タナケン教授の
キャリアオーナーシップ経営論①

日本型雇用のステレオタイプを打破し、キャリア・フレキシビリティを創出せよ―リンダ・グラットン教授とのインタビュー後の所感

2022.03.03

寄稿

キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム顧問
法政大学教授/一般社団法人 プロティアンキャリア協会代表理事 田中研之輔

企業が早急に取り組むべき課題は、「人的資本の最大化」。わかりやすく言い換えるなら、社員1人ひとりのポテンシャルを最大限に発揮しながら、企業の生産性や競争力を向上させていくことです。コロナ・パンデミックは、これまでの働き方を本質的に捉え直し、これからのより良き働き方を創り出す歴史的きっかけにしなければなりません。

キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアムでは、「個人の主体的なキャリア形成が、企業の持続的な成長につながる」という考えの下に、キリンホールディングス株式会社、KDDI株式会社、コクヨ株式会社、富士通株式会社、パーソルキャリア株式会社、三井情報株式会社、ヤフー株式会社、株式会社LIFULLの8社が集結し、具体的な施策を練り上げるダイアローグを毎月、積み重ねてきました。

「人的資本の最大化」と企業の持続的成長はいかに実現可能か?この問いを解くために、自律型キャリア形成を推進する先駆的企業の8社の経営戦略、事業戦略、人事戦略を相互に共有し、検討を重ねてきました。
その結果、導き出された私たちの解答は、次のものです。

「キャリアオーナーシップ経営」

「キャリアオーナーシップ経営」とは、はたらく個人の力を最大化させ、社会の力に変えていくために、企業が組織として新たな個人と組織との関係性を構築・再構築し、新人材戦略の策定と実施を通じて、経営戦略、事業戦略、人材戦略をダイナミックに連携させ、持続的な成長を促していく経営を意味します。

私たちは、「従来型の日本型経営」から「キャリアオーナーシップ経営」へとシフトしていくことができれば、その企業は持続的に成長していくと考えています。

それぞれの企業のアクションについては3月に「はたらく未来白書 第1編」を公開します。この「はたらく未来白書」公開と連動する形で、「キャリアオーナーシップ経営」を考える上で欠かせない研究者や実務家への直接インタビューを始めました。

先日、その第一弾を実施したので、インタビューの所感をまとめておきます。第一弾のゲストには、『ライフシフト』『ライフシフト2』の著者として知られるロンドン大学ビジネススクールのリンダ・グラットン教授を招聘しました。

インタビューは、2022年2月上旬に、オンラインで実施しました。インタビューのメインテーマは「個人と組織の関係性とこれからのキャリア形成のポイント」と設定。前半は「組織の取り組み」について伺い、後半は「個人のキャリア形成」に迫りました。

今回は前半部分の私の所感を皆さんに共有します。後半部分はNIKKEISTYLEで公開しています。

リンダ・グラットン教授と語り合った4つの質問

まず、私からリンダ教授にお伝えしたことは、本コンソーシアムの取り組みについてです。本コンソーシアムに参加する企業8社と共に、「人的資本の最大化」を通じて、生産性と競争力の向上を実現していくための大きなチャレンジを続けていること。具体的には、これまでの「組織に働き方を預けるキャリア」から「主体的なキャリア」への転換を促進させていることを伝えました。現状として、ハイブリッド・ワークが実現し、日本型雇用を見直す機会になっている企業の現在地も確認しました。

最初に投げかけたのは次の質問です。

質問1:一人ひとりが自ら学びやはたらくをアップスキリングさせていく、キャリアオーナーシップの推進が、超少子高齢化社会に突入した日本社会のこれからの鍵を握っていると考えている。これまでの「伝統や慣行」が組織ブレーキとなり、抜本的な改革に取り組めない企業も数多く見られる。こうした企業がブレークスルーしていくための「秘策」は何か?

