第1分科会 マネジメント層自身のキャリアオーナーシップ意識とメンバーのキャリアオーナーシップ推進
私たちは、マネジメント層のCO意識を育てるためには、マネジメントからメンバーへの権限委譲を行い、時間的余力を創出することで、キャリア支援に役立てられると考えました。
理想像として、マネジメント層がCOへ取り組む時間を作り、メンバーのキャリア支援ができるようにしたいと考えています。すでに権限委譲を成功させている参画企業さんがありましたので、ヒアリングを実施したところ、以下の項目がメンバーへ移譲されていました。
- 目標対話
- キャリア対話
- 人事考課
今後、どのような権限を他の企業でも移譲すべきかは検討中です。
また、マネジメント層自身がCOを持つことに腹落ちしていなければならないと考えました。そのためには、「Willの言語化」「ネットワーク行動」などを通じ、マネジメント層自身の気づきの機会が与えられることが重要だと考えます。グループを組んで互いに目標を立てるワークショップ、通称「タニモク」の枠組みを活用したいです。
タナケン先生のフィードバック
3点フィードバックさせてください。まず、権限委譲をどうとらえるかが悩ましいですね。「そもそも移譲とは何か」を、類型化できるといいかもしれません。
続けて、マネージャーの時間的余裕についてです。マネージャーには、キャリアオーナーシップをじっくり育てる時間的余力がありません。無理に業務量を1割削減し、COについて考えましょうと話しても難しいですよね。クライアントや他のメンバーの都合もありますから。
代わりに、日報やランチタイムでもいいので、隙間時間にねじ込むしかないと思っています。まとまった時間ではなく、日常的な余白を利用することを考えてみてください。たとえば、「水曜日の午後13:00から1時間だけは、COについて考えましょう」としている会社もあります。考え方としては、ノー残業デーに近いです。こういったムーブメントを作るのもありかと思います。
3つ目に、単にマネージャーの仕事をメンバーへ移譲すると、その方の負荷が増える問題があります。たとえば、キャリア対話を30人の部下と行うと仮定して、毎月30人×30分も1on1をすることはかなりの負荷ですよね。
代わりに、グループでキャリアについて対話するのはいかがでしょうか。追加で個別相談があれば1on1にしてもいいですよね。リアリティを考えると「脱1on1」が必要になります。
――COのためだけに1on1を増やすことは現実的ではありませんが、日々の1on1にCOをテーマのひとつとして入れられれば、そこまで負荷がないのではないかと思います。
それは賛成です。普段のやり方に差し込んでいくことで、COを推進できればと思います。
第2分科会 越境体験の実践体系づくりと効果検証
越境については第2期から議論が深まっていましたが、そもそも越境は組織にどんな良い影響をもたらすかについてまだ具体化されていなかったため、今回はその課題を解消しようと試みました。方法としては、施策を導入している企業へヒアリングを実施してきました。最終的には、「越境体験ジャーニー」として、包括的な越境のありかたをまとめたいです。
今後のスケジュールをまとめたものが、こちらの画像です。
もともとは越境体験の目的と対象者の2軸で体系化したかったのですが、ヒアリングの結果、越境体験は多様な人事戦略を達成するための手段であり、CO育成という単一の目的のために設計されているわけではないことが分かりました。
そこで、代替案として個人の切り口で越境体験を体系化するつもりです。どういったペルソナ設計をしていくかは、今後考えていきます。
タナケン先生のフィードバック
越境地図のようなものを作ることができれば、「こんな越境があり、こういうふうに参加すればいいのか」と見ることができ、越境志望者へのプレッシャーが減るはずなのですよね。社内で「なんで越境するの?まだ社内の仕事ができてないじゃないですか」と言われずに済む。地図をもとに「これまで、社内で◯◯をやりました。次は社外で◯◯を行い、社に活かします」と言えるようになるのが理想像です。
現時点で、どれくらいの越境施策をピックアップされましたか?
