第1分科会 人事と他組織の接続
「経営層の目線には、キャリアオーナーシップが重要アジェンダにない」という課題意識から、私たちの議論はスタートしました。そこで、我々チームが目指す姿として、キャリアオーナーシップについて経営層からメンバーまで、共通言語を用いて社内で浸透させたい、とゴールを設定しました。
ただ、単に各層へ「キャリアオーナーシップは重要です」と訴える、接続の手段だけを考えるのでは会社ごとに異なる状況に対応できないとも分かっています。キャリアオーナーシップについて訴求するためには、そもそも浸透させるメリット・デメリットを整理しないと訴求自体も難しい。その前提を踏まえ、我々はどのように経営陣、部門責任者、マネージャー、メンバーへキャリアオーナーシップ経営の浸透を図るかを議論しました。
まずはヒアリングを実施し「キャリアオーナーシップ経営の推進パターン」「キャリアオーナーシップ経営が接続先ごとにどのくらい浸透しているか」を確認しました。そのうえで、キャリアオーナーシップ経営の推進方針を3つに定めました。
- 人事主導のファクト積み上げ型
- 経営主導のガバナンス改革型
- 経営と人事が一体となったOSアップデート型
そして、具体的にキャリアオーナーシップを浸透させていくプロセスにおいては、以下の4つのフェーズに分けて、浸透させる手段を考えるジャーニーマップを作成しています。
- キャリアオーナーシップについて知らない
- キャリアオーナーシップについて知っているが、課題は発見できていない
- キャリアオーナーシップの課題は発見できているが、行動できていない
- キャリアオーナーシップの課題解決に向け行動できている
当初は各社アンケートをもとにジャーニーマップを作り込もうと考えていましたが、それよりもヒアリングをもとに作ったほうがよいのではないかという意見が出てきたことから、効果検証にアンケートの労力を使いたいと考えています。今後、各社のお話を伺いつつ、ジャーニーマップを更新してまいります。
タナケン先生のフィードバック
「キャリアオーナーシップが経営に浸透していくプロセスで何が起きるのか」はみなさんが注目しているテーマだと思います。経営層目線では、キャリアオーナーシップ経営は、絶対やったほうが得なのですよね。キャリアオーナーシップがなければ、優秀な人材が離脱してしまいます。ですから、経営層は、伝えれば分かってくれることが多いのだと思います。
そして多くの場合、経営層はそういう情報収集は早い傾向にあります。キャリアオーナーシップ経営に賛成してくださる方が多い。では何が、キャリアオーナーシップ経営を阻むのか。現場では、ボードメンバーで経営層を止めたいと考える方がキャリアオーナーシップ経営を止めに来ることがよくあります。
―おっしゃるとおり、経営層の合意を取るだけでなく、その後どうやって他の主要メンバーに浸透させていくかが大切だと考えます。
他チームからのコメント
「キャリアオーナーシップのジャーニーマップについて、ボトルネック・ハードルと、打ち手のセットで生々しいエピソードがあるととても面白いなと思いました」
第2分科会 人事の役割と必要なケイパビリティ
キャリアオーナーシップ推進のため、人事も変わらなければ……という思いはありつつも、課題が山積みである、というのが、我々チームにおける議論の始まりでした。
まず、概念的な話からさせていただくと、キャリアオーナーシップを支える人事とは「戦略人事」のその先にあるのではないかと考えました。かつての「戦略人事」で目指していた姿とは、CHRO(最高人事責任者)を置き、企業理念・バリュー・行動規範に合致する人事設計・組織設計を行うことでした。
しかし、キャリアオーナーシップ経営ではさらにその先にある、社員のWILL(意思)を高める人事戦略策定が求められているのではないかと考えています。キャリアオーナーシップ経営を実現するためには、社員の目線に立って柔軟な運用を行い、機能を分散することが大事であると考えています。特に、人事パーソンとしては性善説にもとづいて社員の能力を信じたコミュニケーションを取ることが重要ではないでしょうか。
こういった仮説をもとに各社をヒアリングした結果、キャリアオーナーシップ経営が実現できている企業の共通項として、以下のことが実現できているとわかってきました。
- 管理職のロールモデル化
- 人事ジョブのスキル明確化
また、ヒアリングをもとに、キャリアオーナーシップ経営実現のために必須となるものを3つリストアップしました。
- WILL/CAN/MUSTシートによる育成計画書作成
- 人事キャリアに手を挙げられるシステムづくり
- 人事のスキル開発の仕組み化
タナケン先生のフィードバック
