人事をめぐる「3つのズレ」を超えて
一歩踏み出す人事を目指すために
コンソーシアム事務局 総合プロデューサー 伊藤 剛(以下、伊藤):
第5期となった「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」は41社、154名に参加していただいており、探求学習としてみなさんのやりたいテーマを9の分科会で探求していただいております。
たとえば、AIを人事はどう受け入れていくべきか、採用要件をどう作るべきか、キャリアオーナーシップの育て方、さらにキャリア形成やマネジメントに関する分科会がございます。2026年1月20日に最終発表を控え、9月から準備を進めております。

トイトイ合同会社代表 永島 寛之(以下、永島):
コンソーシアムも続きながら、一方で昨年から「いろいろ議論しても、なかなかキャリアオーナーシップの正体をつかめているようで、それってなんだっけ、あったほうがいいんだっけ」という本質的な疑問が出ていました。そこで、一度キャリアオーナーシップを違う目線から考えるため、人事をめぐる「3つのズレ」に触れていきます。社会、経営、個人という3つの観点から、考えていただきたいです。

特に予算の話になると、来期のことを決めていくタイミングですから、長期目線を失いがちです。人事は長期的視野を持ちたくても、経営者は来年を気にしている。会社として内向きになりやすいタイミングだからこそ、考えていきたいです。
現場で起きていることとして、
- 採用・育成・配置それぞれが頑張っているけれども、全体がなかなかかみ合わない
- 現場「人が足りない」
- 経営「変われと言う」
- 人事「回すことで手一杯」
このまま放置すると、
- 施策が増えるが成果につながらない
- 人は育つのに活かされない
- 経営の言語が、人事の言語とかみ合わない
と、「動いているのに、前に進まない会社」になるわけです。
そこで、今回は守島先生から全体をとらえる視点をいただき、自社のズレを見つけて、なぜ埋まらないのかをとらえること、そしてどこから変えれば動くのかを決めていただければと思います。
先生にお話しいただいた後は、ワークショップを想定しております。経営戦略と人事戦略のズレ、人事戦略と現場の人材マネジメントのズレ、現場と経営戦略のズレ、この3つに触れていきます。統合報告書で投資家が聞きたいのは、人材がどう経営戦略において利益を生むかです。その意味で、今の統合報告書はつまらないと言われています。そこもかみしめながら、先生のお話をお聞きできればと考えております。
それでは、先生お願いいたします。
守島基博先生ご講演:
21世紀の次の25年で人事が取り組むべき課題

学習院大学教授 守島 基博(以下、守島先生):
こんにちは、学習院大学の教授と、一橋大学の名誉教授の守島です。今回はキャリアオーナーシップについて議論する、というのが主軸だと思いますが、みなさんは普通に考えていただいて、従業員のキャリア自律、キャリアオーナーシップは進んでいますか?
―進めようとはしていますが、思ったようには進んでいないですね。
―進んでいると思ってはいるのですが、どこまでいくのか……というところがあります。満足いく程度にキャリアオーナーシップが育っているとは思えません。
守島先生:
そこで知っていただきたいのは「なぜ、そうなのか」です。そこで多くの人事方が、はたらく人が意識を持っていないのだ、という感覚を持っていらっしゃいます。極端に言えば、ソリューションというのは働く人がそういう意識を持てばいい、と考えてしまう。
では、次の問いです。今の体制の中で、キャリアオーナーシップを高めようと思っていて、それってできますか? 今の人事って、結構管理的じゃないですか。人事っていうのは、もともと管理的なんですよ。今の体制の中で果たしてキャリアオーナーシップというのは、ぐんと満足いくレベルまで上がるんでしょうか。
―トップは変えたいと思っているけれども、人事は管理的なところが残っていますし、間のところがどこまで変わろうとしているのかというのは……どこまでなんだろうかなと感じています。
―キャリアオーナーシップと言いながら、人事が異動配置権を持っていることに向き合えていませんね。
守島先生:
人事がその状態でありながら、「キャリアオーナーシップを持ってくれ」というのが矛盾していますね。人事とは、理想的には猛獣使いです。現場の人材が好きにやっていて、それを統制するのが人事であると。しかし、これまで人事は羊飼いでした。おとなしい人材を飼いならすことをしていたんですね。そして、羊って外からは個体識別できないですよね。そうなるほどに追い込んでおいて、「キャリア自律しろ」というのは、正しいやり方なのでしょうか?
