相互副業実証実験 成果報告会の概要
報告:キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム事務局 企画総指揮
キャリアオーナーシップ・リビングラボ 責任者 伊藤 剛
「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」では、過去2回にわたり、参画企業同士での相互副業を実施しました。ルールはほとんど第1回目からほとんど変わっていません。結果論ですが、コンソーシアムのコミュニティでやりたかったことと相性が良いルールでした。
相互副業実証実験の基本的ルールについて説明します。
参加条件に「本コンソーシアムに入っていること」が含まれたため、人事同士が同じ課題を抱えて議論しあっている関係にありました。そのため、相互副業の前提となる送り出し・受け入れ企業の信頼構築が可能となりました。
さらに、参加にあたり以下の工夫をこらすことで、相互副業実証実験を推進しました。
- 送り出す企業は、受け入れも必須とすることで”相互”副業を条件としました
- 副業の受け入れ、送り出しのトライアルを実現するために、稼働時間を週1回以下、3ヶ月以下のプロジェクトに限定
- すでに稼ぐ力のある副業人材ではなく「これから副業に挑戦したい人材」に参画していただくための、適切な報酬額の設定(月額上限5~10万円)
- 受け入れ組織が副業者へプロジェクトのゴール、役割をすり合わせてから副業を開始する
- 受け入れ組織は、副業者の変化をうながすためフィードバックを実施する
相互副業実証実験への参画企業は28社に及び、成立した案件数は76件となりました。
相互副業実証実験では短い募集期間でありながら、一般的な副業紹介サービスと案件と比較しても大きな割合のマッチングを実現できました。
また、相互副業では送り出す企業が「副業先に転職してしまうのではないか」という懸念を持つこともあると思います。副業者は今回のみで86名いましたが、過去の累計でも転職者は1名に限定されています。
案件の内訳としては人事間がもっとも多く見られました。これは、本コンソーシアムが人事部門間のコミュニティであることから、始めて相互副業を実施されるケースでは、まず人事で副業案件を切り出すことになりやすい点が挙げられます。しかし、そういった企業も「慣れていく」ため、回を重ねるごとに人事案件以外にも広がっています。
相互副業実証実験で6割の副業未経験者が、副業を経験できた
今回、副業を経験してくださった方の6割が副業未経験者でした。
越境体験を促すことを目的としているのですが、すでに副業をしている方々がその実績もアピールすることができるので、マッチングでは有利ではないか、副業未経験者はマッチングしにくいのではないかという不安もありましたが、未経験者が半数を超えていることは大きな成果となりました。
参加した年齢は、約半数がミドル層で、体力も経験もある層となりました。副業へ参加した目的としては「自己成長、キャリアアップ」が最多となっています。
また、自己評価としては約9割の参加者が「自身の業務に対して成果を出せた」と回答しています。
さらに、約8.5割の参加者が「自身のキャリアを自ら決定していく意欲が高まった」と答えています。具体的には「自身の経験が他社でも通用することを実感し、価値あるものであることに気づいた」など、自己肯定感が上がり、挑戦したいと考えるようになっています。
行動としては「資格取得を目指すようになった」「社内で具体的な提案を行い、新しい施策を検討するようになった」など、自社内での行動変容に貢献していることがわかります。
相互副業実証実験を通じ、送り出した企業の約7割が
副業への不安を払拭できた
今回、送り出す企業側にも意識の変化が見られました。今回、副業者の上司にあたる方へアンケートを実施したところ、本業とのバランスや多忙に伴う体調管理など、不安を抱いていた点についての懸念が解消されたことが明らかになりました。
さらに、約9割の上司が「期待通り・期待以上の成果があった」と答えています。具体的には、部下の視野が広がったことや、本人の企画力の向上、自信の獲得に寄与したと答えています。さらに、約8割の組織で副業を経験した社員の意識変化、そして約7割の組織で行動の変化が見られたとの報告がありました。
相互副業実証実験が社員へ「我々はもっと越境していいのだ」
というメッセージになった
未経験者が半数を超えた背景として、大胆な仮説かもしれませんが、副業の条件である3か月、月額報酬10万円未満というのが功を奏したのではないか、という意見もコンソーシアムの中でありました。つまり、すでに外で稼ぐ力をもった方々からすると「割に合わない案件」に映ったのではないかという仮説です。今後も未経験者に体験してもらいやすい仕組みについては科学していきたいと思っています。