とても重要なポイントを押さえていると言えます。戦略人事はかつて、かなりの場所で広まりましたね。ただ、経営へ人事を活かすことだけを考える「戦略人事」をやると人が取りこぼされて、漏れる人がでてくるのではないか。そう考えると、キャリアオーナーシップ経営がそこで救いの一手になるのではないかと思います。そういった背景から、戦略人事という言葉が徐々に語られなくなり、人的資本経営という言葉が生まれたのではないかとも考えられますね。
もう、人事は管理・調整役ではありません。司令塔としてリーダーシップを発揮せねばなりません。人的資本の最大化をしていくために、人事部が音頭を取っていく必要があります。2023年は、その意味で挑戦の1年といえます。人事はもともと話を聞くのは上手ですが、コンサルティングが弱い。今後は人事がもう一歩踏み込んで、やっていくんだという姿を見せていく必要があります。
第3分科会 企業文化の醸成・適合
我々のテーマは企業文化の醸成・適合です。簡単に言ってしまえば「誰もが、自らのキャリアをオープンに語れる企業文化を作ろう」という考え方ですね。これは職業人としてだけでなく、社会人、家庭人としてのあり方も含めるものです。
そう考えたとき、現状を鑑みると「キャリアに対する意識自体がない会社」「どういうキャリア形成を提案したらいいかわからない会社」などさまざまな状況に企業が置かれていることが明らかになりました。その原因も、業種や年齢構成など複数あります。
特にこれまで、日本企業では異動の主体が会社にあったため、「キャリア形成の主体が企業にある」という考え方が長くありました。ですから、自分からキャリアを作るという考え方を持つ社員が少ないのは当然かと思います。
その中で、我々が目指すのは以下2点です。
- 会社がキャリアオーナーシップを起点として個人の適材適所を進め、発展すること
- 個人がキャリアオーナーシップを理解し、自ら行動することで会社と一体になって成長できている状態になること
この2点を実現するうえで、「自社の立ち位置をしっかりと見極め、適切な打ち手を取っていく」というのが、我々がたどり着いた解決策です。具体的には、以下の環境を整えることが大切だと考えています。
- アンコンシャス・バイアスをなくし、ダイバーシティを認める社風
- 仕事の評価と報酬の連動
- トップと部下が話し合える環境形成
- 経営理念がトップから降りている
- 部下は担当領域で経営理念を落とし込めている
- 社員が自分のキャリアを客観視しながらも、次に向けたアクションをしている
一度、これらを結論にしたいと思っていますが、それだけではモヤっとした議論になることは理解しています。そこで、多様な企業文化を踏まえ、具体的な施策を考えて類型化するところまでは持っていきたいと思っています。
タナケン先生のフィードバック
「キャリアを語れるようになると、会社や社員はどうなるのか」まで書ききれると、キャリアオーナーシップは浸透するかと思います。企業文化の醸成について、どれくらいのスピード感でできるか、希望的スケジュール感がほしいなと。
たとえば「従業員1万人であれば、新たな企業文化は半年でできるんだ」といった、具体的な期間、指標があればありがたいですね。「企業文化という言葉さえ使えば、アクションは取らなくてもいい」という態度ではなく、どうやって具体的に変えていくかのスケジュールを作ってあげてください。
また、どうやって醸成していくのかというプロセスはとても大切ですから、まずは経営層がメッセージを語る、あるいは人事部が語るといった、最初のステップを明確にしていただければ。組織や個人のパーパスはすり合わせようとしてもずれますから、会社の文化でどう下支えしていくかが重要ではないでしょうか。
―先生のおっしゃるとおり、ベースの企業文化を作るのに、トップの発信から始まりこれくらいの期間がかかった、という経緯があります。そういった打ち手を具体化せねばならないな、ということを改めて知りました。
他チームからのコメント
「結論までのプロセスがとても面白いです。タナケン先生がおっしゃるように、全体像を見せつつ、ありがちなパターンを置いたうえで、何を替えて、どういった状態にするかの具体的な例があると良いなと感じました」
第4分科会 マネジメント層の役割と育成
まずは改めて、私たちが扱うテーマ「マネジメント層の役割と育成」を振り返ります。当初の議論では、2つの論点が出てまいりました。
- マネージャーが、メンバーのキャリアオーナーシップにどう関わっていくべきか
- キャリアオーナーシップを推進するうえで、人事としてどうマネージャーに関わるか
特に、現状ではマネージャーがそもそもキャリアオーナーシップの支援を受けていない状況かと思いますので、そこから支援が必要だと考えています。この数ヶ月進めた議論の結論は、マネジメントスキルとしての「対話力」が必要不可欠である、という話になりました。そして、対話促進のための支援をすべきであると考えています。