―どうしてもパターン化していて、グローバル、会計士と何かであるとか、高品質であるとか、デジタルであるとか……。私たちから人材を見るときにはパターンで識別されてしまっている。
守島先生:
21世紀において、最初の25年では「個を大切にしよう」と言いながら、システム的には手を付けなかった。新卒採用って、羊の中でも同質性の高い方を採ろうとする。しかも、最後の面接は役員がやるので「俺が好きな人」「私が気に入った人」「おとなしい人」になります。社員研修も命令で行かせる。配置転換も人事権というよくわからない言葉で実施されています。
給与も交渉することを許してきませんでしたよね。説明はしてきたけれども、交渉っていうものがありません。海外の大学なんて、評価面接に同僚は弁護士を連れていって、給与の要求を出したわけです。「そうしないと、他大に行きます」ということをやってきました。アメリカのアッパーレベルの従業員になれば、民間でも同じことをやっています。「私は今、他社からXX万ドルのオファーをいただいています」と交渉する。
そうではなく、はたらく方を羊ちゃんとして扱ってきて、今もそういうシステムになっている。そこでキャリアオーナーシップを持て、キャリア自律しろ、というのはいかがでしょう。
―正しくないですよね。
守島先生:
次の25年に次の人事がやるのは「はたらく人に何かを要求する」のではないのだと、人事のOS、フィロソフィーを取り換えていく時期に差し掛かっています。人事が人事システムを変えねばなりません。そこをやらないと、本当のキャリアオーナーシップ、エンゲージメントは手に入りません。御社のエンゲージメントは高いですか?
―エンゲージメントは経年比で高まっています。弊社は業績とエンゲージメントが連動すると感じています。
守島先生:
ある意味、会社に騙されていますね。日本の企業のエンゲージメントは低いと言われますよね。同じ企業でもグローバルと国内では国内の方が低い。私が考えているのは、社員が仕事を選び取ったことがないからです。日本では上司の命令、企業の命令でアサインされる仕事をしますよね。海外では上昇したいと思ったら、その仕事に自分で手挙げしないといけませんし、弁護士でも連れてアサインを要求しないといけない。
たとえば、大好きな人がいて、全然振り向いてくれないとします。その人がやっと振り向いてくれたら、その人にエンゲージしますよね。同じように、日本企業のエンゲージメントが低いのは、仕事を選び取ったことがないからです。しかも、選び取ることがシリアスなゲームになっていない。今の手挙げ制っていうのは、そんなに真剣ではありませんよね。だから、日本のはたらく人はエンゲージメントが低いと感じています。
hp(エイチピー)って会社がありますよね。あるとき、日本のhpは海外をまねて、ポストを全て募集制にしました。そうしたら、エンゲージメントが高まったというケースがありました。企業が守ってあげるから、言うことを聞きなさいと言い、従業員が粛々と従う姿勢では、エンゲージメントも、キャリアオーナーシップも生まれません。
過去25年、人事のOSはほとんど変わりませんでした。成果主義、ジョブ型を入れるといっても、OSは変えない。基本的に従業員は羊さんです、と言いながらジョブ型を入れるから苦労されている。富士通さんなどが数少ない例外です。多くの企業さんのジョブ型というのは、単に個人主義を促進しているだけです。今までの羊さんOSを変えずに形ばかりを導入しても、自分の仕事を頑張りたい、こういうものを学びたい、といったものにはつながらないんです。
たとえば、成果主義は評価制度の変更でした。であれば、職務等級制度、ジョブ型を入れないと評価基準がないわけです。年功序列なのに成果主義というのは、矛盾があるわけですよね。基本的に人事の設計思想を変えていかないと、なかなか変化は望めません。
また、今の人事って流行りが好きですよね。他の会社がいれたから、アメリカで流行っているから、とシステムを変える。ですが、それが自社に合っているかを考えていませんよね。個別の企業で何が必要なのかをもっと考えなくてはなりません。
