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第6回 キャリアオーナーシップとはたらく未来 研究会を開催~有沢正人氏と語る、カゴメの人事改革からみる「人的資本経営」の目指し方~

2021.10.22

研究会

2021年9月21日に「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」の第6回 研究会が開催されました。第6回研究会では、カゴメ株式会社 常務取締役 CHO(最高人事責任者) 有沢正人さんをゲストに迎え、カゴメでの人事改革の事例を踏まえ、「経営戦略」と「人事戦略」を連携させた組織運営についてお話を伺いました。

有沢 正人 氏 プロフィール

カゴメ株式会社CHO(最高人事責任者)常務執行役員
慶應義塾大学商学部卒業後、1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。銀行派遣にて米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年に日系精密機器メーカーであるHOYAに入社。人事担当ディレクターとして全世界のグループ人事を統括、全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。2009年に外資系保険会社であるAIU保険に人事担当執行役員として入社。ニューヨーク本社とともに、日本独自のジョブグレーディング制度や評価制度を構築する。2012年1月、カゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメの人事面におけるグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2012年10月執行役員人事部長、2017年10月執行役員CHO就任。2018年4月、常務執行役員CHOに就任

INDEX

有沢正人氏が語る、「人事制度改革の3つのフェーズ」

人事制度の改革は3つのフェーズで進めています。「トップを変える」「ハードを構築する」「人づくりを行う」の3つです。

フェーズ1:トップを変える

まずは経営トップから制度を変えました。人事戦略というのは経営に関わることです。トップから変わることで、社員の意識も変わっていきます。役員報酬の仕組みを変える、人材要件定義書を導入する、などの改革を行いました。

当社は僕が来る前は、役員の給与・賞与は横並びで、人による差がありませんでした。つまり「評価」がなかったのです。僕は、これは逆にチャンスだと思い、役員から変えることを始めました。社員に、経営戦略と人事戦略を連動させていくことを、示そうと思ったのです。

まず行ったのが、管理職以上におけるジョブ型人事制度の導入です。

会社のミッションやビジョンを考えた時、どういった人材を育成し、どういった戦略を実行するのか、そのために「仕事」を価値の基準にするのか「人」を基準にするのか、その基準を明確にしようとしたのです。いわば、ジョブ型人事制度の導入は、人事戦略と事業戦略のインフラ整備なのです。

それまでは、典型的な年功序列だったのですが「やめる」という選択をしました。その仕事にいくらの価値があるのかという基準にして、Aさんはこれくらいの年次でこれくらいの等級だからいくら支払う、という恣意性の高い評価方法ではなく、客観的な評価を元に報酬を決める体系に変えました。

フェーズ2:ハードを構築する

次にハードの構築をしました。具体的には、報酬・指名諮問委員会の設置、社外取締役の増員、キーポジションの選定、などのガバナンス強化です。

ガバナンスは戦略上非常に重要です。結局、ガバナンスを発展させて、客観的に意思決定できる仕組みを整えないと、恣意性が意思決定に入り込むことになるので、経営・事業・人材戦略の連動が難しくなるのです。

フェーズ3:人づくり

トップを変えて、ハードを構築した後に、「人づくり」という部分に入っていきました。いきなり人づくりから入ってもなかなかうまくいきません。私は、2012年時点では6年くらいかかると見越して、中長期の視点で改革を進めていきました。

経営戦略やビジョンを実現するためのキーポジションがどこなのか、そのポジションに必要な人材要件は何なのかを洗い出し、可視化・データベース化を行いました。

そのデータベースを元に、報酬・評価がどうあるべきか、どのように社員をローテーションしていくか、人づくりのためにどのようなトレーニングが必要かといったソフト面を考えていきました。

改革にあたっては、従業員エンゲージメントサーベイを毎年実施し、これによってエンゲージメントがきちんと維持、向上できているかをしっかり見ながら進めていきました。

経営戦略と人材戦略を連動させるためのアプローチ

カゴメでは、年功型からジョブ型への移行、業績や評価と連動した報酬制度への改革、メリハリをつけた明確な処遇を行う、などの改革を実現しました。

「経営」と「人事」の連動においては、会社の「経営戦略」や「ビジョン」がすべてを考える前提として存在しています。先ほど申し上げたとおり、まずはキーポジションを定義し、人材要件を洗い出し可視化し、同時に各プロジェクトの棚卸もしました。