リンダ教授は、現在の状況を生み出しているコンテクスト(=文脈)を捉えることの重要性を述べられました。具体的には、テクノロジー、人口動態、コロナ禍の社会、という三つの歴史的トレンドの交差点として構成されているのが今日的状況であるという点です。

伝統的な家族像、女性の教育水準・社会活躍、これらも大きく変化してきた中で、コロナ・パンデミックに直面している。リンダ教授は、12週間で人々の習慣は変わるという心理学の知見をもとに、2年間続いたコロナ・パンデミック化での人々の行動様式は習慣化したと捉えています。

つまり、「元の世界に戻ることはない。これが真実だ」と強調されました。

その上で、私たちが今、取り組むべきことは、「伝統的な働き方」を見つめ直し、これからのより望ましいキャリアを創出していくことだと。

リンダ教授が「秘策」として提示されたのは、「①企業は人生100年時代の多様なキャリアパスを用意すること」と「②個人は自ら主体的に生涯学習を続けていくこと」だという2点です。これまでの働き方に囚われるのではなく、これからの働き方として何が求められているのか、何が最善なのかを今、まさに検討すべき時期なのです。

次に投げた質問は、日本企業の課題の一つであるミドルシニア社員のキャリア形成に関することです。

質問2:コロナによる働き方の変化が日本でも起こっており、オフィスへの出社がメインの働き方から、働く場所や時間の自由度が高まってきている。ワークライフバランスが高まったという見方の一方で、仕事へのコミットメントにバラつきがでてしまう懸念もある。このような状況の中で、企業が働く社員に情熱をもってプロセスや結果にコミットメントを高めるための方策は何か?また、企業が特に、ミドルシニア社員の主体的なキャリア形成を促進するための具体的な経営戦略や人事戦略としては何が有効か?

リンダ教授は若手社員やミドルシニア社員といった「世代ごと」にカテゴライズし、「世代間の衝突」として組織内事象を切り取ってしまうというステレオタイプ化した捉え方への注意が必要であると強調されました。

一括りにする「世代」の中にも「違い」がある。やりがいを感じながら元気に働いている人もいれば、そうでない人もいる。それは世代の差ではなく、個人の差なのです。

これからの働き方を創出していく、つまり、新しい物語を紡ぎあげる時に、これまでのステレオタイプ(固定観念)に固執してはだめなのです。さまざまな世代が混ざっているチームの方がよりイノベーティブなアウトプットを導き出すものなのです。

若手社員の一つの物事に取り組む集中力や持続力、経験を詰んだ社員の理解力や包摂力、それぞれの強みを活かしていく組織を作り上げていくのだと、リンダ教授の主張はぶれません。

一つ考えるきっかけとなるのが、これまでの日本企業の目覚ましい産業化の発展。振り返るなら、トヨタをはじめ、世界一流の商品を日本企業は生み出してきた。メイドインジャパンは、世界中の誇りだった。製造業として躍進してきた。しかし、デザインやテクノロジー、広くクリエイティブな業界では、苦労しているようにも見受けられます。

リンダ教授からの鋭い問いかけがありました。

「日本企業は、オフィスで工場を再現しようとしてきたのではないか?」と。

つまり、新しい働き方が求められる現場で、工場で実践していた働き方を無自覚に導入してきたのではないか、ということなのです。

タイムカード

時間で管理することが果たして、生産性の向上につながるのでしょうか?働き手の多様性を認め、女性管理職の割合も高め、子育てや介護など家族のライフイベントに向き合いながら、いかに働いていくのか、日本企業もグローバル・スタンダードに近づくことが必要なのです。

年功序列

すでに老舗の海外企業でも、年功序列で組織内昇格していく制度を20年も前に廃止しています。Googleなどの新しい企業群は、そもそも年功序列制度を取り入れていません。

なぜ、日本企業は年功序列を維持しているのでしょうか?

これについても、リンダ教授はおっしゃいます。「今一度深く、考え直す時なのだ。」と。

続く質問は、企業を越えた取り組みについてお聞きしました。

質問3:価値観の多様化により、今後若いビジネスパーソンは、働くということに対してのモチベーションが旧来のミドルシニア層と異なり、そのような多様な価値観を持つメンバーをいかにマネジメントしていくかが企業のマネジメントやHR、リーダーシップには求められる。欧米の先進事例として、そのような価値観の多様性の中でのマネジメントで、ベストプラクティスな事例とは?