今、必要なのは人材管理から人材解放をすべきです。その人の持つ潜在性、能力、キャリアニーズを解放する。はたらく方の自律的な選択、成長の促進を重視する。そして、実現してあげるのが人事であるべきです。そういう視点から人事の施策を考えることが重要になるはずです。採用で「社員の自律を支援します」とおっしゃっていると思いますが、本当にそれを実現する必要があるわけです。


永島:
基調講演、ありがとうございました。今後も先生にはご指導いただきたいと思っております。
人事をめぐる「3つのズレ」を見つめるワークに先駆けて
永島:
では、次にワークショップを実施します。ちょっと先生に質問したいことも出てくると思いますので、最後に先生へ質問する時間にしたいと思います。
守島先生:
海外で未来の戦略を作るとすれば、そういう専門人材を雇ってきて、その方には未来の戦略だけを作ってもらいます。ですが、日本企業では今いる人材でやらねばならない。そこでリスキリングなどの考えが出てくるわけですが、はたらく人のマインドは変わらないからうまくいかないんです。「戦略が先にあって、人事がその後にくる」のではなく「戦略を作る段階で、人事がかかわる」ことが重要です。
さて、クイズです。富士フイルムって何の会社ですか? 今は化粧品とお薬ですね。15年前、20年前はフィルムの会社でした。そういう転換があるときに、人事はどう変化に対応していくか。そこが戦略人事のコアだと思います。人をリプレイスしないで、チェンジする。そのために人事として何ができるでしょうか。それが、これからは議論になると思っています。
私の持っているヒントを1つ申し上げます。はたらく人から見たら、人事は「ハラスメントがない」「昇進がフェアに行われる」といった重要な権限を持っていますね。これが普段からどこまでできるかで、人事への信頼性が変わりますね。ひとりひとりが変わりたいと思うためには、この会社なんてクソ食らえ、と思っていたら変わらないわけです。平時で人をどうフェアに尊重して扱えているかが、改革が必要なときの重要な指標になります。
今、同じ人材で今の戦略を作りながら、未来の戦略も作らねばならない。戦略人事はどうやってそれを実現するかが結構重要な話かなと。
永島:
先生、今後は労働法が変わるか、よりモビリティにつながるか……という話についても触れていただけますか。
守島先生:
確かに、日本の解雇規制は世界的に比べても厳しいです。しかし、人をリプレイスしようと思ったら今の制度でもできるんですよ。今の人事がやれると思っている以上のことはできる。それにトライしている企業が限られるだけです。黒字をあげていても、人をリストラする企業が出てきたのはそういうところです。
たとえばPIPに人を入れて、そこで面談していれば裁判所もそこまで違法だと認識しないであろうと思います。人事は自分を虐めるのが好きなので、人事が不利になるよう考えがちなのだと思います。
永島:
OSをどう変えていくかについては、アプリケーションではなくOSであるとお話しいただきました。管理を前提としたHRから、人材を解放するという言葉をいただきました。つまり、今は捕まっているわけですね。静かな人材に主体性を取り戻していただく。そのためにはアプリケーションで対応するのは難しいという話をいただいたと思います。
人事がボトルネックになっているとしたら、大変つらいことです。より戦略の実効性を高め、みんながはたらきやすくする会社を作ろうと思いながら、自分たちがボトルネックになっているわけですから。そこは手を打っていく必要があるでしょう。
今、人的資本経営の推進におけるボトルネックとして、経営会議で「人」が議題にならない、経営と人事の対話が少ない、コスト以外は議題にならない、現場が全体戦略を意識しない、そういった面が今はあると思います。
人事はほかの組織をいじれるけれども、自分の組織はいじれない。難しいところはあると思います。経営戦略が現場にシームレスに流れるための手法を議論していただきたいと思います。タイトルを変えていただくなど、自由に議論していただいて構いません。
今日は守島先生からもフィードバックをいただきつつ、進んでいければと思います。まずは、導入質問を10分くらい議論していただきます。
〈導入質問〉
- 経営と人事は同じ方向を向いているか?