ちなみに僕は人件費という言葉が嫌いです。なぜなら、人件費は「費用」すなわち「コスト」ではなく「人に対する投資」だからです。そう考えると、人的資本という考え方は、人に関する投資を適正配分するという事になります。多くの仕事をやった人には多く投資するし、やらない人には相対的に少ない投資になるというわけです。

その前提に立つと、自社のコアな人材は「リソース」ではなく「キャピタル」すなわち「資本」です。その資本をプロジェクトに最適な形で配置していくわけです。プロジェクトにはどれくらいの人の投資が必要なのか、10年後を見据えた時に今何に注力しなければいけないのか、それをしっかり考えて、1年ごとにやるべきことを見直しながら検討してきました。

そして、グローバルの全社員に、どのジョブグレード(階層)のポジションがどういうミッションでどんな処遇なのかを開示しています。

その結果、今の自分のジョブグレードがどこに位置しているのかがわかりますし、どこを目指したいかのモチベーションが起こり、キャリア自律につながるだろうと考えています。

職務の評価についても、客観的な指標で算出できるように変えました。第三者評価を導入し、明確に数値化することで、納得感のある評価になっています。

先ほど申し上げた通り、まずはトップから変えました。当初は執行役員も職位が同じであれば全員給与・賞与が同じ金額でしたが、やはり人によってパフォーマンスの違いはあり、その全員が同じ給与・賞与はおかしいとして、執行役員から部長・課長も含めて、全世界でポジションのジョブグレードを決め、全社員に公開しました。

その周知のために、社内報で、「社長の年収大公開」という企画を立てて、社長へのインタビューを私が実施しました。そこで、社長をはじめ役員の固定報酬・賞与・ストックオプションなどの割合を、特に社長は月額報酬と賞与の実額を全て全社員に公開したのです。

それが配布された後に、社員の顔を見ると「えー!?」という驚きの声をあげたのですが、そのあと口々にみんなが「カゴメ変わりましたね」という発言をしていました。変化を印象付ける上で、想像以上の効果がありました。

人的資本の見える化も大事ですが、その前提として、データの見える化が必要だと考えています。こういったオープンな取り組みが、組織内の心理的安全性の担保につながっていくのです。

リーダー人材を育てるカゴメの「次世代経営者育成」とは

経営、事業、人材をつなげるための施策として、リーダー人材への投資の見える化を行い、経営戦略と人事戦略を一貫性ある仕組みでもってつなげています。

重要なポジションの設定を行い、人材要件を明確化・公開し、候補者の育成を行っています。現任者に後継者を選んでもらい、人事部で整理し、妥当性をチェックし、社外取締役に確認してもらい、育成していく、このようなプロセスになっています。社外取締役にも入ってもらうことで、マーケットの視点も人材選定に取り入れています。

また、40以上ある重要なポジションについて、スキルの要件や、それぞれのポジションがどのような責任を負っているのかを全社員に公開しているので、社員が目指すポジションがある場合、どういう要件を満たせばいいのかが分かるようになっています。

特に役員候補の育成は大事です。カゴメの社内では、研修は役員に一番厳しくするようにしています。自分がまだまだ勉強しなければならないことがあるか、それを知ることが役員になる上での第一歩だと思っているからです。社外取締役にも社内研修に参加してもらって、リーダー候補者が研修や課題に取り組む様子を見てもらい、役員の資質をチェックしてもらうようにしています。

また、HRBP(HR Business Partner)という職責をおいて、社員のキャリア自律をサポートする役割を担ってもらっていて、これも次世代の経営者育成に関わっています。ちなみにカゴメではHRBPのことを「人材育成担当」と呼んでいます。

これからは現場の痛みがわからない人、人のことがわからない人には役員になってほしくないですし、HRBPを経て、人に寄り添う経験をしてほしいという考えの下、現場のエースクラスの人材を登用しています。