――10種程度です。
いいですね。その10個を地図に落とし込んでください。そして、個人が「越境地図」を埋めていくつもりで体験を重ねていただきたいですね。たとえば、「3つ越境体験をやったから、3つバッジを持っています」といった見せ方ができると素晴らしいなと。
第3分科会 キャリアオーナーシップと事業貢献の見える化
私たちはCOと事業貢献の関連性を見るうえで、そもそも「COが高い/低い」「事業貢献している/していない」を、どう測定するか議論しました。その結果、COの取り組み深度、測定効果の違いを前提に、CO意識や事業貢献をいった大枠を揃え、CO意識の高さと事業貢献の相関性を探ることにしました。
このように、現状、各社異なるサーベイではありますが、さまざまなデータが見えています。
A社:COが高い層が、事業貢献度が高いと相関が出ている
B社:キャリア満足度が高い方と事業貢献の相関はなし
C社:アイデンティティ・ケイパビリティが高い社員は事業貢献度が高い
D社:単年では相関があるが、3年平均で見ると相関がない
COと事業貢献の相関は部分的であり、特に事業貢献と相関しているとは言えないかもしれません。今後、各社の相関性の傾向を見たいと思います。
タナケン先生のフィードバック
ありがとうございます。負の相関の分析はされましたか。B社やD社で相関が出ないのはどういった事情でしょうか。
――COの定義が「本人が気分よく働けているか」に依存してしまっているのが原因かと思います。また、私たちは事業貢献を「昨対比での売上」で定義しました。そうすると「キャリア教育は受けているメンバーが揃っているけれど、事業が伸びていない案件へ配属される」ケースがあり、負の相関が起きたと思われます。
昨対比での売上で事業貢献を定義することに、リスクがあります。たとえば、業界によってはコロナ禍で売上が下がっていたところは、今年売上がV字回復しているわけです。しかし、それはCOと無関係ですよね。
逆に「この部署ではCOのスコアが伸びていますが、売上は落ちています」と言われても、社員は「やれることはやっているんだよ」と感じてしまいますよね。
――では、どのようにKPIを取るべきでしょうか。
「個人の取り組み具合と、昨年比の売上には直接的な連続性がないけれども、COを育成することには意味がある」んですよ、という話にしたいです。クライアントワークがある会社や、複数の事業を単一の部署で担当するケースでは、COと売上の相関が見られないと思いますから。
最終発表では、なぜ正の相関が出るときと、負の相関が出るときがあるのか。それを公開したらいいと思います。そうすれば、他の企業がCO経営を推進する上で、ヒントになるはずです。
他チームのコメント
――社員のCO獲得と事業成長には、一定の時差が発生しそうですね。
――確かに、COが直接業績につながり、すぐに結果に反映されることは考えにくいですね。逆に業績が下がると、社員のCOが高まるようなことも起きそうです。
第4分科会 現場第一線で働く人財のキャリアオーナーシップ意識改革
私たちの分科会が考える「現場第一線の社員」は、製造業にいる運転手さんや、小売店の販売員さんを想定しています。定型業務が多い背景もあり、COの重要性を浸透させにくい課題があります。
まずは課題を細かく洗い出し、仮説の検証をしてから現場へもCOを推進するための処方箋を作っていきたいです。そのためにも、アンケートやインタビューを通じ、課題の仮説を立ててまいります。すでにタナケン先生が作った15項目をもとに、アンケートは実施しています。
最終的には「COのスコア・やりがい」の2軸で、対象者を4象限に分類し、COの阻害要因の分析に役立てていきたいです。
タナケン先生のフィードバック
製造業のオペレーティブな仕事をされている方は「COなんて必要ない」と思う方が多いですよね。その要因はおおよその検討がついています。「COを持っても、異動できるわけではないのだから、考えるだけ無駄だ」「COに基づいた業務をやろうとすると、上から潰される」「出世したくても、上が詰まっている」といった従業員の考えがCOの阻害要因になっている、などと仮説を整理してください。
特に、複合的要因が出てくるはずです。たとえば「上が詰まっていて、副業も禁止されているから、COが育たない」といったものですね。この組み合わせが分かってくると良いですね。