- キャリア自律は自由か、規律か、放任か?
- 外部協働はどの程度デザインできているか?
まずは導入質問について考えていただき、少し深掘りしていきたいと思います。
永島:
印象に残ったことをお話しいただけますか。
―私たちのグループは、企業に何かをやりたい人が来ているから、キャリア自律が高い人が多いよねという話をしました。エンゲージメントも高いので、先生のおっしゃることがぴったり当てはまりました。
永島:
御社(A社)でやることがない人、やりたいことがない人っていらっしゃるものですか。
―公的機関ですので、やれることが限られてやる気がそがれ、羊ちゃんになっていくケースはあるかと思います。
守島先生:
御社(B社)さんは猛獣の会社ですからね。そういう企業が今後、日系企業でも増えていくと思います。その先端を行っていらっしゃるのだと思います。
―私たちは社員のキャリア自律をどう支援すべきか考えており、議論させていただきました。人事は社員のキャリア自律を信じられていないのではないか、と考えました。人事が「社員のキャリアはこうあるべきだ」と考えているわけですが、その背景に「社員が自分でキャリアを決めると、もっと広い知見が得られないから」という補助の考えがあるわけです。つまり、社員を信じていない人事と、人事の情報を持っていない社員という課題があるわけですね。人事がより情報を共有することで、人事も社員を信じられるようになるのではないか、と考えました。
上司の1on1を推奨はしているのですが、上司も情報を持っていない。自分の歩んできた道しか知らないので、キャリアについて語れることが限定的です。だからこそ、マネージャーにもキャリアの情報を伝えねばなりませんし、必要ならば人事にエスカレーションしてもらう仕組みが必要ですよね。
永島:
そうですね。僕がソニーにいたとき、上司は僕のキャリアを考えてくれました。当初はマーケティングを担当しまして、次に海外でやってみようか、と海外へ送ってくれて。最初から海外に行くつもりだったのが、上司のアドバイスでまずは国内戦略をやったんです。こういうことを人事ではなく上司が考えてくれるんですね。こういうのがどうやって実現できるかは、難しいところですね。
では、次のステップに進みましょう。
次に以下の軸で議論していただきます。
まず「経営×人事」を必須の議題とさせてください。
議題① 経営が「こう変わりたい」と言うとき、その変化を支える「人の動き」を設計できているか?(人事×経営)

守島先生:
たとえば、経営戦略が変わったときに「絶対にこうやってみよう」と言えるだけの経営計画への信頼があるか? という点から議論していただきたいです。
永島:
経営戦略が見えない部分もあり難しかったとは思いますが、みなさまに議論の内容を教えていただきたいと思います。
―「経営がこう変わりたい、と言っても、末端の人はあまり影響がないのかもしれない」という話になりました。たとえば、やることが現場レベルでは明確に決まっていて、規制があってこういうものしか作れないといった制限がある中で、経営が何か変わりたいと言ったところで響かなくても仕事ができる、現場に影響がない、という話をしました。
変わりたい人もいるかもしれませんが、変わらなくても何とかなっていく。でも、同じところで30年はたらく方がいる。そういうところで、悪く言えば村社会になります。そうすると、上の方々は「いい・悪い」ということに気づけない。新しく入ってきた方だけがギャップを感じて辞めていき、上の方は「辞めるなんてもったいないね」と言ってしまえる。
永島:
長くはたらく方が何かを変えること、そして付加価値を増やすことを経営は期待していそうですか? いつも通りミスなく動いてね、が付加価値なんでしょうか。
―経営は付加価値を増やしてほしいと思っているはずですが、それは新規事業に限られると思います。
永島:
つまり、経営者が「なんとなく新しいことをやりなさい、自律的に動けるようになって」とだけ言っていて、こういう価値を生み出してほしい、ここを変えて仕事の仕方やテクノロジーを刷新してほしいと指定できていないのでしょうか。
―何か新しいものが必要だね、という話になってしまっているかもしれません。
永島:
その中で人事は、どんな役割を果たしていますか?
