鳥昭雄会長元で組織・人事責任者として、タレントマネジメントの観点から、採用、育成、人事制度改革を指揮。その後、再生エネルギー発電所開発のレノバ(東証プライム)にて、執行役員/CHROとして中長期の事業戦略と連動した組織・人材戦略の立案と人事施策実行を担い、世界のエネルギー変革のリーダー(グリーン人材)の育成に注力。2023年にトイトイ合同会社を創立。複数の企業の経営者の元で、「個人の成長」を起点とした未来組織開発を支援している。

INDEX

    タナケン先生のオープニングトーク

    キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアムも第3期となり、参画企業が次々と増えています。参加いただいた企業は38社、社員数は約168万人規模になってまいりました。

    現在、キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアムでは、「見える・増やす・つなぐ」の3を軸において、合計7つの分科会を設置しています。2021年と2022年は、これらの概念を整理しました。2023年の今期は、より実践的な打ち手を深掘りしています。その一例として、参画企業同士で相互副業の実践と実証を行っています。

    今日は各分科会がまとめあげた成果を、深い知見を持つお二人に見ていただける貴重な機会です。お二人からは忌憚なくコメントをいただいて、本コンソーシアムのさらなる成長を促したいと思います。ぜひ、厳しくご指導ください。

    前半:第1分科会 − 第4分科会

    第1分科会 マネジメント層自身のキャリアオーナーシップ意識とメンバーのキャリアオーナーシップ推進

    私たちは下図のとおり、マネジメント層のキャリアオーナーシップに向けた課題をまとめました。

    マネジメント層は、大きく分けて2つの課題を抱えています。

    1. 部下のキャリアオーナーシップの育成に時間を割けない
    2. キャリアオーナーシップの重要性を理解できておらず、何もできない

    そのため、まずは時間を作る目的で部下への権限委譲を行う必要があると考えています。また、キャリアオーナーシップの必要性を理解するためには、部下以前にマネジメント自身のキャリアオーナーシップを醸成することが必要です。そのためにも、マネジメント層のネットワーキング行動を推進すべきととらえました。

    上の図は、マネジメント層が行えるであろうネットワーキング行動をリストアップしたものです。

    今回有沢さんと永島さんにお伺いしたいのは、以下3点です。

    • ミドルマネジメントが権限委譲するうえで、効果を適切に効果測定する方法
    • 今の四象限をみたとき、専門領域の外にある人とネットワーキングするとキャリアオーナーシップが育つと思っていますが、その仮説は合っていると思うか
    • キャリアオーナーシップのある上司、ない上司で部下に与えるキャリアオーナーシップ支援・影響差を裏付けるデータがあるか

    フィードバック

    カゴメ株式会社 常務執行役員・有沢 正人(以下、有沢):
    素晴らしい成果ですね。いい表です。わかりやすい。そのうえで、ひとつひとつ質問にお答えしていきます。

    • ミドルマネジメントが権限委譲するうえで、効果を適切に効果測定する方法
      率直に申し上げて、難しい質問です。私がもし同じ立場なら、最初からKPIシートに入れると思います。まずKPIに入れてしまって、しばらくたってから「権限委譲をやることでどういう効果が得られましたか」と追いかける形で調査します。
    • 図にある四象限を見ると、専門領域の外にある方とネットワーキングするとキャリアオーナーシップが育つと思っていますが、その仮説は合っていると思うか
      私も同じ意見を持っています。仮説に違和感はありません。ただ、キャリアオーナーシップが育つきっかけは、それだけでもないだろうなと感じました。
    • キャリアオーナーシップのある上司、ない上司で部下に与えるキャリアオーナーシップ支援・影響差を裏付けるデータがあるか
      おそらくあるでしょうね。そもそも論ですが、キャリアオーナーシップ育成はOJTではやってはいけない。本社主体でやるべきです。本社手動で、上司の影響による部下へのキャリアオーナーシップ育成におけるクオリティ差をなくすべきでしょう。

    まず、上司から部下への権限委譲へチャレンジすることは素晴らしいと思います。ただし、権限委譲は経営陣のレベルからシステマティックに行わなくてはいけません。意志の力だけではどうにもならないのです。

    まずは社長から役員へ、役員から部長へ、部長から各担当へと、権限を落としていかなくてはいけません。まずは社長の業務をリストアップし、削減しなくてはいけない。これは、とても難しいことです。