カゴメは、トマトの会社から「野菜の会社」に生まれ変わろうとしているのですが、推進するためにもキャリア自律が必要です。とはいってもキャリア自律はそう簡単なことではありません。そのサポート役を担うのが「人材育成担当」と呼ばれるHRBPなのです。

具体的には、人的資本の向上につながる「個人の資産価値」を上げる支援を行ってもらっています。その人が行きたいポジションやその理由を聞き、それに基づいたコーチングを行ない、本人による課題解決へとつなげていきます。

HRBPは、社長、専務、私からなる人事の最高意思決定機関である「人材開発委員会」直轄で、人事部長と同等クラスの立場になっていて、社内のあらゆるブリッジになってもらっています。異動は部門から出てくる異動の要望などに基づいて、人材開発委員会が決めているのですが、HRBPは、社員の考えや事情を考慮して異動を変更することもできます。

HRBPについては、人事部出身者、つまり人事経験のある人は一人もいません。それよりも事業のことがよくわかっている人に担ってもらっています。今担当しているのは、現場のエリートクラスで活躍していた人達、例えば、海外での工場の立ち上げを行った人や、支店長をいくつも経験してマネジメント経験の豊富な人、などです。事業戦略を理解でき、現場の痛みがわかるので、現場と経営とのブリッジとして良いサポート役になってくれています。

このような「人に寄り添う」経験は、役員になる上でも、とても大事なものになると考えています。

カゴメが行う「生き方改革」とは

「働き方改革」という概念はそもそも、労働生産性の向上を目的としています。そうなると、基本的には労働時間を少なくする話に終始しがちですが、それは会社の論理でしかないんですよね。社員1人1人の視点で見れば「生き方改革」と表現した方がより適切ではないでしょうか。

例えば、単身赴任をやらずに家族で一緒に住む、こういった当たり前のことが、日本では非常に軽視されている現実があります。海外の役員に日本の単身赴任の話をすると「正人、それは何かの罰ゲームやペナルティなのか?なぜ会社の都合で家族が引き裂かれなければいけないんだい?」と聞かれるんですね。その海外のローカルの役員やマネージャ―の反応を聞いた時に、やはり日本は特殊なんだとあらためて思いました。

これからは、会社に使い過ぎていた時間を、個人が自分のために使えるようになり、より充実した人生を送ってもらうことが大事だと考えています。

個人で使える時間は、何に使っても良いと思うんです。食事、育児、家族との時間など、なんでもいい。会社側が言ってはいけない言葉が「働き方改革で空いた時間を自己研鑽に充ててください」です。「自己研鑽をしろ」と社員に言うのは、業務命令ですし、そもそも自己研鑽するかどうかは個人の自由ですから。

従業員がこの会社にいて良かったと思ってもらうことが「エンゲージメント」を高めることにつながります。これが、強い会社をつくるための経営戦略の根幹ですし、そのためには、社員一人一人の価値観や考え方を大事にする必要があります。異なった価値観、異なった考え方からしか新しいイノベーションは生まれないからです。

働き方は個人の価値観に基づいて、決めるものです。キャリア自律のためには、その選択の自由度をより上げていくことが重要です。透明性・公開性を担保し、自らが自律的に成長できるようにすることで、自分のキャリアは自分で決めるようになり、会社と個人の関係が対等になっていきます。

例えばカゴメでは「地域カード」という勤務する希望地を出せる制度を用意しています。このカードを使うことで、どこで働くかを自分で決めることができるようにしているのです。つまり「キャリア自律」のためには「いつ、どこで、どのように働くか」は個人が決めることだと示しました。

2〜3年後には親の介護が必要になる可能性がある社員が例えばいた時に、それをデータベースに登録しておいて、「人材育成担当」、すなわちHRBPがケアするようにしています。それが個人のキャリアに会社として寄り添うことにつながり、組織の心理的安全性につながるのです。