―人事は、経営が言っていることをある程度現場に伝えますが、現場の上位2~3割にのみ伝わって、響かない“岩盤層”がいます。
永島:
そのうえで、どうされたいですか。
―私は昨年まで別の会社(富士通)におりましたので、もう少し経営の意向を現場へ翻訳したいですね。
守島先生:
本当に経営層が発信する変化が必要なのかということを、人事か他の方が判断しないと、現場に伝えていけないですよね。現場が切迫感を抱くには、企業の変化にある程度の理解を人事も持たねばなりません。
永島:
ありがとうございます。もう1チーム伺います。
―たとえば経営が「これからAI人材が必要」と言われたときに、言われるがままに採用するのではなく、「社内にこういう人材がいますよ」といったプールも大事にする必要がありますが、言われる通り採用へ走ってしまう面があると感じています。そこが人事と経営のズレですね。
永島:
人事としてこういう風に変えたいな、というものは議論にありましたか。
―人材ポートフォリオを作りたいな、と思いましたね。
守島先生:
経営層が持っていなくて人事が持っている武器とは、人材の情報なんですね。こういうコンピタンスを持つ人がここにいる、といった情報があります。社長は経営層について知見がありますが、それ以下については知らない方が多い。「それについては○○部門にあの人がいます」と、自信を持って、データを使って説明できるか。ここが重要です。
人材ポートフォリオに関しては、スタートアップはかなり詳細に作らねばなりません。しかし、大企業になってくると「こういうカテゴリの人がこれくらいいる」というアバウトな情報でよくなります。そこで重要なのは、必ずそれが戦略に結び付くことです。戦略が○○であるから、○○の人がこれだけいる、という情報を集めてください。
―商品を作ればもうかるという仕組みにはまっている方は、粛々と製品を作っていれば困らないですよね。では、トップは一体なぜ変えようとしているのかを明確に打ち出してもらわないといけない。人事もそれを経営層へ要求しないといけませんよね。人がスカスカ抜けていくという現状があるなかで、離職率を下げる観点で人事から提案できることもあるのではないか、と思っています。ただ、平時の変革って何ができるかなと。
守島先生:
平時って儲かっているときだから、忙しいんですよね。ルーティーンの仕事がどんどん入ってくる。そして、人事はやった気になってしまう。それが一番いけないんです。
人事・現場主導いずれでも構わないので「うちの企業ってこれでよかったんだっけ?」と双方で話し合う真面目な雑談を月に1回、1時間でもいいから持っていただきたいです。平時でどこまで問題意識を持てるか。それができれば、経営層への提案ができるようになります。
永島:
場合によっては、経営視点を経営者よりも持っていっていただきたいです。たとえば、ニトリも今あまり調子がよくないんですね。以前、コロナ禍でとてつもなく売れたんです。ニトリは業績ごとでボーナスが決まっているんですが、経営層の想定を超えるくらい売れました。
そうなると店がとても忙しい。なのに仕事がつまらない、という方が増えてきた。なんとかしないとな、と思いながら過ごしているとき、ニトリの会長が36期連続増収でダルマに目を入れました。ダルマを買ってきて、ヨイショする社員も増えたわけです。そのときにちょっと辞めようかなって思ったんですよ(笑)