    現実味のあるアイディアとしては、オペレーションを担うマネージャーと、企画を担当するマネージャーを分ける案もありますね。そうすれば、自動的に権限委譲されます。また、権限委譲の過程では自分の仕事を手放したがらないマネージャーが多数出てくると思います。その対策として、ジョブローテーションを通じて仕事をシステマティックに手放させましょう。越境で管理職も他業種へ行かせれば、理想とするネットワーキングが生まれると思います。

    トイトイ合同会社代表・永島 寛之(以下、永島):
    全面的に、有沢さんの考えに賛成です。さらに補足すると、「マネジメント層に業務が集中してしまうことで、部下のキャリアを支援する時間を割けない問題」は、キャリアオーナーシップ以外の領域でも、課題を巻き起こしていますよね。

    また、四象限の図はとても面白く感じました。なお、四象限の図には番号がありますが、これは優先度ですか?

    ――優先度や順序ではありません。ただ、4番のリストにある行動が最もキャリアオーナーシップの醸成につながるだろうと考えています。一方、導入のしやすさはその対局にある1番のカテゴリーですから、導入しやすさと期待される効果のバランスを加味して、施策導入を検討される会社さんの参考にしていただければと考えています。

    永島:
    おっしゃるとおり、4番にある施策はとても興味深いですが、実施する難易度も高そうですね。4番にあることを本気でやりたければ、会社を辞めてやったほうがいいと思われてしまいそうです。一方、会社に在籍しつつキャリアオーナーシップを育てうる施策が、1と2のカテゴリーに多く見られます。まずは、1、2番のリストにある施策を行い、この施策で得た知見に対してFBまでもらえる組織であることが大事かなと思います。

    ――ありがとうございます。

    第2分科会 越境体験の実践体系づくりとキャリアオーナーシップ効果検証

    私たちのグループは、越境体験の効果検証をする以前に、越境体験を施策として行う効果がこれまで明文化されてこなかったところが課題であると考えています。そこで、まずは越境体験の効果をまとめようとしています。初手として、さまざまな企業の越境体験をまとめ、整理しました。次に、その企業へヒアリングを重ね、ジャーニーマップを作っています。

    アウトプットとしては、個人向けにYes/Noで答えるだけで、自分に合う越境体験が見つかるチャートを作りました。

    Yes/No分析チャートはどちらかというと従業員向けですが、これらのタイプを行動のフェーズに当てはめたのが、下図の人事部門向けのマップです。従業員のフェーズをキャリアオーナーシップに対する関心の度合いで分け、それぞれに合った施策を考えられるようにしました。

    このように、プレイヤーと人事側の両者の視点から、キャリアオーナーシップに関する施策を何か出せれば良いと考えています。

    フィードバック

    永島:
    個人向けの診断がいいですね。キャリアオーナーシップを醸成するには、これまでのキャリアに対する自己認識の重要性がありますよね。これまでの自分を正しく反映して、自分がどういう資本をキャリアで形成してきたか、どこに好奇心を持っているのかを知る必要があります。ただ、部下それぞれが抱える資本とキャリア観をマネジメントが判断する難易度は高いでしょう。したがって、こういった診断で型を作ってあげて、どういう施策を選ぶべきか、導いてあげることがとても大事だと思います。

    有沢:
    1点だけお伺いしたいのですが、Yes/Noチャートは「副業を行いたいですか」という観点の診断になっているのでしょうか。副業は良い施策ですが、あくまで越境の一部です。

    たとえば、留学も”越境”ですよね。出向、留学、研修、社外副業といった、さまざまな越境の選択肢を人事は見せるべきだと思います。さらに言えば、社員のパートナーが海外に行かれるとき、休職しつつ現地で大学院に行けるようにするなどの、柔軟な越境支援もできると思います。副業は越境体験における良い切り口ですが、さらに定義を広げていければいいですね。ぜひそこを話し合い、シェイプアップしていただきたいです。

    タナケン先生:
    越境は見に行って終わりではなく、戻ってから自社でパフォーマンスが上がることが大事ですよね。こうした越境の本質的な部分を経営者に伝えていかないと、本業がままならないのに越境制度ができてしまい、ただの逃避になってしまってよくない。ここも考えたいですね。

    第3分科会 キャリアオーナーシップと事業貢献の見える化

    私たちは、キャリアオーナーシップが事業貢献と相関しているかをデータで分析しようと試みました。

    ただ、データだけを見た総論としては、キャリアオーナーシップと事業貢献の相関は一部に限定されていました。そのため、キャリアオーナーシップが育てば、事業貢献ができるとは言いづらい状態です。