従来の業務委託契約にはない特徴として、業務の成果や姿勢について受け入れ企業から副業者に対してフィードバックを行うことを徹底しましたが、これも副業者の成長実感に大きく寄与していることが明確になりました。
また、約半数の組織で送り出していないメンバーにも好影響があったとの報告がありました。具体的には「外部との交流を通じて、保守的な組織風土に風穴を開けた」「新たなことにチャレンジする姿勢」が見られた、とおっしゃっていました。一部には「(副業者が多忙になったため)業務を依頼しにくくなった」といった声もありましたが、おおむね好意的な回答でした。
各社で相互副業の窓口となった人事の方に聞いたアンケートでは、約7割の企業が満足したと回答しました。満足度が低かった企業では、思ったほど社員を送り出せなかったケースが見られました。
また、年々、各社内で公開する副業案件数が増えている中で、会社が主体的に社員に対して積極的に副業・越境の機会提供をしているという形になっているため、「我々はもっと越境していいのだ」というメッセージにもなり、機会提供をしてくれている自社への好感度の上昇や主体的な越境をする企業文化の醸成に一役買っているという声も複数の方からいただいています。
今後は、案件の切り出しで難航してしまうプロセスの改善や、案件が人事部門に集中していることから脱し、さらに相互副業を促進するための取り組みを模索していきます。
数字で分析する相互副業実証実験:調査概要
報告:一橋大学CFO教育研究センター長 一橋大学 名誉教授 商学博士 宮崎 将
今回、我々は副業を経験された方へ実証実験の前後にわたりアセスメントを実施しました。そこではキャリア資産と、キャリア自律状況の2点を分析しています。
「キャリア資産診断」は、法政大学教授の田中研之輔先生にご監修いただき、3つの軸で15項目にわたり構成要素を定量化したものです。すでに市場で1万件程度のデータを取っていますので、それと比較して相互副業実証実験に参加された皆さまを診断しています。
キャリア自律度は、7つの項目にわたりキャリアオーナーシップの度合いを診断させていただいています。ポイントとして、このアセスメントは能力を測るものではなく、再現性のある資質を見るものです。
数字で分析する相互副業実証実験:調査結果
まず、キャリア資産のパートで相互副業実証実験を行う「前」の調査をお伝えしたいと思います。図の内側にあるオレンジ色が、市場の平均で、青いチャートが今回の実証実験の経験者です。これをご覧いただくと、そもそもキャリア意欲が高い、優秀な方が多かったことがわかります。
特に、アイデンティティ、プロジェクトマネジメント、自己納得感の3点において高いスコアが出ていることがわかります。逆に、テクニカルスキルは市場平均と比べたときに相対的な差が小さかったといえます。
上の図が、実証実験「後」のデータです。特に、テクニカルスキルとネットワークのスコアが上昇しました。すでに市場平均よりもテクニカルスキルを持っている方が参加しているにもかかわらず、さらにスコアが上昇したことが特徴的です。また、人と繋がることでネットワークのスコアが上昇するのは、納得しやすいところかと思います。
続いて、キャリア自律度の結果を見てみましょう。
キャリア自律度については、心理面・行動面ともにスコアが上がりました。実証前からこちらもスコアが高い方が参加されたうえで、さらに向上されることがわかりました。特に「職業的自己イメージの明確さ」「職場環境変化への適応行動」「ネットワーク行動」においてスコアが大きく上昇したといえます。
数字で分析する相互副業実証実験を踏まえた考察
ここで、簡単に考察を加えさせていただきます。副業という言葉と越境学習という言葉が、今回混ざっています。しかし、越境学習では「持ち帰り」まで想定されています。行ってらっしゃい、までは考えられていても、終わったあとに振り返りができていますか、という問いがあるかと思います。
一般的な副業では、キャリアオーナーシップに寄与するものの「組織エンゲージメント」には繋がりにくいと言われています。
しかし、相互副業であれば、以下の効用が見られました。
1. 自社環境を見直せる:
隣の芝生は青そうに見えたが、実は自社の芝生も青かったと気付くことができ、自社への満足度が上がり「副業を経験しても辞めない」現象に繋がりやすい
2. 自身の力試し:
自分の経験が社会でどう通用するかを試し、成長を実感できる
3. 社外経験を自社で活かす:
副業で得た気づきを自社でどう活かすかを持ち帰り、社内で反映する機会を持つことにより、自己効力感を上げつつ、メンバーにも好影響がある
相互副業、すなわち越境体験においてはこれらを念頭に置いていただけると、さらなる事業貢献が見られるのではないかと思います。