僕はニトリの会長に採用してもらったんですね。当時、ビジョンへの熱意を語られてロマンを感じたから入社した。ダルマに目を入れるような方じゃないんですよ。平時で、すごく業績がいいのにほころびが見えてしまった。
人事はお祭りを横で見ながら、「山車が傾いているから、このままいくと転ぶかな」と考える仕事かなと思います。こういうことができないと、辞めますよね。
次のテーマは、2つから選んでいただいて、いずれかから回答していただきます。
議題② キャリア自律は「制度」ではなく「行動」として
根付いている?(人事×個人)

永島:
不動層という単語がコンソーシアムでも出ていますが、キャリア自律は制度だけでは浸透しないので、どうすれば行動を変えられるかを考えていただきました。
―弊社では異動=キャリアと思われているところが課題だよね、と話しました。キャリアオーナーシップで考えると、オーナーシップが高いのは重要でありながら、オーナーシップが高すぎると本人も自己中心的になりすぎないか? という不安もあります。そこのつなげ方が非常に大事だなと考えております。
上司から見たときに「若い方の方が、キャリアを考えるスピードが速い」と感じられることが多いようです。4月に入社した新卒が、そのまま転職サイトにも登録しているなんてことがあります。だからこそキャリア1on1も知識として入れなくてはならないと理解しました。
また、営業や生産のような事業に欠かせないポジションがあります。そして、この職種には転勤が発生しますが、それ由来の離職も増えています。そこも課題として挙がりました。
永島:
そうですよね。若い方の考え方を否定しきれなくなっていると思います。ある調査では、「会社のどこが嫌いですか?」と聞くと、若手が「忠誠心がありすぎて気持ち悪い」と答えたそうです。ガッツで仕事をするのが、見ていて気持ち悪いと。一方で、自分のことばかり考えていると上は思いがちで、分断があります。そこを変えようとするのは難しいので、分断したままどう取り扱うかが、これからの組織開発です。
いまだにキャリアオーナーシップとかキャリア自律なんていうと、「そんな甘やかして」「キャリアなんて、自分で考えるものだろう」という方もいるんですね。だからこそ、会社としてキャリアオーナーシップをどう扱うか決めるというのも、大事だと思います。
―エンゲージメントに課題がある、という話がありました。今年、特に感謝軸での質問をしたら答えられない若手が多くいたんですね。人事と個人の接続において、そこが人事の頑張りどころかなと思います。
永島:
人事が煽って「今年の公募を2倍にするぞ」といったKPIを立てていたりするので、人数ではなく成功する人材の軸でKPIを立てたほうがよさそうですね。
―ただ、そういう人を作り出すのは会社なのか、もともとの素養なのか? という話にもなりました。そういう人を会社が作り出すなら、それはどういう要因なのかを知りたいです。
守島先生:
キャリア自律という単語も課題がありますよね。キャリア自律=転職だと思っている方が、学生にもいますから。キャリア自律とは何かを教えるのも、人事の責任だと思います。自分で機会を見つけ、その機会に向けて頑張っていく。それがキャリア自律だと説明する義務があるだろうと思います。普通の職場で使われる言葉ではないわけですから。
永島:
そうですね。上司も理解していないケースすらあるわけですから。
―キャリア自律を考えられるようになる、適齢期とは入社何年後なのでしょうか?