他チームのコメント
――現場第一線の方にCOを自分事として捉えていただくためには、具体的なキャリアステップを例示し、身近に感じてもらうことが必要と思いました。
――弊社でも営業現場の社員が大きな割合を占めているため、どんな結果が出るか気になります。
第5分科会 キャリアオーナーシップ浸透の実践における課題と打ち手
私たちの分科会は、COが低い層に対する効果的な打ち手を探っています。このCOが低い層の定義は「アイデンティティ・アダプタビリティがいずれも低い、現状停滞グループ」です。世代・悩みなどで分類したペルソナを作り、打ち手を作っていきたいです。
また、COに対する感度を高め、実際に行動に移してもらうには、他者の打ち手を見て、自社に魅力的なものがあるかを確認したり、双方にヒアリング、参画を進めていくことも重要だと考えます。これらの施策の結果、従業員のエンゲージメントが向上し、組織の経営に貢献できるようになることをひとつのゴールとして設定しています。
今日までに判明しているのは、「現状停滞グループ」には現状の業務を頑張れているうえに、評価が高い人も多数いる事実でした。ではなぜ停滞しているかというと、以下のような結果が出ています。
- 20-30代前半 キャリアの方向性が定まらない
- 30代後半以降 キャリアで次の一歩へ動きたいけれど何をしたらいいかわからない
- 50代以上 現状維持を希望する
特に、各社で50代以上が放置されていることが判明しました。50代はキャリアの終わりも見え始める時期であり、COが低い状態に陥りやすい特徴があります。そこで、どのようにCO意識が低い50代以上の層にアプローチできるか考えています。
現時点ですでにペルソナは立てています。また、昨年度のコンソーシアムで打ち手が用意されていました。そこで、挙がっている打ち手のいいとこ取りができればと考えています。これらの施策を採用したのち、いかにして成果を測るかも検討しています。
打ち手を多数採用するのは現実的ではありません。限られたリソースでどうやっていくかも含め、提案していければと思います。
タナケン先生のフィードバック
キャリアフェスや講演をやっても、現状停滞グループは来ない。来ない人へどうやって届けるか。運転免許の、違反者講習のようにしないといけないですよね。とはいえ、「キャリア停滞しているみなさま、来てください!」といっても誰も反応しませんから、何か仕掛けが必要です。
たとえば、「あなたの組織パフォーマンスは高い状態です。ただ、これから社会が変わっていくときに、ついていけないリスクもあります。変化に耐えられるよう支援したいです」といったメッセージなどいかがでしょうか。明るく具体的なメリットがわかるような施策として提案できたらいいですよね。
――その点、シニアは「もういいや」と思いやすい課題があります。今の定年延長、再雇用の変化を考えると由々しき自体ですよね。私はそこで、腹をくくって50代の方々に会っています。こちらから発信しても読んでくれないなら、笑顔で会いに行こうと思いました。すでに弊社で、100人以上面談しました。
素晴らしいですね。そこで、CNNやBBCのように、こだわった活動をしている人へ光を当てるのもいいですね。花形でキラキラしている方だけでなく、現場で専門性を磨いている方を社内報にあげていく。そうすると、そのチームに良い影響があるはずです。
第6分科会 不動層のキャリアオーナーシップ推進とリスキリング
私たちはリスキリングにおける不動層を年齢で分類しました。そのうえで、「リスキリング」という言葉をどう捉えるかを、変えていきたいと考えています。というのも、現状のリスキリングは「学べ」というプレッシャーが強いように思われるからです。
具体的にどうやって変えていくかの実践イメージですが、
- リスキリングへ取り組まない要因の洗い出し:年代別の課題や、会社が提供できることをリストアップ
- つまずきポイントの精査
- 打ち手の案出し
- 積極的なプラスアルファのリスキリング施策も検討
といった流れを考えています。
そのためにも、キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアムに参画されているみなさまに、現状どのようなリスキリング施策を採択されているか教えていただきたく、ご協力をお願い申し上げます。