    もう少し深掘りすると、キャリアオーナーシップをどれほど持っているかと、個人の評価には相関があります。ただ、会社が個人を評価しているからといって、事業で成果が出るとは限りません。事業貢献には景気や競合の存在、市場の大きさなど外的要因があるからです。

    そこで、私たちはキャリアオーナーシップと生産性やモチベーションとの相関を見ています。特に、業種や年代などで区切って、さまざまな比較をしているところです。

    一方、セグメントを分けた結果、データが細かくなりすぎているのが今の課題です。「相関として何を見たかったのだろうか」と目的を見失いそうになったり、データにどういうストーリーをつけるべきなのか、悩んだりしています。

    フィードバック

    有沢:
    いま、取り組んでいらっしゃるのはものすごく難しいテーマですね。個人的な意見ですが、キャリアオーナーシップが高い企業は、エンゲージメントが高いと思われます。エンゲージメントが高ければ、事業貢献につながります。このままでは分析が難しいと思うので、間にエンゲージメントを絡ませるのも一つの手かなと思います。これは、さまざまなところがデータを出しています。キャリアオーナーシップと事業貢献をいきなりリンクさせるのではなく、AとBの関係、BとCの関係を組み合わせ、AとCの関係を説明してみましょう。

    あとはn(調査対象)の数ですね。このnを会社数で見るか、従業員数で見るかは悩むところです。さらに、金銭的報酬より「非・金銭的報酬に惹かれる社員が多い会社では、キャリアオーナーシップと事業貢献の相関が出やすい」という仮説もありうるかと思われます。

    永島:
    まず、キャリアオーナーシップと事業貢献の相関が「ある」と思い込んでは本質にたどり着けませんから、こうして改めてキャリアオーナーシップと事業貢献の関係を問い直すのは良い試みです。

    私の考えとして、キャリアオーナーシップは「ある・なし」ではなく、スペクトラムだと思います。完全にキャリアオーナーシップがゼロの人はいないだろうなと思うのです。ただし、どんな方向へキャリアオーナーシップが伸びているのかは、差があるのかなと。

    また、キャリアオーナーシップがあっても行動していないケースもあると思いますから、その調査もしたいですね。そうすれば、個人の成長と事業成長をいかにつなげるかを考えられます。

    タナケン先生:
    今回、どういう相関があり、どこがないか見せていくのが重要かなと思います。「つながりが一部しかない」と考えるなら、どこにあってどこにないかを分析することが価値になります。このチームは難易度の高い試みを頑張ってくれています。引き続き一緒に精査していきましょう。

    第4分科会 現場第一線で働く人財のキャリアオーナーシップ意識改革

    私たちは、キャリアオーナーシップが本社の企画・管理部門では浸透しやすい反面、営業、製造、物流部門では育ちづらい側面があると考えています。

    では、キャリアオーナーシップが育ちづらいエリアでは何が阻害要因になっているのか。まず、阻害要因を見える化するために、タナケン先生が監修されたフォーマットを活用して、キャリアオーナーシップ診断という定量アンケートを実施しました。さらにその中から、どうやってキャリアオーナーシップの意識が低い人に、ステップアップしてもらうかをヒアリングしました。

    結果は上にある表のとおりです。

    分析ではやりがいがあるかどうかと、キャリアオーナシップへの意識が高いかどうかで4つに分類しました。最終的には、2、3、4象限の人たちを第1象限にもっていくため施策を考えることになります。

    外的要因に不満がある方へは、人事制度、育成制度が必要です。内的要因に課題がある方は成長意欲を創る打ち手が必要だと考えています。ただ、課題は現場でルーティーンワークが多い方へ、どうキャリアのやる気を持っていただくかだと考えています。

    フィードバック

    永島:
    いい分析ですね。さまざまな会社でタレントマネジメントシステムが採用されつつありますが、活用できているケースは限られます。膨大なデータをシステムで集めることはできても、そのデータを組み合わせた打ち手が作れていません。この分析は、現状に対する打開策になりうると思います。

    課題とされていた「ルーティンワークが多い方のキャリアオーナーシップ醸成」ですが、彼ら・彼女らは業務の選択肢が限定的ですよね。あなたにはこんなキャリアがありえますよ、選択肢がたくさんありますよ、とアピールする代わりに、「社会であなたの仕事がどう役に立っているか」を考える仕組みを作りましょう。