そして、管理職の役割が管理から機会の最大化へ変わっていく中で、新たな管理職の役割を4つにまとめました。
- 価値観を起点にしたありたい生き方を描けるようにする
- 内発的動機を引き出す
- 期待役割の位置づけ
- 持続的な自己変容を促し、自分も変容していく
今後の方向性について、チーム内で具体策の候補を絞っていきたいと思っています。
続いて、役割を果たすために必要な知識・スキルをまとめています。私たちは、キャリアオーナーシップを育てるうえで必要なスキルの中でも重要視したいのは、傾聴・質問・認知・1on1進行スキルという結論に至りました。
さらに続いて、キャリア1on1の進め方について話し合いました。まだ1on1に不慣れな企業も多いところでは、業務面談・評価面談と1on1は何が違うのかについて、明確にする必要性があると確認しました。また、1on1の時間をいかに使うかについても、フレームワークを用意しています。
具体的に「若手によくある悩み」を列挙し、具体的なスクリプトを用意することによって、1on1で対応しやすい環境を提供できればと思っています。
タナケン先生のフィードバック
どの企業においても、管理職にはキャリアオーナーシップ経営を理解できている人、できていない人がいます。では、理解度の差はどこにあるのか。基本的には「スキル」なので、誰でもキャリアオーナーシップ型の、人的資本を最大化するための声がけはできるはずなのですよね。ということは、スキル不足の部署や管理職がいる、という話になります。
では、どうやって誰もがキャリアオーナーシップ型の指導スキルを身につけられるのか。具体的に、マネジメントが変わるきっかけになったエピソードが2つ、3つあれば変化を促しやすいのではないでしょうか。「もともと、キャリアオーナーシップについて学んだことがないから、指導できない」という段階から、グラデーションを経てみんなで変わっていけるんだよ、と伝えるステップが出せるといいのではないかと思います。
キャリアオーナーシップを育てるうえでは、厳しすぎても褒めすぎてもダメ。チーム力を最大化させているマネージャーから学ぶ必要がありますよね。みんな最初はマネジメントの失敗経験があり、そこから気づくわけです。これからのマネジメント層が失敗を経験する必要はないので、過去の経験を共有することで社全体の成長は見込めるでしょう。
他チームからのコメント
「マネージャーに代わる言葉が思い浮かばないのですが、キャリアオーナーシップを促せる新しいマネージャーは、キャリア対話を軸に (1)モデル、(2)コーチ、(3)ケアの3つをバランスよく満たしているのだろうなと感じました」
「弊社でもキャリアマネジメントの課題感があり、次年度のマネジメント研修のテーマに組み込もうとしています。私も熟読します!」
「”質の悪い1on1がエンゲージメントをむしろ下げる問題”がコンソーシアム外でも大きな課題になりつつあるので、完成したあかつきには個別発信もご相談させてください」
第5分科会 非連続な環境の設定
チームでは、以前より進めていた「ゆるカチ越境体験」の実施をいかに進めるか、という議論を進めています。議論を始めた当初、チーム内では以下の2点を確認しました。
- どういった形で組織に貢献できるかを可視化せねばならない
- 組織ごとにある越境体験のハードルを超えていくことが大切
そして、前回までに上記2点を踏まえたアイディアを出し、具体化を進めてまいりました。そこで、実際に「ゆるカチ越境体験」を実施するうえでのハードルが改めて出てまいりましたので、それをいかに超えるかを考えています。
ここまで、実際に参画できそうな企業にもコメントをいただきながら、計6パターンの越境体験をリストアップしました。
ゆるゆる越境体験…1日程度で完了可能な越境体験
- 社内アカデミア交換留学
- 1日資料作り体験
ゆる越境体験…数日単位で完了可能な越境体験
- 越境キャリア面談
- シニア社員以外へ向けたメンタリング
カチ越境体験…3ヶ月程度を目処に、プロジェクト単位で参加する越境勤務
- 社内発ベンチャー企業への留学制度
- シニア社員越境勤務研修
これら6施策については、すべて参画企業で実施します。そして、参加者の意識変容調査を開催前後で実施し、各施策の評価を行っていければと思います。この中で、社内アカデミア交換留学は2月頭を予定しています。
タナケン先生のフィードバック
素晴らしい進捗報告、ありがとうございます。「ゆるカチ越境体験」は、ぜひ年単位で継続していただきたいです。ただ、今回は何が意識変容に関わるのかという因子が多いので、越境体験を定量的に計測することは難しいといえるかもしれません。