人事こそがこれからの企業を変えていく旗振り役です。世界的にみて、いくつもの企業がこれからの働き方を支える多様性を担保する組織マネジメントを創出しています。この問いに、リンダ教授からは、企業の世界的な取り組みが紹介されました。

  • ‐ユニリーバは、どこから働いてもいいことを認め、副業も許可しています。カナダのCPPインベスト社も、3ヶ月間、どこから働いてもいいとしている。
  • ‐イギリスのシビルサービスでも40万人いる労働者のロールシェアリングが始まっている。
  • ‐オーストラリアのテルストラでは、人事の取り組みが組織変革の原動力になっている。
  • ‐イタリア北部のフェラーリでは、キャリア育成の改善・改革が実施されている。

また、リンダ教授からは、各国で共通した傾向として、CEOは、CHO/CHROに経営の助言を求めるようになってきていること。企業が互いに関心を持ち、競合という視点ではなく、より大きな視野でこれからの働き方を創出していくことが欠かせないことを指摘されました。

質問4:「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」では、個人と組織の関係性にフォーカスをあて、社会を動かしていくことを狙いとしている。リンダ教授のこれまでの活動実績などから、より多くの企業を巻き込んでいくための有効施策があれば伺いたい。

リンダ教授からは、「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」の活動について、素晴らしい取り組みであるとの言葉をいただきました。企業をこえて、経営者や人事が繋がり、問題解決に取り組んでいく。これからの日本型雇用を創出していく取り組みに期待をしたいとのことです。

リンダ教授はこれまで世界各国の企業人事と連携しながら、HSM(Hot Spot Movements)やFuture of Workなどのコンソーシアムを運営されてきました。それらの経験をもとに、「企業の枠をこえた、アイデアの共有は、重要不可欠であり、企業をこえてみんなで協力して、行動を起こしていくことが大切さ」を教えていただきました。

そして、リンダ教授は、こう続けます。
「世界は日本企業に関心を寄せている。コロナ禍でどう変わるのか?日本企業がこれから変わっていくのだということを示すことも重要なのだ。」と。

リンダ教授が今、注目しているのは、「働き方の再構築(=Redesigning Work)」とのことです。組織は今、変革の時を迎えている。オフィスと在宅勤務とのハイブリッドワークはいかにして維持していくべきか。働き手にとっても企業にとってもより良き働き方を創出していくことが欠かせない。リンダ教授は「思い込みに対して、常に、疑問を投げかけるべきなのだ。」と、以下の問いを私たちに投げかけました。

そもそも、毎日、出社すべきなのか?

一つの方向性として、企業をこえてみんなで考えていくべきことが、「キャリア・フレキシビリティ」。キャリアをもっと柔軟なものにする。フレキシブルな働き方を作っていく。キャリア・フレキシビリティは、みんなのためのもの。まず、場所と時間のフレキシビリティを考える。
そして、ハイブリッドワークを可能にするサテライトオフィス、週4日勤務、長期有給休暇サバティカル、など。人生100年時代の持続的なキャリア形成に繋がります。

また、加えてリンダ教授は、次の問いについても考えるべきだと話していました。

どんな内容の仕事をしているのか?

仕事の内容を捉えることで、場所と時間の関係性を考えることができます。
ある人の仕事や、また別のある人の働きぶり、というように個人の問題として捉えるのではなく、仕事そのものに対する見方を変えて、生産性を高めていくことが欠かせないのです。

若手社員の中には、仕事を覚えるために出社したいという声上がっている。それぞれの声に耳を傾け、柔軟な対応が求められる。仕事のデザインを見直し、企業それぞれにあった施策を創出していく。そのために、色々な人びとの力をかりて、これまでのやり方を打破していく。この試行錯誤のプロセスが、変化を起こしていくとリンダ教授は指摘します。

最後に、リンダ教授から次の応援メッセージをいただきました。

共通言語を見出し、ベストプラクティスを実践していくコンソーシアムの活動を心から讃えたい!
競争ではなく、共創していきましょう。日本の人々の働き方を変えていってください。

私たち「はたらく未来とキャリアオーナーシップ」コンソーシアムでは、これからもキャリアオーナーシップを通じて、日本企業の生産性と競争力を向上させていきます。

キャリアオーナーシップで社会を動かしていきます。

そんな決意を新たにする忘れることのできないインタビューとなりました。関係各位の皆様、ありがとうございました。所感の最後にリンダ教授の言葉を皆さまと噛み締めたいと思います。

いま、私たちは、生き方と働き方に関して100年に1度と言ってもいいくらいの大変革期を経験しつつある。コロナ・パンデミックをきっかけにして、変化の激しい世界ですべての人が光り輝ける未来をつくり出そう。
(『ライフシフト2』 リンダ・グラットン教授 日本語版への序文 一部、田中加筆)

寄稿:田中 研之輔 はたらく未来とキャリアオーナーシップコンソーシアム顧問
企画・編集:伊藤 剛 (キャリアオーナーシップ リビングラボ)
キービジュアル:古松 弘海

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