今後、リスキリングは個人の主体性だけに頼らず、組織として仕組み化できないかを検討し、具体案を出そうと考えています。
タナケン先生のフィードバック
着実に進んでいますね。不動層は「何を・どのタイミングで・どうやって」リスキリングするか答えを提供しないと動きません。「組織Aの来年を考えるなら、DXスキルを身につけてください。具体的にはExcel研修と……」というふうに、具体的なメニューが必要かなと考えています。この準備自体が受け身な思想のもとにできていますけれども、いざ研修を行うと、真面目に受けてくださる方も多いものです。
――リスキリングの目的が「今の業務に直結するから」だけだと、リスキリングそのものの意義に反するようでもったいないですよね。リスキリングは、従来の業務にとらわれず、スキルの幅を広げるためにあるのですから。……とはいえ、それをどう本人に気づいていただくかが悩ましいです。
不動層から見たときに、リスキリングに対する具体的なリターンがないと難しいですよね。いつまでに、こういうスキルを積み上げておけば、3年後に◯◯が手に入ります、といったものが必要です。
ぜひ、以下を整理してみてください。
(1)リスキリング施策がうまくいっているベスト5の企業はどこか
(2)なぜそこはうまくいっているのか
(3)そもそも、リスキリングがうまくいっているとは何を意味しているのか
私の知る限りですと、アカデミー形式の研修があるところは成功しています。コミュニティで自発的にリスキリングを持続させる仕組みがあると良いようです。「あなたはリスキリングしなさい」と上長が命令しても、うまくいきません。
オリックスさんソフトバンクさんも、アカデミー形式でリスキリングを実現されています。社員が講師になって、お互いに教え合うのも良いですね。たとえば生成AIのプロンプトを知っている社員が、知らない社員へ教えるといったリスキリングが実現することが望ましいです。
他チームのコメント
――特に年齢が上がれば上がるほど、リスキリングへの心理的なハードルを感じてそうですよね。新しいことを学ぶと、その領域では初学者になってしまい、他の人より劣った自分に見えてしまうのが、怖い気持ちもあるかもしれないと思います。この「初学者は恥ずかしい」という意識を変える文化醸成が大事ですね。
第7分科会 CO推進における人事部門の変革アクションの実証
私たちは、CO推進における人事部門の変革アクションは、組織それぞれの施策の状況によって効果的な打ち手が異なるのではないかと考えました。そこで、状況をまずは可視化した図を作りました。
伝統的な日本組織では、異動・昇格が大きなキャリアの変化でした。しかし、今後は個人の希望をもとに、越境、副業も含めた変化が起こります。これを分類し、それぞれに打ち手を出していきたいと考えています。
まずは私たちの手で分類し、53個の打ち手を挙げてみました。上の画像がそのリストから抜粋したものです。これから打ち手を考える上で、みなさまにヒアリングをお願いさせていただくかと思いますので、ご協力をぜひお願い致します。
タナケン先生のフィードバック
フィードバックが2つあります。まず、人事部門のサイズによって、打ち手が変化することです。人事部の人数が5名なのか70名なのかは、企業によってまちまちですよね。何名規模ならこの施策といったように、人事部門の規模と打ち手の関係性を示すことができれば、全貌が明らかになると思われます。
次に、人事担当者であれば、53個もの打ち手から比較的コストをかけずに行える「人事内でできる施策」は何があるか、知りたいはずです。たとえば、人事はキャリア相談を受けるスキルを1つ身につけよう、といったものです。人事が取り組むべきリスキリング項目があると、さらに良いと思います。
――確かに、「人事部では、リスキリングとして◯◯をしましょう」といったガイドがあると、助かる方が多いと思います。
打ち手は無理に100個にしなくても構いません。ぜひ、チャレンジしてみてください
構成:伊藤 ナナ・杉本 友美(PAX)
企画:伊藤 剛(キャリアオーナーシップ リビングラボ)
グラフィックレコーディング:松田 海(ビズスクリブル株式会社)