    私はニトリで数年間、トラックの積み下ろしやルーティンワークをしていました。当時、私の上司だった優秀な店長さんは「どう自分たちの頑張りが世の役に立つか」を語ってくれました。そうすると、つらい作業も頑張りたいと思えるんですね。これが、現場での特効薬かなと思っています。たとえば、材料を製造する工場ならビデオを作って、材料がどう商品になって、人の役に立つかを見せていました。

    有沢:
    大変わかりやすく拝見できました。私は、マネージャーになる道を一般職に開くことも大事だと思っています。そうすると、雪崩を打って一般職の方もマネージャーを目指してくださるのです。

    または、ローテーションで現場と本社を異動できるようにしてみるのはいかがでしょうか。現場で専門性を高めたい人はそうさせてあげるべきですが、いろいろなことをやりたい人には本社へのルートも作りましょう。本人の希望を、1on1でしっかり聞くことが大事です。

    後半:第5分科会 − 第7分科会

    第5分科会 キャリアオーナーシップ浸透の実践における課題と打ち手

    私たちのチームは、キャリアオーナーシップが低い層に対する打ち手を考えています。

    私たちは、3つの区分を作りました。

    • 年代:20-30代、30-40代、50代以上に分類
    • 雇用形態:ジョブ型・メンバーシップ型雇用
    • キャリアオーナーシップの浸透ステップ

    3つの区分で分類したところ、かなり細かくなってしまったのが課題です。また、過去にキャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアムではキャリアオーナーシップを育てるための打ち手を100個出していただいているので、そこからも解決策をピックアップしたいと思います。

    フィードバック

    有沢:
    正直、私はジョブ型・メンバーシップ型の雇用でキャリアオーナーシップが異なるかわかりません。よく、ジョブ型雇用のほうがキャリアオーナーシップを浸透させやすいと言われますよね。ジョブ型雇用では、応募時点で自律的にキャリアを決める方が多いからです。ただ、現時点では「ジョブ型雇用を通じて、キャリアオーナーシップ育成がうまくいきました」という話を聞いたことがありません。

    また、年代別に取るべき施策に差があると思えません。たとえば私の部下は、私と同い年の63歳ですが、従業員向けのキャリア研修をしたいと最近相談してくださりました。年代と関係なく、意欲がある方はあるわけです。

    特に、かつては50代なら「後少しで定年」でしたが、今後は70歳が定年退職の年次になりそうです。そうなると、あまり早めにセカンドキャリアをデザインする研修をやっても仕方がないなと。

    永島:
    有沢さんとの対比で若い世代の話をしましょう。私がZ世代と話すと、成長環境を求めているなと感じます。Z世代にとっては、「成長は自分の体を組織にあずける対価」のようです。そして、自分が成長できないとわかった時の見切りの早さもすごいんですよね。これを理解していない大手企業は比較的多いです。なので、年代別施策で言うと、デフォルトでキャリアオーナーシップがある若い人に、どうやって成長環境を提供してあげられるかが鍵になると思います。それは、業務のアサインであったり、今の仕事がどう未来につながるのかであったりします。こうした施策が抜けると、問題が生じてくると考えます。

    ジョブ型・メンバーシップ型雇用の差がないことについては、有沢さんと同じ意見です。実態を見ると案外変わらない。ジョブ型雇用であっても、上司が部下のキャリア観へフィードバックしているかどうかが、すごく大事なキャリアオーナーシップ要因になっています。

    第6分科会 キャリアオーナーシップとリスキリング

    私たちは、キャリアオーナーシップの次のステップがリスキリングであると考えています。

    政府が推進することもあってリスキリングの必要性を感じる企業は多く、施策は増えています。他方、予算やノウハウがなく、リスキリングの支援ができない企業もあります。そこで、私たちは年代ごとにリスキリングにつまずくポイントがあるのではないかと考え、打ち手を出そうとしています。

    上の図は、上下に分かれています。上部がリスキリングへ積極的に取り組む方、下が取り組まない方の特徴です。そして、真ん中にある角の丸い四角が、つまずきポイントになっています。そして、横軸が年代です。

    ここまでは整理できたのですが、具体的にリスキリングを支援する打ち手を考える段で、前例がなく困っています。現在20社にヒアリングしましたが、あまりいい打ち手がありませんでした。一番多い課題は、就業時間内にリスキリングを推奨している企業がないことです。