副業も認めています。副業に本業とのシナジーを求める会社もあるかもしれませんが、本人がやりたいことをやるのが「キャリア」なので、会社が従業員に副業のシナジー効果を求めたりするのはナンセンスだと考えています。本人がやりたいことを会社が制限をしない「主権在民」の考え方を大事にしています。

こういった「主権在民」な制度を整えると、「副業を導入したりすると離職者が増えるんじゃないか?」と聞かれることがあるのですが、増えていません。むしろ、通常は採用できないようなスペシャリスト人材が集まっています。

カゴメでも、管理職を経験しないでもよいスペシャリストを目指すキャリアコースを作っています。これまでは、管理職を目指すことが一般的なキャリアだったのですが、スペシャリストになることのほうが市場価値が高まり、給与も上がるということもあります。

いろいろな制度を整えていますが、人事がやりがちなのは、制度を作って、それが承認された時点で、自分達の仕事はそれで終わったと思ってしまうことです。

それでは全然ダメで、制度を作ったあとが、人事戦略と経営戦略を結びつけるために大事なのです。仕組み化したものが、現場できちんと運用され機能しているかを確認するのがより重要です。

制度自体も中途半端ではいけません。職務等級を作って終わりではないんです。制度と報酬制度を一緒に変えていかなければ、社員は絶対に納得しないです。職務評価をつくって仕事を客観的に評価し、人材要件定義書つくって格付けをオープンにして、それぞれの評価のためのKPIをセットする。ここまでのインフラを整えて、ようやく「人づくり」がスタートするのです。

リーダーにしても社員にしても、キャリアは自分でつくるものです。人事部の仕事は、社員のキャリアづくりをサポートすることです。それぞれの人達に向けた育成プログラムの実施は大事ですが、あくまでそのプログラムに乗るかどうかは本人次第です。

会社が意図的に人をつくるのではなく、自律的に人が成長する仕組みをつくること、そして、成長を見極める目を身につけることも、同時に大切なことなのです。

参画企業から有沢氏への質問

(会員企業からの質問)現場からの期待の声があがるためには、どのような施策が必要ですか?

1年に2回は、従業員を「あっ」と言わせるような施策を出すようにしています。つまり、「ニーズを発見して期待を超える価値を提供する」ことで、驚きを与えるようにしているのです。

人事部の人間には「マーケティング」の考え方を学んでもらっています。ターゲットである現場のことを知ることで、人事に対する期待が理解できますし、現場に寄り添う姿勢を示すことで、人事に何か言うと何かやってくれるかもしれないという期待感を醸成できます。

後追いの姿勢では、事業戦略を遂行できないのです。そのため、エッジの利いた取り組みを先行して行なっていくようにしています。

(会員企業からの質問)ジョブ型を管理職のみを想定しているとお話をされていました。一般職に広げず、管理職で止められた背景があれば教えてください。

今後、会社自身が変わっていく中で、担当職や一般職のような若い人の仕事の幅が広がっていくでしょう。そのような変化の環境において、仕事の範囲を一定に決めると「それ以上のことはするな」というメッセージになってしまい、本人の成長を阻害する可能性があるのです。だから一般社員に関してはジョブ型の導入を避けました。一方で管理職には一定の幅で職務を管理してもらうという意味で、ジョブ型を導入しています。

(会員企業からの質問)HRBPにエースクラスを置いたのはすごいことだと思います。任期を決めて、元のポジションに返すなどあらかじめ決められているのでしょうか。

任期は決めていなかったので、「こんなエースばかり引き抜いてどうするんですか?!」という現場からの文句は出ました。ただ、実際には3年間のパフォーマンスが良くて、人事への信頼感の上昇という成果も出たので、約束通り3年で事業部門に戻しました。

(会員企業からの質問)人的資本の見える化に関して、エンゲージメントの指標を設けていたり、それ以外の指標も活用していたりするのでしょうか。

まだ検討中です。エンゲージメントを測定するサーベイは必ず入れています。年内くらいには人的資本の指標を出そうとしています。具体的には、ヒューマンリソースとヒューマンキャピタルをバランスシートのような形で出そうとしています。

構成:河原あずさ・西舘聖哉(Potage)
グラフィックレコーディング:くぼみ

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