永島:
参加者の方、いかがでしょうか。面談の実施時期などを伺いたいです。
―弊社では異動後2年で面談するようにしています。
―弊社でも異動後3~5年で「自律してできる」とみなしています。
永島:
難しいですね。今の仕事が嫌で、手挙げして部門を出ていく方もいますよね。別の付加価値を出したいからやりません、というケースもありますから。嫌だけどそこで働くしかないから、乗り越えてきた……という経験が私たちの年代にはかなりあって「あそこで踏ん張ってよかったな」という蓄積にもなっています。ですから、個別判断が必要ですよね。
―弊社では部署が面接をするのを辞めて、人事が面談してマッチングするスタイルに変えています。なぜなら、昨年現場が「人がほしいと言っているのに、なんで人材をよこさないんだ」とクレームが来たからです。それで人事が「いい人が来たらマッチングするから」と案内する形に変えました。
永島:
エーザイさんがすごいのは「やってみます」というチャレンジができることですね。人事だと「導入を決定しました!」という勢いが必要なのですが、御社はアジャイルに動けますよね。ただ、手間はかかりますね。
―そうですね。私だけで面接の時間として、11月だけで1,500分使いました。
永島:
ちょっとAIエージェントを使ってみたいんだけど、というときに試せるような社風だといいですよね。ありがとうございます。
議題③ 雇用を超えた協働圏を人事が設計できている?
(人事×労働市場)

永島:
次に、Borrowにあたる「外部採用」の話ですね。社外の人を活用することができるのかについて、議論していただきました。
―私の会社は外部人材をうまく活用することがなかなかうまくできていないんです。業界慣習が変わらないと、なかなかできないんですね。というのも、弊社の業界(商社)ですと、指名ビジネスが多いのです。メーカーさんから「この人だったら、日本市場で売らせてもいい」といった指定だったり、固定の人材の指定もあったりする。
そうすると、専任スタッフを抱えるしかなくて、5年以上は同じ人をそこに置かないとビジネスが守れません。そうなると、なかなか社内流動させて、いろいろな経験を積ませることもできないんです。
―弊社も同じ悩みがあります。弊社は会計士の監査企業ですが、やはり会計士の指名もあるんですね。そうなると、会計士のために移動させてあげたくても、顧客を失いたくないから動かせなくなる。そこが難しいですよね。
永島:
そうですよね。もう指名させる仕組みにしてしまったことが「負け」なのでしょうか。
―おそらく、次の人材も見せたうえで専任スタッフを紹介しないといけませんね。
永島:
最優秀層の人材は、仕事を仕組み化しますよね。けれどもその次に、スーパープレイヤーがいますよね。その人がどう仕組み化できるようになるか、部署で囲い込まれないようにするかも難しいですよね。
守島先生:
スーパープレイヤーをどういうふうにサクセッションするか、という議論と、スーパープレイヤーを作るかどうかは異なりますね。スーパープレイヤーを作るかどうかは、業界による。ドジャースが大谷選手を他の人へ変えることはできないですよね。ただ、ある程度はサクセッションをちゃんとやらないと難しいのだと思います。
この話は、先ほど永島さんがおっしゃったとおり、仕事を切り出せるかどうかが課題なのだと思います。どこまでスーパープレイヤーの仕事を客観視して、標準化する。それから初めて取引先との関係性の話になるのかなと。
永島:
最初に「1年後には他の部署へ引き抜きます」と宣言してから配属する仕組みにするのは手ですね。突然異動させればクレームになりますが、最初から伝えていけばいいので。あとは、「この課題だけやってほしいな」というケースもありますよね。福利厚生のマニアックな部分だけを担える方が女性の育休中だけほしい、とか。
そうなるとフリーランスのニーズが出てきます。外部人材として入った人材が、他の業務で定着することもあります。ただ、そのためには依頼できる業務内容が明確でなければいけません。人がほしいなら「本当にそれ、雇用でないといけないの?」と提案していく。それがHRBPの仕事ですよね。
本日はたくさんのディスカッション、ありがとうございました。
構成:伊藤 ナナ・杉本 友美(PAX)
企画:伊藤 剛・藤本 亜美(コンソーシアム事務局 パーソルキャリア株式会社)
グラフィックレコーディング:松田 海(ビズスクリブル株式会社)