そういうときは、定性的なデータを用意することで補っていただければと思います。たとえば、Aさんが越境したとします。そこで、Aさんが越境体験を通じて本業に対し「こう感じた、こう思えた」というものを評価してみる、というやり方です。
他チームが実施している定量的なデータ調査も大切ですが、この「ゆるカチ越境」については定性的なものが意味を持つかなと。特に、再雇用の人たちが、将来的に働ける場を見いだせるといいですよね。シニアのキャリア形成において、有効な施策になっていくように思います。
こういったキャリア開発は、得てして若手がやる気を持ちがちですが、あまり若手にフォーカスしすぎる必要はないと思います。若いうちから外を見ていただくよりは、シニアに向けて再雇用を見据えた施策を取っていただくほうを優先しても良いのではないでしょうか。
―効果検証について、アドバイスありがとうございます。定量的データ取りも大事ですが、まさにインタビューで感じ取った変化を記録することも大切だなと思いました。また、どういった層を狙うかについては、ある程度キャリアオーナーシップが高い方をターゲットに考えると、ミドル層以上になってくるかなと私も思います。
再雇用についてはまだデザインできていませんが、例えば自社では「一旦体験で働いてみていただいて、お互いのマッチング度合いが高いのであれば副業からでも雇用につながれば」といった話をしています。こういった試みにも、つながれば嬉しいです。
他チームからのコメント
「他の企業さんが作るフォーマットから、大事にされている視点が見えてくるので、とても学びに繋がりそうと思いました!」
「仮に定量評価で査定すると、例えば以下のデータは取れるかと考えました。
- 個人のキャリアオーナーシップの意識、行動変容
- 仕事/組織に対するエンゲージメント
- 成長/リスキリング意欲」
「高齢者を対象とし、再就職支援の国の助成金等と連携できると魅力がぐっと上がる印象を持ちました」
発表後の交流・今後の流れ
発表後、「チームはキャリアオーナーシップ経営を目指すことで、自社はどういう変化をしてきたか?自分はどんな実践をしてきたか?」「自分はこれからどう変化していきたいか?」をテーマにディスカッションしました。
メンバーを超えた「越境分科会」で生まれたコメント
「キャリアオーナーシップ経営がまだ根付いていないので、コンソーシアムから学んで、施策を検討している段階です。会社として実践していく段階に向け、注力していきたいです」
「キャリア面談については、毎年自己申告でのキャリア自己評価は収集しています。ただ、管理職がどれだけキャリアに理解を持てているかはまだ課題があります」
「しばらく前まで副業もタブー感がありましたが、今やその忌避感もないなど、時代が変化していると感じます。社内では変化に対する不安・恐怖が出てきていますが、ただ煽るだけでなく、どうポジティブに「キャリアオーナーシップを醸成したい」という空気に持っていくかを考えたいです」
「弊社は職人的な方が多く、経営層含めて総論賛成でも、各論は議論が進みづらい状況です。キャリアオーナーシップ経営について、経営層に向けて提案してもきましたが、跳ね返されてきたという現状があります。ですが、提案していく中で経営陣の考えも見えて、徐々に糸口が見えてきました」
「キャリア自律が大事ということは経営も理解しています。ただ、弊社では”まだ早い”と言われてしまいました。経営層もキャリアオーナーシップ経営より、目先の経営状況に焦点を当てているようで、そこをどうやってほぐしていくかが課題です」
「キャリアオーナーシップの高さと、キャリア施策の量は実は相関していないのかもしれない?という話題が出ました。もしそうだとすれば、キャリアオーナーシップの構成要素とは何だろうか?と、再考するきっかけになりました」
「弊社には、定期的にジョブローテーション制度があります。自分が希望した部署に必ずしも異動できるとは限りません。その中で、キャリアオーナーシップを持ち続けるにはどうすればよいか、を考えています」
「これからパートナーシップ型経営からジョブ型経営に変化すると、人気・不人気の部署が出てきて事業の継続にも関わるのではないかという懸念があります。そうなると、マネージャーの力量によるところが大きくなるので、ジョブ型経営に向けてマネジメント育成に注力していきたいです」
次回は残り1チーム「キャリアオーナーシップ人材やキャリアオーナーシップ経営の診断・可視化」の発表を行い、タナケン先生と他チームのフィードバックをいただきます。
企画編集:伊藤 剛(事務局 広報・啓発 責任者/キャリアオーナーシップ・リビングラボ責任者)
構成・ライター:伊藤 ナナ(PAX株式会社)、杉本 友美(ライティングファーム紡)
グラフィックレコーディング:松田 海(株式会社グラフィックレコーディング)