    たとえば「ITパスポートを就業時間内に取ってください」といったことは言えますが、キャリアオーナーシップを支援するならば、人によってリスキリングの内容も時期もバラバラになります。その制度をどう設計するか。資金はどれくらい必要か。このあたりが、ヒアリングから出てこずに苦労しています。

    フィードバック

    永島:
    まず、リスキリングをやらない人間にばかりフォーカスしてしまうのは、もったいないように思います。「言われなくてもリスキリングできている方」はいますよね。その人達を育て、ロールモデルになってもらうのはいかがでしょうか。それでも、やらない人はやらないですよね。それも選択の自由です。たとえば、Googleみたいに就業時間の○%をリスキリングに割くよう指定だけして、「やらされ感」がないような制度設計をしたいですね。

    次に、つまずきポイントが明確なら、「つまずかないようにしてあげる」という、予防の観点も重要です。つまずいてからリスキリングで立て直すと、いつまでたっても社員が頑張らないといけません。つまずかせないための施策を、別途考えていけるといいですね。

    有沢:
    リスキリングは、年齢の高い人がやるイメージがありますよね。ですが、本来は全年代、全職種に必要だと思います。もし、ミドル層・シニア層へリスキリングを支援するのであれば、「退職後どう稼いでいくか」という問いかけでもいいでしょう。稼ぐ手段、準備としてリスキリングは大事だと伝えれば、動いてくれると思います。

    とはいえ、業務時間での取り組みは正直難しいですよね。いくら制度設計を人事がしても、実際にデスクでリスキリングの研修を受けていると、「仕事中なのに、何をしているんだ」と言い出す”昭和型の上司”もいるわけです。トップがメッセージを出さないとダメです。今は自分で主体的に学ぶ時代なんだとトップが言うことこそ、会社ができる最大のアクションです。その上で、「弊社からリスキリングのメニューは用意します。土日のプログラムに来ていただいてもいい。それも含めてキャリア自律」と伝えるようにしたいですね。

    第7分科会 人事部門の変革アクション

    私たちは一部の参加企業から人員を分割して、サブワークとしてこの第7分科会を行っています。そのため、シンプルなアクションが取れる取り組みを行いました。具体的には、「もしこういう事例だったら、人事は何をすべきか」というケースワークを複数実施しました。

    これが実際のワークショップでお見せしたスライドです。

    実際に行われたディスカッションの様子は、写真でご覧いただけます。

    フィードバック

    有沢:
    いいですね。複数のペルソナを用意して、ペルソナごとに打ち手を作ってくださったので、逆説的に「業界を超えて共通項として使える打ち手は何か」が、とてもクリアになりました。

    永島:
    素晴らしいワークショップです。ぜひ私もお招きいただきたかったくらいです。人事施策は業種だけでなく、会社のカラーにあわせて考えていくのも良いですね。たとえば、ガバナンスの仕方や、指揮系統がどうトップから降りてくる会社なのかなど、個人と組織の関わり方の違いで分類したほうが、新しい発見がある気がします。

    ゲストの総評およびコメント

    ここまでを振り返り、全体へのコメントをゲストのお二人へお願いしました。

    有沢:
    まず、みなさんよくここまで考えられたなと感動しています。私もコンソーシアムに入りたいくらいです。何より素晴らしかったのは、今日、「ジョブ型・人的資本経営」といった、バズワードが出てこなかったことです。流行りに流されない、本質的なことを考えてくださったからだと思います。素晴らしいものを見せてくださり、ありがとうございました。これからは、人事が世の中を変えます。困ったことがあったらカゴメに電話して、有沢を呼んでください。

    永島:
    みなさんが、長い時間をかけて議論をしてくださった。そのプロセスが大変だったことも含めて、プレゼンテーションで開示していただけたと思います。有沢さんが仰るとおり、本質論に入れたことが嬉しいです。

    人的資本経営へ興味を持つ人が増えたからこそ「育成はコストじゃない」とか、いろいろ外野から言われると思いますが、振り回されずにキャリアオーナーシップを組織の成長にどう繋げていくのか、本質的な議論を続けていただきたいです。

    人事が元気なら、会社が元気になります。みなさん、頑張っていきましょう。

    構成:伊藤 ナナ・杉本 友美(PAX)
    企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)
    グラフィックレコーディング:松田 海(ビズスクリブル株式会社)

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